第3話 意外とイケちゃった

『意外とイケた』


イケてしまった。自分でもビックリだ。ちなみに、精霊に味覚はないので味は不明。


とは言え、ウルフをそのままバリバリ食べるとかじゃなく、ウルフの中にあったマナを吸い尽くしたって感じ。体内に残ったウルフは、そのままペッとした。放っておけば他の魔獣が食べると思う。捌いてないから分からないけど、魔石の中のマナは吸い尽くしたと思う。


次は、そのまま取り込むのではなくて魔石だけを取り出して食べてみる。


魔獣の解体方法も何故か知識の中に入っているんだけど、ユージュリアは一体何の本を読んだんだろう…?


触手を使ってウルフを捕獲。ここからは『魔法』を使う。精霊はマナを自分の手足のように扱える。なので、実は自分でマナ塊を作ることも可能なんだけど、自然に集まったものの方が質が高いんだよね、何故か。素人が握ったオニギリと、専門店のオニギリくらいの違いがある。


マナと元素力は結びつきやすく、イメージすれば様々な魔法が扱えるのだ。


触手の一つに風魔法を纏わせて薄い刃を作り出す。もう一つの触手で切った場所を洗い流しつつ魔石を取り出してみた。


魔石の大きさには個体差があって、このウルフは赤ちゃんの手の平くらいの魔石を持っていた。色が薄青いのは水辺の近くに住んでいたからかな?濃縮されたマナとうっすら水の元素力が入っているのがわかる。


バッカルコーンで綺麗に水洗いしてから取り込んでみると、魔石からシュワシュワとマナが滲み出てくるのがわかった。うん、想像通り飴みたいだ。マナを吸い尽くした魔石は薄灰色の水晶みたいになって残った。


気になって全身を取り込んで吸ったウルフの魔石を取り出すと、こっちも同じくらいの大きさの魔石で色を失っていた。吸った感じも同じくらいだ。


『気は進まないけど、急ぎの時は全身取り込んでペッてした方が早そうだね』


こうして検証に夢中になっている間にも、ヒトと魔獣の戦いは続いている。ちょっと食事に夢中になっていたよね。とりあえず魔物寄せ香に水を掛けてから風を使って散らしておいた。臭いが薄くなればこれ以上魔獣が寄ってくることもないだろう。


魔獣も捕食対象になると分かると、途端に全部が食料に見えてくる。ゲンキンなものだ。


魔獣の群れは目の前のヒトというご馳走に夢中で、ワタシの存在には気付いていない。一匹ずつ確実にチューチューしながら数を減らしていく。


それにしても…精霊がマナをエサにするものとは言え、魔獣をエサにしているワタシは果たして精霊と言えるんだろうか??良いのかな、コレ。怒られない?大丈夫?まぁ、最初からフリョウヒンだったから今更かなぁ?そもそもクリオネって流氷の下でミジンウキマイマイしか食べない貝の仲間だもんね。森の中で空を飛んでる時点でオカシイんだから今更だね。うん。


そうこうしているウチに魔獣の数はどんどん減っていく。流石に異変に気づいたらしいヒトとウルフ達だったけど、ヒトの方はコレをチャンスと思ったらしく一気にウルフを倒しにかかった。


その隙に、更に何匹か捕食すれば後は彼らだけで大丈夫なはず。最後の情けで、怪我人を軽く治療してその場から離れた。


『うむうむ!ヒト助けは気分がいいなぁ!』


最後まで付き合ったわけではないけれど、何となく良いことをした気分でフワフワと木々の間を飛ぶ。


『そういえば、何処となく身体が大きくなった…かも?』


普段はマナ塊か精霊の卵を食べているのだけど、それよりもマナの濃い魔石を食べたワタシは精霊として少し成長したみたいだ。


『うーん、魔獣も食べた方が成長早そうだな』


今日はもうたくさん食べている。なので、明日からは魔獣も積極的に食べていこうと心に誓ったのだった。


* * * * * * *


『うぎゃーーーーー!!!!!』


ワタシは今、必死に逃げまどっている。


と、言うのも…



『お、ウルフみ〜〜っけ!』


ヒト助けの時に魔獣のマナを吸うことを覚えたワタシは、魔獣も食事の対象にしていた。


その日も魔獣を見つけたので、バッカルコーンを駆使して魔獣を捕獲。ちぅちぅとマナを吸っていた。


【あっ!なんか変なヤツがいる!!!】


突然、頭の上から子供のような声が聞こえたかと思うとガサガサガサッという音と共に真っ白でフワフワな子犬のような獣が落ちてきたのだ。


『…ん???子犬???』


吸い終わった魔獣をペッとして子犬を見ると、子犬はワタシを興味深そうな目で見つめていた。そういえば、こうして生き物に見つめられるって初めてだなぁ〜なんて呑気に考えていたら


【変なヤツ!精霊みたいだけど精霊っぽくないヤツ!森の王の息子であるこのボクがタイジしてやる!!】

『…はい?』


ちょっと待ってと言う間もなく、子犬が襲いかかってきた。どうやら魔法を使うらしく、風を体に纏わせている。


慌てて避けたが、身体にピリッとした痛みを感じた。この身体になって初めての痛みに、危険を感じた。


その場から飛び上がるが、子犬も同じように飛んでくる。勢いよく飛び掛かってくるので、必死に避けつつ逃げたけど、子犬もずっと着いてくる。


『もぉーーーーーっっ!!!!なんなのーーーーー!!!!!』


木々の間を縫うように逃げるが、それでも子犬は着いてくる。もう、いっその事迎え撃ってみようか?


直角に曲がってから子犬を待ち構える。相手は風魔法を纏っているけれど、こっちだって魔法くらい使えるもんね!


水と風を操って霧を発生させる。


【うわわわ!前が見えない!!】


子犬は風で霧を晴らそうとしているけれど、ワタシの魔法の方が上なのか霧がフワリと動くだけだ。子犬からコチラは見えていないけど、ワタシからは丸見え。


『くらえ!バッカルコーン!!』


アワアワしている子犬に向かって触手を伸ばし、動きを封じる。子犬の方も風魔法で触手を切り裂こうとしているけど、マナで覆われた触手に傷は付かない。


『まったく…どこから出てきたんだろ』


触手の中で暴れる子犬をどうしようか考える。あっ、噛んだ。


試しに体内に取り込んで少しずつマナを吸ってみた。これまでに何体もウルフを取り込んできたので、吸う加減も出来るようになったのだ。マナを吸われた獣は徐々に元気をなくしていく。ウルフよりも時間は掛かったけれど、この子犬もようやく大人しくなった。


体内から取り出して風で作った檻に放り込む。


子犬が居るってことは、親も居るって事だよね?言葉を使っていたから、魔獣じゃなくてもっと知恵のある獣なんだと思うけど…流石に文句くらい言っても良いよね。こっちは襲われたんだし。


この子犬が何種なのかは知らないけど、話が通じるなら苦情を入れたいし、通じないなら力でだけだ。まずは親犬を探さないと。


無駄にフワフワ飛んでも見つからないと思ったので、探索魔法を使ってみる。一言でマナといっても、実は生き物の体内にあるマナというのはそれぞれに特徴がある。それこそ指紋のようになっていて、ワタシはこれを魔紋と呼んでいる。この魔紋は親兄弟には共通した特徴があり、それを辿れば家族や一族を探すことも出来るのだ。


子犬の魔紋を解析して、似たものを探してみる。すると、精霊が多く住む場所よりも更に奥で反応があった。


彼らにとって捕食対象となるフリョウヒンなワタシが、あえて近寄らなかった場所だ。


彼らから逃げ回った日々が思い起こされる。


若干トラウマ化してるけど…今ならきっと大丈夫なはず!

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