第2話 クリオネ生活満喫中

ワタシが目覚めてからどれくらい経っただろう?


りんご大だった身体は、りんご3つ分まで成長していた。


食事内容はマナ塊が殆どだけど、それだけだと足りなくて今はフリョウヒンを含んだ精霊の卵も捕食している。


ご飯エサを食べるために日々マナ塊になりそうなマナを観察していて気が付いたんだけど、マナ塊が極限まで育つと『精霊の卵』になるらしい。その卵が、森の中でも自然力の強い場所で『元素力』と呼ばれるマナとは違う力を吸収することで、元素精霊として産まれてくる。水場なら水の精霊、土の中なら土の精霊って感じにね。卵が孵る時間はどれも同じで、それまでに吸える元素力の多さでヒト型になるかフリョウヒンになるかが決まるみたいだった。


つまり、マナと元素力の溜まり具合を見ればフリョウヒンを狙って捕食する事も可能だし、何なら生まれる直前の卵をまるっと捕食すれば効率が更に上がる事に気付いたんだよね。


この森は精霊が生まれやすいらしく、毎日何処かで精霊の卵が見つけられる。それでも、ワタシが全て食べ尽くすのは良くないと思ったから、完璧な卵を食べるのは2日に一度にしてあとはマナ塊とフリョウヒンになりそうなものを選んで食べてる。


『バッカルコーン!…もぐ…今日は水の元素強めだね』


いちいちバッカルコーンと言わなくても良いんだけど、何となく言いたくなるんだよね。バッカルコーン。なんか技名みたいだし?


『…もしヒト型になったら、バッカルコーン無くなっちゃうのかな?それとも頭が割れて…ヒェ…怖…』


ヒトの頭がガバッと開くのを想像して、ちょっと怖い想像をしてプルプルしてしまった。なんか、そういう映画とか漫画とかあったよね。


ガサガサッ


草を踏みしめる音がしたので下を見ると、魔獣の群れが移動していくのが見えた。あれはフォレストウルフかな?狼型の魔獣だ。5匹くらいが集まって移動しているけど、エサを探しているというより何かを目指しているような進み方だった。


この森には様々な魔獣がいる。その中でもよく見かけるのがフォレストウルフだ。それ以外だと、森熊と森猪かな?この2種はすごく大きくて怖い。ウルフ達を食べたりするので、見つけたらそっと離れるようにしている。襲われるからというより、お食事場面はあんまり見たくないから。そうそう、まだ見たことはないけれど、ゴブリンやオークといった魔物もいるみたい。


『…どこに行くんだろ』


何となく気になったので、オオカミ達の真上を飛んで後をつけることに。すると、なにやら騒がしい音と不快な臭いが漂ってきた。


『魔獣寄せの香?』


ふと、そんな言葉が出てきた。


アースゼアでは魔物退治でお金を稼ぐ『討伐者』、未知の遺跡やダンジョンを探索する『探索者』、薬草や武器防具用の素材を収集する『収集者』といった職業に就くヒトが多く、彼らを総じて『冒険者』と呼ぶ。そんな冒険者が使う道具の中には、魔物を引き寄せる『魔獣寄せの香』というお香があるのだ。


臭いを嗅いだ魔獣が引き寄せられるので、探す手間を省きたい時に使われる。但し、どれ程の魔獣が集まるかは不明なので、戦力に自信があるパーティや引き寄せられる魔獣の数が予測できるような場所で使わないと、途端に生命の危険に晒される諸刃の剣でもある。


そろそろ臭いの元に着きそうだ。お香が焚かれているのは冒険者が野営をするために切り開いた場所らしい。そこだけポッカリと木々がなく拓けた土地になっている。


装飾の立派な馬車があり、馬車を護るように鎧を着た何人かのヒトが魔獣と戦っているのが見えた。中には傷付いて倒れているヒトの姿も見えて、ワザと魔獣を寄せているというよりは普通に襲われているような雰囲気だ。


馬車の近くに寄ると、ヒト達の焦った声が聞こえてくる。


【クソッ…このままでは…!】

【ここは安全な場所だと聞いていたのに!】

【一体何が起きてるんだ…?】

【おい、しっかりしろ!】

【とにかく、一匹でも多く倒して王子をお護りするんだ!】


彼等はお香の存在に気が付いていないようだ。このまま臭いが出続ければ、彼等は馬車ごと魔獣の餌食になるだろう。お香の発生源は…馬車の近くにある焚き火跡からみたい。ここから出た臭いが風に乗って漂っているんだね。


普通の精霊ならそのまま立ち去るだろう。けど、ワタシはフリョウヒン。ヒトの心と知識を持ったクリオネ精霊なのだ。善人ぶるつもりは無いけれど、ここで見捨てるなんて選択肢は持っていない。それに、普通にあとからモヤモヤしそうだし!


よーーーーし、ヒト助けしちゃいますか!


さて、ここで気になったのが


精霊は魔獣を食べられるの?


という事。普通の精霊よりヒトに近い考えなので、お肉とかお魚とかへの食欲もちゃんと残っている。魔獣って食べたら害になりそうなイメージはあるけれど、奴らは体内に『魔石』という高純度のマナ結晶を持っているのだ。


マナ塊が食事になるなら、魔石だって食事に出来そう…ってのは柚子の考え方で、精霊にもユージュリアにもその発想は無い。そもそも、実体のあるものを触れたり食べたり出来るのかも不明だ。飴みたいに口に入れてマナだけ吸える可能性もあるんじゃないかと考えたら、試してみたくて仕方がなくなった。


ものは試し!とばかりに、一番後ろにいるウルフに狙いを定めた。


『まずは、アイツの動きを止める…バッカルコーン!!』


後ろからバッカルコーンを伸ばして、ウルフの体を拘束してみる。これで触れなかったら魔石のありそうな部分にバッカルコーンしてみようと思ったのだけど、ちゃんと触手はウルフに触れることが出来た。


ちゃんと口も塞いで、他のウルフにバレないようにしたワタシってば天才。


そのままズルズルと森の中に引きずり込んで…あれ、ここからどうしよう?


触手からマナが吸えないかなって思ったけど、流石にそこまで高性能ではなかった。うーんうーん…取り敢えず


触れるならマナ塊みたいに取り込めるかも!と、そのまま口に放り込む。…うぐぐ…これは…

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