幕間 ロックオン
「大丈夫?」
「……あんま大丈夫じゃないけど大丈夫」
ラーメンを食べ終え、美鈴は少年を連れて外に出る。
程よい満腹感に包まれご満悦な美鈴とは対照に、少年の方は顔面を蒼白に染めていた。
その原因は、彼女が食べきれなかったラーメンを『……残すのは良くないから』と言って、少年が無理矢理全部食べたからである。
「じゃあね、しおっち!今日のことマジ感謝してるから。今度会ったらまた別のラーメン奢ってあげる」
「……うっぷ、会うことがあったらね。バイバイ」
(あはは、悪いことしちゃったなぁ)
ふらふらと頼りない足取りで遠ざかっていく少年の姿を見て、美鈴は思わず苦笑い。
少々、強引なことをしてしまったと己の行いを反省した。
「まぁ、でもあんなことがあったらしゃーないよね」
だが、それもほんの僅かなこと。
悪いことをしたとは思っているがあれは必要なことだった。
美鈴はすぐに開き直り、バイクが倒れている事故現場へ向かう。
「皆さんお勤めごくろさまでーす。ねぇねぇ、調査の結果はどんな感じ?タイチョー?」
美鈴は立ち入り禁止のテープを無視して、警察官達と混ざるように札を持って何やら調べている袴を着た目つきの悪い男に声を掛けた。
「安倍!お前今までどこほっつき歩いてたんだ!?『なんか、除霊終わったから後よろ』って!なんかってなんだよ!?ちゃんと報告しろや!そのせいで、わざわざ俺が状況確認しなきゃいけなくなっただろうが!」
「あーごめんごめん。ちょっとあーしにも何が起きてるのかよく分かんなくてさぁ。報告がテキトーになっちった。すまそーりー」
美鈴を見た瞬間、怒声を上げる男に美鈴は本当に申し訳ないと手を合わせ謝る。
「すまそーりーじゃねぇよ!これだから最近の若い奴は仕事に責任感ってものがなくて困る。仕事は遊びじゃんねぇんだよ!」
しかし、美鈴が軽い調子で謝ったせいか反省してないと思われたのだろう。
男の怒声は続いた。
正当な判断に基づいたものなら、美鈴は何も言わなかっただろう。
だが、想像の勝手な押し付けで美鈴が仕事をしていないと言われるのは心外だった。
不満気に頬をぷくっと膨らませ美鈴は男に反論の声を上げる。
「あっ、それは聞き捨てならないなぁ。ちゃんと私だって仕事してたんですけど〜?」
「ラーメン食うのが仕事なわけねぇだろ!にんにく臭ぇわ」
「あ〜ひど〜い!女の子に臭いとかいっちゃっだめ!だから、四十過ぎても童貞で楽に恋人もいないんだよ!」
「余計なお世話だ!もうそろそろ運命の相手に出会う予定だかはいいんだよ。で、仕事をしてきたってんなら何してたんだお前は。ラーメンについて語り出したら殺すからな」
美鈴のことを親に甘やかされてきた世間知らずなお嬢様だとでも思ってるのだろう。
胡散臭そうな目をして男は顎をしゃくって話せと促してきた。
「そんなことするわけないじゃん。あーしは時と場を弁えられる大人の立派なレディなんだから。その耳かぽじってちゃんと聞きなさいよ。くそタイチョ」
そんな男の態度に苛つきながらも、美鈴を報告を始めた。
「呪力持ちの一般人を見つけた。そして、その一般人が今回のターゲットの呪霊を討伐した。あーしがこの目でしっかり見たから間違いない」
「は?いやいや、あり得ない。そんな馬鹿な話があるか!嘘をつくのならもっとマトモな嘘をつけ!」
「本当だもん」
予想通り男は美鈴の報告を聞いて狼狽えた。
何故ならこの男の言う通り、美鈴が今語ったのは荒唐無稽な話だからだ。
『呪力』
これは古来より陰陽師が持つ不思議な力のことを指す。
呪力を使うことで悪しきものが見えるようになったり、式神を操ったり、結界を貼ったり、何もない空間に炎を生み出したり出来る。
だが、これは誰もが持っているものではなく限られた人間しか持っていない。
それは何故か?
理由は単純明快。
陰陽師の血が流れているかどうかで決まる。
血が流れていなければ知覚も出来ないし使えないが、逆にほんの僅かでも流れていれば呪力を扱うことが可能になる。
一見すれば、簡単な条件に思えるがこれはかなり難しい。
まず、平安時代に陰陽師の多くが呪霊という化け物との戦いで命を落としたため、そもそもの絶対数が少ない。
また、先程説明したが呪力があれば物理的法則を無視した事象起こすことが出来る大変危険な力である。
もし、これを誰彼構わず使えてるようにしてしまえば国が世界が乱れる。
だが、陰陽師がいなければ今もなお生まれ続けている呪霊に対抗出来ない。
こういった背景から、陰陽師は外部へ力が流出しないよう細心の注意を払いながら行動せざるを得ず、数を増やすことが難しかった。
そのため、現代日本には陰陽師の血を引く者は千人程度しかおらず、またその全てを陰陽師協会という組織が管理している。
さて、ここまで話せばもう分かると思うが、呪力を持った人間が突然何もないところから現れるなんて絶対にあり得ないのだ。
だから目の前の男が信じられないのも分かる。
でも、美鈴は見たのだ。
『:=<・=a〆────』
『へ?』
ひったくり犯に憑依していた呪霊をあの少年 双葉紫音が呪力で消し去る衝撃的な光景を。
目を疑った。
あり得ないと思った。
けれど、目の前の結果がどうしようもない事実を物語っていて。
美鈴の好奇心がどうしようもなく疼いた。
『ねぇ、呪力ってどんなことが出来るの?炎以外に何が出せるの?氷?水?石?草?いや、草は生き物だから無理か。あっ、でも召喚術ってのもあるんだよね?じゃあ、生き物もいける?お魚も?豚さんも?人間も?結界の形は変えれないの?ねぇ、教えてお母さん。知りたい知りたい知りたい知りたいの!呪力のこと全部教えて!』
幼い頃、呪力を知ったあの日のように。
(彼は一体何者なんだろう?彼は一体どうして呪力を持っているの?私たちの知らない陰陽師の子孫?あっ、もしかして覚醒遺伝ってやつ?それとも何かしら人体実験の副産物!?呪力の量はこれから増えるのかな?どんな術が使えるのかな?知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい!しおっちのことを全部!)
「てわけで、なんでしおっちが何で呪力を持っているのか調べたいから仕事は暫く休むね。後、しおっちのいる学校へ編入する手続きよろ。タイチョ」
自分の中にある熱に突き動かされるように、美鈴は男へ一方的に言い放ちポッケからとある物を取り出す。
それはとある高校の生徒が持つ学生証。
「今から会うのが楽しみだね〜〜し・お・っ・ち・♡」
そこに貼られている気怠げそうな少年の写真を美鈴は恍惚の眼差しで見つめながら、無邪気にそう呟くのだった。
「……くしゅん。風邪引いたかな?あれ、学生証がない。まぁ、いっか」
あとがき
実は一昨日から風邪引いてました。
そのせいで、体調が優れず昨日は更新が出来ませんでした。申し訳ありません。
花粉死すべし。
ということで、明日からは毎日投稿するつもりなのでよろしくお願いします。
面白い、面白そうだと思ったらフォローレビュー、コメントなどをしていただけると嬉しいです。
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