第22話 魔法と後悔


「はぁはぁ、何とか間に合ったぜ」

「……迷惑かけてごめん」


 大量のスライムを討伐してから三十分後。

 智也と紫音は学校に登校した。

 しかし、二人肩を並べてというわけではなく勿論紫音は背負われて。

 二度のレベルアップによる影響でいつにも増して動けなくなってしまったのである。


「よっこいせぇ!」

「ぐへっ」


 朝のSHRが始まるギリギリに着いたせいで焦った智也に雑に椅子へ落とされる紫音。

 その際に、お尻を強打した紫音はお尻をさすっていると背中をつつかれた。

 後ろを振り向くと満面の笑みを浮かべる美鈴がいた。


「双葉君おはようございます」

「……お、おはよう」

(なんか僕悪いことしたっけ?)


 しかし、笑っているにも関わらず謎の威圧感を放っている美鈴に、紫音は目を逸らし原因を考える。


「……あぁ」


 考えること数秒。

 ようやく閃いた紫音はポンッと手を叩き、筆箱に入っている付箋を取り出した。

 そして、強くなった自分の力に悪戦苦闘しながら文字を書く。

 何とか全て書き終えたところで後ろへ回す。

 それから、数秒後に紫音のスマホが鳴った。


美鈴『残念、不正解でーす!』

紫音『ごめん。じゃあ、よく分かんない。何で怒ってるの?』

美鈴『しおっちが急に私を置いてったからに決まってるでしょ!?ギリギリの時間まで来ないし、なんかあったんじゃないかってずっと心配してたんだからね』

紫音『それはごめん。ちょっと腹とか身体の調子が悪くてさ。急がざるを得なかったんだ』

美鈴『そういうことなら仕方ないけど。困ったらアーシのことも頼ってね。ウチら友達でしょ』

紫音『うん、分かった。ありがとね』


 美鈴ご立腹の原因はどうやら紫音の態度であったらしい。

 何とか穏便に解決することができたが、最後の方は無理だろうなと紫音は苦笑いをする。

 それも仕方ないことだ。

 紫音の抱えているものはおいそれと話せるものではないのだから。

 

(はぁ、何で僕なんかを選ぶかな。神様は?)


 本当に面倒なことになったと紫音が溜息を吐いたところでチャイムが鳴り、長い学校生活が今日も始まった。




「……あの、先生。体調が悪いので休んで良いですか?」


 二限の体育の授業にて。

 体操服に着替え終えた紫音は体育の見学を申し出た。


「双葉。運動が苦手だからやりたくない気持ちは分からんでもないが流石に嘘をつくのは──って!本当に悪そうだな。休んでて良いぞ」

「……ありがとうございます」

 

 そこそこの頻度で授業をサボっていたせいか嘘を疑われたが、杖を支えにプルプルとしている紫音を見て体育教師はすぐに許可を出してくれた。

 紫音は他のメンバー達の邪魔にならないよう体育館の端に移動し座る。

 それからぼーっとしているといつの間にかラジオ体操が終わり、男子はバスケを女子はバレーの試合を始めた。


(暇だ)

 

 ただ、試合が始まったとはいえいつもと大して風景が変わらない。

 すぐ観戦に飽きた紫音は思考を明後日の方にやる。


(そういえば魔法って使えたりするのかな?)


 あれやこれや考えているとふと紫音はそんなことを思いついた。

 現在の紫音はゲームのステータスとリンクしているため理論上魔法や特技も使えるようになっているはずだと考えたのだ。


(今なら体育館裏で使ってもバレないよね)


 普段無気力で面倒ごとを嫌う紫音だが、腐っても男の子。

 魔法が使えるかもしれないと思うと好奇心が抑えきれず、クラス全員の目を盗んで体育館の裏に移動した。


「……一番マシそうなのは『ウォーター』か──」


 そして、周囲に人が居ないのを念入りに確認した後、地面に手を向け覚えている魔法を紫音が口にした途端、バシャン!という音が響いた。

 紫音は恐る恐る顔を下へ向けると、かなりの広範囲が水浸しになっており手を構えていた辺りは少し抉れていた。


「……マジか」


 半信半疑の状態で行ったため、目の前の事態が信じられず茫然とする紫音。

 だが、持ち前の切り替えの速さですぐに正気を取り戻し、すぐ証拠の隠蔽のため思考を巡らせる。

 

(うん、逃げよう)


 コンマ数秒の思考の後、まともに動けない今の紫音では隠蔽することは不可能だと判断し、その場で回れ右をして来た道を戻った。


「なんだこれ!?」

「なんかが爆発した後みたいな跡が出来てる!」

「そういえば聞いたことがある。僕達が通っているこの高校は昔戦地で地雷があったって」

「まさかそれが爆発したってのか!?だとしたら、これだけで済んで良かったな」

「んっ?でもなんかここ濡れてるぞ?」

「本当だ?それになんか温い?まさか温泉か!?」


 その後、体育終わりの男子生徒達に爆破現場が発見され、あれやこれやと憶測が飛び交い紫音はそれを聞く度に自分の方に注目が集まらないかとビクビクし、もう二度と魔法は使わないと心に誓うのだった。

 

 

 


 




 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ゲームでモンスターを倒したら何故かリアルの方もレベルアップしてた件について 3pu (旧名 睡眠が足りない人) @mainstume

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ