第21話 友人とヘッドスライディング
「……あ〜、えっと。これは僕一人だけでやるよ」
突然現れた友人を前に、思考が一瞬フリーズしたがすぐにモンスターの危険が迫っていることを思い出し、遠ざけようとする。
「おいおい、こんな美味しいイベントを独り占めする気か?友達何だからちょっとくらい分けてくれよ」
しかし、そんな紫音の思いも虚しく智也は隣に立ちスマホを弄り出した。
「よし、まず一匹!」
「……えっ?」
紫音はどうしたものかと頭を悩ませていると、智也が声を上げたと同時にスマホの画面からスライムが一体姿を消した。
「……何でスライムが消えたの?」
今までの経験からモンスターの位置は被ることはあっても共有ではないことを紫音は知っている。
そのため、この不可解な現象について理解が追いつかず友人の智也に説明を求めた。
「ん?あぁ、それは俺とお前がパーティーを組んだからだ。すると、モンスターが共有されるようになるんだよ。まぁ、これするとモンスター二体のところが一体になって、その上経験値も分割されるから経験値効率ガク落ちであんまする奴いねぇんだけど」
「……なるほど」
友人の説明を聞いて何故モンスターが消えたのか紫音は理解した。
しかし、新たな疑問も湧いてきて
「……それなら何でパーティーを組んだの?一人で倒した方が良くない?」
そのことについて紫音は尋ねた。
「それはそうなんだが、モンスターパニックって別にプレイヤー全員に起こる全体イベントじゃなくて、ランダムに起きる個人イベントなんだわ。だから、俺の方ではモンスターが出てきてないわけよ」
「……じゃあ、経験値泥棒じゃん」
結果。
どうやら智也は自分のキャラを強くしたいがために乱入してきたことが判明。
紫音は自己中な友人に冷やかかな目を送る。
するの、智也は心外だとばかりに慌て出した。
「違ぇよ!このイベントに限っては経験値分割されずにパーティ全員に配られるから!後、殲滅戦だから二人で一匹ずつ倒せて効率も良いし!それに、タイムオーバーしたらこの
「……さいですか」
紫音の誤解を解こうと必死の弁明をする智也だったが、結局のところは自分もレベル上げがしたいという身勝手なことには変わりはなかった。
しかし、そのおかげで何とか制限時間内に何とか倒しきれそうなのも事実。
紫音はそれ以上の追求を止め、モンスターをひたすら倒すことに集中するのだった。
『シオンの攻撃。スライム:LV2に30のダメージ。スライム:LV2が力尽きました。シオンは8の経験値を手に入れました。一定の経験値が溜まったためシオンのレベルが1上がりました』
『警告、あと三十秒でモンスターパニックが発生します。速やかに近辺のモンスターを討伐してください』
『シオンの攻撃。スライム:LV3に34のダメージ。スライム:LV2が力尽きました。シオンは9の経験値を手に入れました』
「……終わったぁ」
「ナイス。何とか間に合ったな」
黙々とスライムを倒し続けることしばらく。
智也という助っ人が入ってくれたおかげで、何とか時間内ギリギリにマップ上のスライム達を全て倒すことに成功した。
これでモンスターがリアルに現れなくて済むと紫音が安堵の息を溢していると、「あ」と突然横から声が上がった。
「……な、なに?」
嫌な予感がした紫音は恐る恐る何があったのか智也に聞くと、最悪の知らせが返ってきた。
「もう二匹新しく沸いた」
何とこのタイミングで新しくスライムが出現したらしい。
紫音がスマホを確認して見れば、先程まで居なかったはずの場所にスライムが二匹佇んでいた
『タイムアップ。残念なことに制限時間内でモンスターを倒しきれなかったためリアルワールドにモンスターの転移を行います』
(やばっ)
次の瞬間、紫音のスマホに通知が届き慌ててスマホを服の中に入れ隠す。
その後、スマホが一週間前と同じように激しく光出した。
「なんかお前の腹めっちゃ光ってね?」
(ぎくっ!)
当然、横にいた智也にそのことを訝しまれた。
紫音は内心でダラダラと汗を流し、どう誤魔化すか必死に考える。
「……す、スマホのライトがなんか点いちゃったみたい」
しかし、混乱する頭では良い案が出て来なくて、紫音は何とも言えない嘘を吐く。
「そうか。あんま強くし過ぎるとバッテリーの消費ヤバいから弱めにした方がいいぞ」
「……わ、分かった」
絶対に無理だろうと紫音は思っていたが、想定より智也が光っていることに興味が無かったのか誤魔化すことに成功した。
だが、まだ問題は終わっていない。
『(プルプル)』
『(プルプル)』
(うわあっ、めっちゃ見えやすいところにいる)
紫音の視界の端。
道路のど真ん中で身体を揺らしている二匹のスライムを智也にバレないよう倒さなければならない。
「おっ、レベルアップして特技覚えてる。えっと、これは何が出来るんだ?」
(智也がスマホを見ている今)
友人がゲームに夢中になっているのを見計らって、紫音はスライムに向かって全力ダッシュを開始した。
が、一歩足を踏み出したところで紫音はその選択が間違いだったこと知る。
「……あっ」
(そう言えば僕レベル上がってたんだった)
そう。
自分のレベルが上がっていたことを完全に失念していたのだ。
結果、紫音は勢いそのままに転倒。
ゴロゴロとスライムに向かって転がっていき見事に頭から激突。
その後、パァンッ!と水風船が割れたような音が辺りに響いた。
「……いてて」
「紫音!?」
転んだ痛みと頭が濡れた不快感から呻いていた紫音だが、智也の声を聞いて我に帰る。
すぐにスライムの姿を探すと運の良いことに紫音の真後ろにいた。
「ふんっ」
「びぎゅ!」
紫音は右手を思いっきり振り下ろし、スライムを爆殺。
ドパァン!という破裂音がした後に光の粒が舞った。
「おいおい、また転んだのか?てか、あの音はなんだ?」
「……なんか転んだところに水風船があったぽくてびちゃびちゃで最悪」
「ついてねぇなぁ。ほら、これで身体拭け」
幸いなことに智也の方からはスライムの姿は見えていなかったようだ。
そのため紫音の嘘をあっさり信じ、タオルを差し出してくる。
「……ありがとう」
紫音はそのこと申し訳なさを感じながらも濡れた手をタオルで拭き、『このゲームのスライムって水で出来てるんだ』とどうでも良いことを考えるのだった。
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