第16話 ご飯はお預けです!!
『ちくしょぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!』
ワタシは床に伏せて悲しみに暮れている。
『やっぱり、長いこと培養液の中で放置していたから、体組織が保たなかったのね』
『ふむ…スケルトンとも少し違いますね』
『基礎骨格はマナニウム合金っていう古の時代の特殊金属なの。実際のヒトの身体と限りなく近い造形にしつつ強度を高めてあるのよ』
『なるほど…この管は?』
『これは魔輸液を通す管ね。ヒトの血液のようなもので、液体化したマナニウムを循環させることでマナの伝達率を上げて魔核からの指令伝達を容易にしてあるのよ。こっちは魔髄液で、各身体組織の栄養といったところかしら』
ルノとエリスは、残った人造人間の残骸を前にしてアレコレと話している。
さて、一体何が起きたのか?
『培養液を排出するわよ!』
エリスがパネルを操作して水槽内の培養液を排出させる。肉体との連携はうまくいったらしく、水槽内では目をパチクリとさせた少女がぎこちなく手をひらひらさせていた。
培養液がすべて排出されると同時に、少女の体をつなぐ管も抜かれ、肉体に慣れないユージュはその場にペタリと座り込んだ。
ここまではエリスにも予想済み。水槽を開いたらルノがユージュを運ぶ予定だったのだが…その肉体は空気に触れた途端、ホロホロと崩れていったのだ。骨格だけを残して。
エリスによれば、長年放置された結果、体組織が脆くなり外気に触れた刺激で崩壊したのだろう…とのことだった。ちなみに、骨格だけなら動かせたので、問題があったのは体組織だけ…という事になる。当然、内臓部分もくずれてしまったので、結局ユージュは味覚を手に入れる事が叶わなかった事になる。
『こんなのって…こんなのって…』
ウキウキと身体の中に入ったのに、残ったのはアルミのような色と質感の骨だけ。見た目はアレだが、ちゃんと動かせるというのも相まってユージュはその場で膝をついて床を叩きながら悔しがっていた。
『んー、骨格との相性は良さそうなのよね。強度なら申し分ないし外装を整えれば十分過ぎるくらいいい人形が作れそうよ』
「なるほど、北の地にも耐えられますか?」
『そうね、魔髄液も魔輸液も不凍液だしマナ伝導率のいいモノを使うから、ユージュ次第では氷龍のブレスにも耐えられるかもね』
「なるほど。では外装は…で……を………」
『それよりも……を………したほうが………』
二人が何やら話しているけど、ワタシは悲しむので精一杯。スケルトンみたいな姿のままなのは悔しいから身体からニュルンと出て床をビチビチと叩いている。
ごはん…おにく…おさかな…すいーつ…
うぅ、味は何となく思い出せるのに味わうことが出来ないなんて!
『では、そのように』
ワタシが床に八つ当たりしている間に、話は終わったみたい。
ルノが残った骨格をヨイショと運んでいるけど…あれ、精霊石外さないの??
「相談した結果、精霊石との相性が良さそうなので利用することにしました」
なんですと?
このまま外装をエリスに作ってもらうんだって。へー。
「見た目の希望はありますか?」
なんでもいいよ、ユージュリアの身体に入るまでの繋ぎなんだからさ。
エリスが乳白色の粘土みたいなものを捏ねている。どうやらアレが外装になるらしい。
ボケっとしながら人形が出来上がるのを眺める。お腹に何やら取り付けてるけど、なんだろ?武器?
『まぁ、出来てからのお楽しみよ』
さよか。
投げやりになっていたワタシだったけど、出来上がった人形は何と言うか…美少女だね?
白銀の髪に色白な肌。目鼻立ちは整っているけど完全な外国人顔というよりは少し日本人っぽい。
『それじゃ、さっきのようにやってみてくれる?』
やる気はすっかりなくなっていたけど、とりあえず言われた通りにシュルンと精霊石に戻って、身体全体にマナを広げる。しばらくすると、自分が肉体を得たような感覚になった。
「…ぁ……ぁー、あー」
手足を動かして声を出してみる。精霊になる前はちゃんと身体があったはずなのに、今は身体があるのが何だか不思議。
『うん、ちゃんと発声も出来ているわね。あとは…身体の動かし方はわかる?』
「えーと…よい…しょ…と」
思ったよりも身体が軽くてよろけたけど、何とか立ち上がれた。
『うん、問題無さそうね。…はー、これで依頼は完了ってとこねー』
「あ…りがと……い…依頼??」
むむ、声を出し慣れていないからか話し方が不自然になってしまう。これに関しては慣れるしかないね。というか、依頼って何のこと??
『あら、ギルド長に依頼したでしょ?腕のいい人形師探してるって』
「え、な…んで…っ、ま…さか?!」
『はーい、私がお探しの人形師でーす!』
「はぁぁぁ?!」
ちょっと!探し人ここにいたじゃん!!!!ってか、ギルド長と繋がってんのか!!!
「騙さ…れた感、がすご…い」
何ていうの?ほんと、騙された。もはや最初から仕組まれてたとしか思えませんね!!!
『あら、ここまで辿り着けたらちゃんと名乗る予定だったのよ?…面白そうだったから言わなかっただけで』
「ひどい」
ひどい。
『だって、なんかキモチワルイ攻撃してくるし!』
それは…まぁ、バッカルコーンだから仕方ないよね?むしろご褒美でしょ、バッカルコーンだよ?
『まぁ、普通の冒険者ならさっさと帰ってもらってたけどアナタ達なら色々してあげても良いかなって思ったのよ。人造人間の事もあったしね』
崩壊したけどね、ズブズブに。…ぴぇん。
『まぁまぁ、北の地にはホンモノの身体があるんでしょ?そこまで一気に行けるだけの人形にはしてあるから安心してよ』
「ふぐぅ……」
ご飯食べる気満々だったワタシは、ベソベソと泣いている。涙は出ないけど。まぁ、このまましょげていても仕方ない。こうなったらユージュリアの身体の確保を最優先にするしかないよね!
「そうだ、こ…の身体だと、バッカルコーン…はどこ…から出るんだろう…」
手をワキワキと動かしつつ、そういえば…と思い出す。バッカルコーンはワタシのアイデンティティだからね。
「んー、むむむむむむむ」
バッカルコーンを出そうとするけど、どうにもイメージが出来ない。どこから出してもホラーでしかないから、いまいち決められないのだ。
「あ、そうだ」
ピコーーーーンと閃きましたよ!!
身体を操作して手のひらにマナを集めていく。そして―
「出でよ!分身!」
口に出す必要はないけど、ノリで叫ぶと、手のひらに1体のクリオネが出現して、ワタシの周りをクルクルと踊っている。
『あら、面白い魔法ね』
「これは…?」
二人が踊るクリオネをじっと見つめている。
「ふっふーーん。これ…はワタシの分身だよ!この子…にマナを、吸わせる…んだぁ」
分身とワタシは繋がっているから、分身がバッカルコーンすればワタシにマナが送られるって事になる。これぞ、
「それ…じゃ、行こう、か」
エリスの指導のもと、身体の動かし方を一通り学んだワタシ。言葉はまだ出しにくいけど、動きはヒトと遜色なくなっている。流石に戦うのは無理だけど、ワタシには魔法があるし疲れないから問題なし。人形ボディは耐久性もバツグンで、オオカミ型になったルノに噛まれても傷一つ付かなかった。服はエリスが一着だけ譲ってくれたけど、道中の事を考えて冒険者用の服を買う事にした。
迷宮の宝箱みたいに、武器や防具類を出せないの?と聞いたら
『出せるけど、あれって結構マナを消費するのよね』
との事だった。それならその分のマナを供給しようか?と提案したが『出来れば街にあるお店の品を買ってあげて欲しいの。私もお世話になってるから』と言うので、街に立ち寄る事にしたのだ。どちらにせよ、ギルドへの報告も必要だろうし。
それもそうか。一人が何でも出来ちゃったら他の人の仕事の枠が無くなるし本人も忙しくて大変になるもんね。
そんな話をしつつ、ついでに用事を済ませると言うエリスと共に迷宮の外へと出たのだった。
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