第17話 チートは遠慮なく使う方向で
「無事に職人と出会えたようで安心しました」
冒険者ギルドへ報告に行くと、ギルド長グラドがニコリとしながら言った。職人…というのはエリスの事だ。
「ヒトが…悪いよ、ね」
「全く同感です。消しますか?」
『ちょっと、物騒な話しないでくれる?!』
「冗談…だよ」
「私は本気ですがね」
「ヒッ」
グラドが青い顔をして姿勢を正している。そんな事しないから安心して欲しい。…たぶん。
「なるほど、北の地へ向かわれるのですね」
これからどうするかと聞かれたので、ユージュリアの事は伏せつつ北を目指しているのだと説明をする。
「北の地へ立ち入るには神獣をも阻むという高い山脈を越えねばならぬと聞き及んでおりますが…」
「うむ。全力で駆ければ走破出来なくもないだろうが、我が君をお連れするなら確実な方法を取りたい。北の地へ向かう商隊があると聞いたのだが知らないか?」
「ユグドラシル商隊の事ですね。最後にこの街に来たのは半年ほど前になりますから…他のギルドに見かけた者が居ないか問い合わせてみましょう」
「うむ、よろしく頼む」
冒険者ギルドには世界中のギルドと繋がる専用の通信魔動機があり、それを使って問い合わせをしてくれる事になった。ワタシとしては早く出発したかったんだけど、情報を集めてから出発したほうが良いだろうって事になり、滞在を延ばした。
待っている間は暇なので、人形迷宮で拾ったモノを売ったりエリスと一緒に迷宮の魔物を造ったりして過ごした。
「なぁ、最近の迷宮って攻略が難しくなってないか?」
「攻撃手順が変わってきてるんだろ?一体何が起きたんだ」
「下層攻略組が中層までしか到達できなくなってるらしい」
「そんなに?!」
「幸い、死者が出るほどではないんだが…中層のボスに攻撃方法を尽く無力化されてどうにも進めないようだ」
街の酒場で冒険者達が噂話に花を咲かせている。
「…ふふっ」
その内容を聞いて、思わずニンマリとしてしまった。
冒険者達を悩ませる中層のボス。それは…
「どうやら、ダイコンみたいな人形があらゆるモノを食い尽くしちまうらしい。殴っても、中身が綿なのか全然効果がなくて攻めあぐねている内に触手を伸ばされて動けなくされるんだと」
「ダイコン?なんだそれ、そんな魔物聞いたこともないぞ」
「だから変だってんだよ。ギルド長にも話はいってるんだが『冒険者達が死なぬなら問題はないだろう?』の一点張りだと」
「そりゃそうだけどよぉ…」
ダイコンだなんて失礼な!アレはワタシを模した可愛いクリオネ天使ちゃんなのに!!!
「これで、エリスもしばらくは安心できそうですね」
「…ダイコンじゃ無いんだけどなぁ」
大昔にいた人形遣いの人形にして迷宮の主になったエリス。人形迷宮の最下層には彼女と彼女のゴシュジンサマが最後に暮らしていた研究所が今も残されている。最近の冒険者達の強さに、いつ最下層まで到達されるかと不安に思っていたエリスの為にワタシとルノが一肌脱いだってワケ。
ちなみに、ギルド長は迷宮の最下層の事もエリスの事も把握していて無闇に冒険者達を立ち入らせない為に各層の入場制限を設定したらしい。それでも、中に入ってしまえばルールを無視して最下層まで行くことも出来ちゃうので、中層と上層に番人を置くことにしたのだ。中層にはワタシを模したクリオネ天使ちゃん、上層にはルノを模した白狼を配置。魔物を造る為のマナはワタシ達が提供したからそれなりに強い魔物になった。
ルノは最初、ワタシの天使ちゃんを上層に配置すべきと言っていたんだけど、ルノだと加減が出来なくて冒険者達を死なせちゃう可能性もあったからね。無力化が得意なワタシが中層に配置され、触手でマナを減らされて動けなくなった冒険者達を地上に出る転移陣にポイポイするようにしてあるのだ。
他にも、各層で出現する罠や魔物の行動パターンを増やして踏破を難しくしておいた。
なるべく死者を出さないように意識したので『死にはしないけど攻略が難しくなった』と評されるようになったというワケ。
迷宮の主であるエリスは
『マナの吸収効率が物凄く上がったわ!』
と大喜びだった。この身体を譲ってもらった恩もあるし、この調子で頑張ってもらいたい。
そんな感じでエリスとお喋りしたり周辺を散策したり、身体を動かす訓練をして過ごしているとギルドから情報が集まったという連絡をもらった。
「ユグドラシル商隊は現在北へ向かって移動しているようですね」
各国にあるギルドからの目撃情報を時系列でまとめた結果、彼らは徐々に北へと移動しているのがわかった。ギルド長曰く、そろそろ北の地へ行くのでは?という話だったので、最後に彼らが目撃された北東にあるグージョウ国へ向かうことにした。
「ルノ様、ユージュ様、これはギルド長認定バッヂです。これがあれば優先的に他のギルド長への面会が出来ますし絡まれることも少ないでしょう。旅のお役に立てればと」
グージョウ国へ向かおうとしていたワタシ達に、グラドが綺麗なピンバッジをくれた。冒険者ギルドの紋章と小さな魔石があしらわれたものだ。微かなマナを感じるので魔導具なのかな?
「所有者登録がされていますので、たとえ盗品や偽物だのと云われても、お二人が所有者だと分かるようになっております」
「へぇ〜」
まぁ、便利そうだし胸元にでも付けておこう。
そんなワタシの首には、冒険者証が下げられている。これもグラドが用意してくれたものだ。公にはされてないけど、人形迷宮の踏破記録もキチンと刻まれていて、ワタシも能力のある冒険者だという証明にもなっている。見た目は美少女だけどね!
『気を付けてね。困った事があったら、いつでも連絡してちょうだい』
「うん、ありがとう。エリスも元気でね」
『ふふっ、そうね。冒険者に倒されないように気をつけるわ』
エリスと別れの挨拶を交わし、ワタシは黒髪の男性に抱え上げられた。お察しの通り、正体は男性化したルノ。女ふたり旅だと舐められるというのと、ワタシを抱えた女性姿のルノを客観的に見た時に『これはナシ』ってなったから。男性姿のルノは無骨な男性騎士風イケメンだった。…最初からコッチのほうが良かったとかは言わない。言わないよ。
「それじゃ、グージョウ国へ向かって…しゅっぱーつ!」
ルノがトンッと足で地面を蹴る。
フワリと身体が浮いたかと思うと、眼下に見えたキューゲッチュの街はあっという間に小さくなっていった。
空を飛んでいるわけではなく、とんでもない高さのジャンプで移動している。時々、背の高い木の枝や魔法で作り出した足場を使いながらいくつかの街や村を通り過ぎていく。見たことのない魔獣は気になるけど、今はユグドラシル商隊に追いつきたいので昼夜を問わずに移動。
ヒトの足だと一週間は掛かると言われた距離を1日で踏破。国境を越えて、ワタシ達はいよいよグージョウ国へと足を踏み入れた。
国境には街があり、そこでユグドラシル商隊の情報を集めることにした。
徐々に北上しているからか、街ゆくヒトの格好が少しずつモコモコしていく。獣人も冬毛っぽくなっているし、毛深い種族が増えているのも面白かった。
露店には風よけが掛けられていて、ホカホカとした蒸気が各店から立ち上っている。店をのぞくと、温かそうなスープや麺類を売る店が多いように思えた。ココアのような飲み物も見つけたので、心の中のノートにメモをしておく。味覚を手に入れたらもう一度ここに来ようっと。
「ユグドラシル商隊の行く先がわかりました」
どうやら、ユグドラシル商隊とすれ違った冒険者がいたらしい。彼等によれば、商隊はハチマーンという街に向かっているらしい。
目的地が徐々に近付いていた感じに、ワタシはワクワクとするのだった。
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