第8話 チュートリアル終了とまた異変


「……やらないぞ!僕は絶対にやらないぞ!」

「早まるな紫音!スマホを投げるのは流石にやべぇ」


 何故かゲームをアンインストールが出来ないと知ってからも紫音はボイコットを継続中。

 システム的に駄目なら物理的に消すしかない。

 そう判断した紫音はスマホを投げ捨てようとするが、智也に羽交締めにされて中断された。


「観念しろお前はMSWをするしかないんだよ。ほら、ゲームを進めろ。チュートリアルさんがお前のことを今か今かと待ち侘びているぞ?」


 そう言って、手を巧みに動かし紫音からスマホを奪い取る智也。

 アプリを開き、スマホの画面を紫音の顔に段々と近づけていく。


「……ち、近づけるな!僕はやらないやらないぞーー!」


 さながら、今から洗脳を施される一般兵士Aのように必死の抵抗を見せたがどうすることも出来ず、鼻とスマホの画面が接触。


『では、今回は『魔法』を使って攻撃してみましょう。『魔法』とは魔力を消費して攻撃する強力な技です。さらに、それだけでなく攻撃に属性が付きます。相手のモンスターが持つ弱点の属性で攻撃すると、二倍のダメージを与えることが出来ます。ですが、反対に得意属性というものあり、その属性で攻撃をした場合はダメージが半減するので注意しましょう。こちらのスライムは雷が弱点属性なので、現在唯一使える『サンダ』の魔法は大変有効ですよ』

 

 チュートリアルが始まってしまった。


「……無念」


 がっくしと首を落としたところで、本音九割の茶番を終了。全身の力を抜き、スルッと拘束をから抜け出した。


「冗談でもスマホは投げようとしない方がいいぞ。昔それで俺は割ったことあるからマジで気をつけろ」

「……見てたから知ってる。智也ってたまに凄い馬鹿するよね」


 そして、智也からの有難い忠告とスマホを返してもらった紫音は、当時のことを思い出し小さく失笑した。

 あれは、今から二年前。

 二人がまだ中学生だった頃だ。

 

『スマホ投げチキンレースしようぜ』

『あり!』

『いいぜ。負けたやつが全員にジュース奢りな』

『……熱い。ジュースが貰えるならやる』


 思春期の馬鹿な悪ノリで、スマホを誰が一番遠くに投げられるかという遊びを智也が提案したのである。

 それに紫音含めた友人三人が同意し、ゲームがスタート。


『いっくぜーー!』

『『『あっ』』』


 言い出しっぺの智也がトップバッターということになり、彼が思いっきり振りかぶって投げた次の瞬間悲劇が起きた。

 手放すタイミングを間違えたせいで、スマホは上空ではなく地面に叩きつけられたのだ。

 

『ぎゃぁぁぁ俺のスマホがーーーー!!』


 結果、智也のスマホは液晶がバキバキに割れ使い物にならなくなった。

 友人や親、当時付き合っていた彼女の連絡先失った智也はその日酷く落ち込み、その後三人で慌てて励ましたのは紫音の良い思い出として残っている。

 その記憶は未だに色褪せていないので、当然紫音にスマホを投げるつもりはなかった。

 

「今思い返しても派手にやらかしたな。だが、最近はそういうのがないよう気をつけてるから。あんなことは絶対起きないぜ」


 智也の方も同じらしいのだが、自信満々に二度と起きないと言い切る姿に紫音はいつか絶対また盛大にやらかすだろうなと思った。

 彼が調子に乗っている時は大抵やらかす際の前振りなので、長い付き合いのある紫音は分かっている。

 近いうちに何か絶対起きるのは間違いないだろう。


『シオンは『サンダ』を唱えた。スライム:LV1に30のダメージ。スライム:LV1を倒しました。シオンは8の経験値を手に入れた。シオンのレベルが1上がりました』


 そんなことを考えながら、紫音は魔法を選択しスライムをあっという間に倒した。


『お疲れ様でした。これにて戦闘に関するチュートリアルを終了します。

「……はぁ、やっと終わった」


 『チュートリアル終了』の文字が表示されたことで、紫音は疲れたように息を吐いた。

 ゲームを始めてから三日目にしてようやくスタートラインに立ったのは、ゲーマーとして情けなさを感じる紫音だったが、すぐに面倒くさがりの自分にしてはよくやった方だと思い直し気持ちを上向きにする。


「おめでとうさん。よし、じゃあクリアした勢いそのままにあっちのスライムもついでに倒していこうぜ」

「……えぇ」


 だが、それは智也にまた寄り道をしようと言われて急降下。

 紫音はスマホを渋々とポッケにしまい、智也の後を追いかけようとして「ぶへっ!」盛大に


「おい、大丈夫か!?紫音」

「……まふぁきふぁ。ほんふぉどうひゅうこと?」


 慌てて駆け寄ってくる友人の声を聞きながら、紫音はコンクリートにキスしながらうめき声を上げるのだった。

 

 

 


あとがき

レベルアップするたびに転ぶのは主人公の伝統芸に決定しました。

これで紫音君もドジっ子の仲間入りですね。

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