第7話 引きこもり殺しのクソ仕様

 次の日の早朝。

 紫音は通学路を一人で歩いていた。


「……うん。ちょっと慣れてきた」


 その足取り昨日に比べて遥かに軽快となっている。

 といっても、というだけで歩く速度はまだ少し遅いままだが。

 躓くことは殆ど無くなった。

 そのことに紫音が少し満足そうな顔をしていると、トンッと軽く背中を叩かれた。

 首だけ動かし後ろを確認すると、学生鞄とお弁当とジュースの入ったビニール袋を持った智也がいた。

 

「よっ、紫音!もう大丈夫そうだな」

「……うん、まぁね」


 昨日の危なっかしい姿を知っている友人からのお墨付きを受け、紫音は安堵の息を吐く。


「いやぁ、良かった良かった。昨日は本当にいつ怪我するかと思って気が気じゃなかったからな。予想通り何度も転びそうになるし俺が居なかったら制服ズタボロだったんじゃねぇか?」

「……その節は本当にありがとう。助かったよ。感謝してる」

「おうおう、存分にしてくれ。そんでまたMSW付き合ってくれよ。近々レイド戦が実装されるらしいから、レベル上げて一緒に挑もうぜ」

「……分かった」


 だが、それも束の間。

 散々迷惑を掛けてしまったことを盾に、定期的に外を歩きまわさられることになり、紫音の顔は苦々しいものに変わった。


「おっ、あっちにモンスター発見!倒してから学校に行こうぜ」

「……はいはい」


 不満たらたらな顔を紫音がしてることなどお構いなしに、智也は嬉しそうにモンスターのいる方へ向かっていくのだった。


『スライム:LV1が現れました』

「……そういえば出てくるモンスターって一緒なんだね」


 ゲームをしながら、紫音はふと疑問に思ったことを口にする。

 他のゲームだと出てくるモンスターは人によってバラバラだったのを覚えていたからだ。


「まぁ、住んでる場所が近いからな」

「……?どいうこと」


 それに対する友人からの答えの意味が分からず紫音は首を傾げる。

 すると、智也は待ってましたと言わんばかりにゲームの説明を始めた。

 

「実はこのゲーム最初にアプリ起動した時に、スマホに自宅登録されてるところを拠点に設定するんだ。で、拠点から半径一キロ圏内のところにはスライムみたいな雑魚モンスターしか基本出ないようになってる。だが、一キロ以上離れるとちょっと強いモンスターが出てくるようになって、五キロ以上離れると強いモンスターが出てくるようになる。つまり遠くへ行けば行くほどモンスターが強くなるんだ。面白いだろ?」

「……うげぇ、なにそれ。引きこもり殺しのクソ仕様じゃん」


 友人からゲームの仕様を聞き終えた紫音は聞いたことを激しく後悔した。

 何故なら、このゲームで強くなるためには遠出をする必要があると分かったから。

 そして、少し前に智也からレベルを上げて強敵を倒す約束を取り付けられた。

 つまり、そう遠くない未来に紫音は何度も遠出させられることが確定したということ。

 根っからの引き篭もり気質である紫音にとっての最悪のお知らせだった。

 サァーと自分の血の気が引いていくのを感じる紫音。


「……やっぱ、止めちゃ駄目?」


 プルプルと震えながら、紫音は蒼い顔をして智也に訴える。

 だが、それを聞いた智也は今まで見たことがないくらい意地の悪い笑みを受かべてこう言った。


「ダ〜メ。残念。俺に隙を見せたのが悪いんだぜ紫音」

「あぁぁぁぁ!」


 それを聞いた紫音は発狂。


「こんなゴミゲームアンインストールしてやる!」

「おっと、それはさせねぇぜ。っと、おま!力強くなってねぇか!?」


 ゲームを消そうとしたが、その前に智也に腕を掴まれる。


「うぉぉぉーー!こ、れ、で、アン、インス、トールだーー!」


 普段ならば、非力な紫音が運動部に所属しており鍛えている智也に勝てる通りはないのだが、今回は怒りの力で何とか動かしアプリをゴミ箱へ移動させる。

 が、次の瞬間予想外のことが起きた。


「なっ!?アンインストール出来ない!?なんで!?」


 何とアプリがゴミ箱から弾かれたのだ。


「ふはははは!神様がお前に運動しろって言ってんだろ。素直に諦めるんだな」

「うぁぁぁーーーー!!」


 それを見た智也は高笑い。

 このゲームから逃げることは出来ないと知った紫音は地面に膝をつき、絶望の叫び声を上げるのだった。


 


 

 あとがき

 病み上がりのせいで少し短めです。

 ですが、なかなか面白い設定だと自負してます。

 強くなるためにはやっぱりちゃんと苦労しないとね。

  

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