第20話 モンスターパニック


「おはよう!しおっち!今日も一緒に行こ!」

「……おはよう、美鈴っち」


 MSWをしようと誘ってくる友人の智也をのらりくらりと紫音が躱わし続けること一週間と少し。

 この間、紫音の生活は驚くほどに平和だった。

 変化したことがあるとすればこのように毎朝の登校途中に必ず美鈴と遭遇することくらいだろうか。

 昨日までは偶然だと紫音は思っていたが、今日を含めて丁度一週間も続けば流石に疑問を持たざるを得ない。


「……もしかして何だけど、いつも僕のこと待ってるの?」


 紫音はそのことについて質問すると、それを受けた美鈴は分かりやすく目を明後日の方向に泳がせ始めた。


「は、はにゃ?別に偶然だにゃぁ〜」

「……はぐらかすの下手過ぎない?別に責めてるとかじゃないから。言いたくないなら言わなくても良いよ」

「えっ、いいの?」


 別にどうしても知りたかったというわけではないため紫音がすぐに引き下がると、意外そうに目を丸める美鈴。


「うん。ただ、僕って家出る時間決まってないから待つの面倒くさくないかなって思っただけだし」


 要らぬ気遣いだったと紫音は話を切り上げて歩き出すと、少しして「しおっち!」と後ろから抱きつかれた。


「っと……何?」


 まさか抱きつかれると思っていなかった紫音はタタラを踏みながら、後ろを確認すれば黒曜石のような澄んだ瞳が飛び込んでくる。


「ごめん!実はめっちゃ待ってた!しおっちと一緒に学校行きたくて。嘘吐いちゃった。マジごめん!」

「……そっか。じゃあ、連絡先でも交換しとく?その方が都合が良いでしょ。あっ、3D○持ってる?」


 どこまでも真剣な表情で謝る美鈴に内心『そう言うの似合わないな』と紫音は苦笑い。

 連絡を交換をするためにポッケからスマホを取り出そうとしてすぐ、現在使えない状況にあることを思い出し鞄から携帯ゲーム機を取り出す。

 ひと昔の小学生ならいざ知らず、スマホが普及した時代にまさかそんなオーパーツを出されると思っていなかったのか美鈴はぎょっと目を剥いた。


「華の女子高生がそんなの持ってるわけないじゃん!普通に○ンスタかLIN○で良くない?」

「……えぇ〜」

 

 当然美鈴からスマホでは駄目なのかと訴えられたが、電源を付けたくない紫音は眉を顰める。


「ねぇ〜そんなにあーしと交換したくないの?しおっち!」

(……あー出来ればしたくないんだけど。ここで交換しないのは不自然だよね?……まぁ、でも一週間か。その間、特に何もなかったしちょっとくらいなら大丈夫かな?)


 ガクガクと美鈴に首を揺さぶられながら、紫音は脳内で協議を行なったところ一、二分程度なら大丈夫だろうと結論を下す。


「……ス〜マ〜ホ〜出〜し〜た〜い〜か〜ら〜と〜め〜てぇ〜」

「ホント!?ありがとうしおっち!」


 紫音は美鈴の腕をタップし希望通りにすることを伝えると、彼女は嬉しそうに顔を綻ばせる。

 それを少しグラグラと余韻が残っている視界で捉えながら、紫音はスマホを取り出しスマホの電源を付けた。


 ピコンッ!


 電源が付いた瞬間、通知音を切っていたはずの紫音のスマホが音を鳴らした。

 

(あっ、なんかやばいかも)


 そう思いながら紫音は画面に目を向けると、スマホが使えないことを伝える前に智也やクラスメイトから送られていた大量の通知と同等の数とあるゲームからも送られてきているのが見えた。


『警告、モンスターパニックまで後五分です。プレイヤーは速やかに近辺のモンスターを倒してください。全て倒しきれなかった場合リアルワールドにモンスターが出現します』

「……わぁ、最悪」


 その中で一番新しい通知にはけったいなことが書かれていて、紫音は思わず天を仰いだ。


「……悪いけどちょっとトイレ」

「え?連絡先は」

「……学校でIDの書いたメモ渡すから今は許して。色々と漏れそうでヤバいからじゃあね」


 何がどうなっているのかは分からないが放置するのは不味いと判断した紫音は、美鈴に断りを入れてその場から全力で駆け出した。

 そして、すぐにMSWを起動。


「……うわっ、きも」


 画面を確認してみるとゲーム内のマップにはおびただしい量のスライムが表示されていた。


「……これ全部倒せとか無理ゲーでしょ」


 紫音はあまりの数を前に絶望。

 だが、倒さなければまたモンスターが現れることを思い出し、文句を言いながらも近くにいたスライムをタップし戦闘を開始した。


『シオンの攻撃。スライム:LV1に18のダメージ。スライム:LV1が力尽きました。シオンは5の経験値を手に入れました』

『シオンの攻撃。スライム:LV2に16のダメージ。スライム:LV2が力尽きました。シオンは7の経験値を手に入れました』

『シオンの攻撃。スライム:LV2に17のダメージ。スライム:LV2が力尽きました。シオンは8の経験値を手に入れました』

『シオンの二段切りの攻撃。ベニスライム:LV5に13と17のダメージ。ベニスライム:LV5が力尽きました。シオンは15の経験値を手に入れました。一定の経験値が溜まったためシオンのレベルが1上がりました』

『シオンの攻撃。スライム:LV2に21のダメージ。スライム:LV2が力尽きました。シオンは8の経験値を手に入れました』

「……多すぎだって」


 敵の強さ自体は家の近辺なため弱く一撃で倒せるレベルなのだが、いかんせん数が多い。

 画面に表示されているモンスターの数が殆ど減っていないことに焦りを覚えながら、紫音は戦闘を続ける。


『シオンの攻撃。スライム:LV2に20のダメージ。スライム:LV2が力尽きました。シオンは6の経験値を手に入れました』

『シオンの攻撃。スライム:LV1に23のダメージ。スライム:LV1が力尽きました。シオンは4の経験値を手に入れました』

『シオンの攻撃。スライム:LV3に18のダメージ。スライム:LV3が力尽きました。9の経験値を手に入れました』

『警告、あと三分でモンスターパニックが発生します。速やかに近辺のモンスターを討伐してください』

『シオンの二段切りの攻撃。ベニスライム:LV8に15と17ダメージ。ベニスライム:LV8の攻撃。シオンに5のダメージ』


「ッチ!」


 そんな中、運の悪いことに一撃で倒せないモンスターが現れて紫音は思わず舌打ちを打つ。


『シオンの『サンダー』攻撃。ベニスライム:LV8に21のダメージ。ベニスライム:LV8が力尽きました。シオンは18の経験値を手に入れました』


 すぐに魔法で攻撃をして倒すことに成功したが、紫音にとっては手痛いタイムロスだった。

 ただでさえ、一撃ペースでギリギリ間に合うかどうかだったのに今ので完全に間に合わなくなった。


『シオンの攻撃。スライム:LV3に19のダメージ。スライム:LV3が力尽きました。8の経験値を手に入れました』

(こうなったら残ったやつは一目につく前に僕が全部やるしかない)


 それでも紫音は指を動かし続けながら、内心でモンスターと戦う決意を固めていると、ピコンッと音が鳴った。


『トモからパーティー申請が届きました。承認しますか?』


 紫音は何事だと画面上部をに現れる通知確認してみれば、そこにはそんな文字が書かれていた。


「えっ?」


 てっきり残り二分を切ったという通知だと思っていただけに、これは予想外。

 紫音が驚きで固まっていると横から手が伸びてきて承認の文字をタップされる。


「よう、紫音。俺もレベル上げ混ぜてくれよ」


 その後、上から聞き馴染みの声が聞こえてきて紫音が顔を上げるとそこにはスマホを片手に快活な笑みを浮かべる友人の智也がいた。


 

 




 


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