第15話 検証
「……検証しよう」
次の日の休日。
ベッドで横になっていた紫音は静かにそう呟くと、身体を起こした。
瞳を閉じて瞼の裏に浮かぶのは昨日の惨状。
美優の厄介なイケメンファンを撃破した時の蹴りはハッキリ言っておかしかった。
下手をすれば死んでしまうレベルの攻撃。
そんなことを非力な自分が出来てしまう異常性を見て見ぬフリを出来るほど、紫音は能天気ではない。
今どれだけの力を持っているのか?
そして、どのようにしてこの強さを得てしまったのか?
速やかに把握する必要があると判断した紫音は、ジャージに着替えスマホを片手に外へ出た。
「……チョ○ざっぷはあっちか」
検証のために紫音が選んだのはジム。
といっても、一般的なジムではなく最近流行りの二十四時間空いている簡易ジムの方だ。
流行り始めたてで、なおかつ店舗が多いため人が分散しているので人気の少ない簡易ジムなら誰も居ないだろうと考えたのである。
紫音は自転車に跨り、五キロほど離れた簡易ジムへ向けて走り出した。
ペダルを回すこと十分と少し。
街中とも住宅街とも言えない微妙な位置にあるジムへやって来た。
中に入って様子を伺ってみると、物音が無く完全な無人だった。
読み通りとはいえ、人が居ないことに安心した紫音は胸を撫で下ろす。
そして、ジムを使うのに必要な手続きを済ませた後、とある器具の前に立った。
「……レッグプレス。これが一番疲れなさそう」
選んだのは下半身を鍛えるための器具で両足を使って板を押し上げ、それに繋がっている重しを持ち上げるというもの。
何故これを選んだのかというと、楽そうなのも勿論あるが実は重しがどれくらいあるのか周りに見え辛いのが理由だ。
いくら人が来なさそうとはいえ、決して人が来ないということはない。
そのタイミングで、バーベルのようにどれくらいの重さがあるかすぐに分かるような物を持ち上げていたら一発で異常性を見抜かれるのは避けたかったのである。
「……うわっ、軽」
紫音はスマホで調べた通りの体勢になり、軽く板を押し上げてみたところあまりに軽さに驚いた。
慌てて重量を見てみると、五キロの重しが八つの四十キロ。
設定できる重さの半分近くあった。
紫音は慌ててスマホで普通の人がどれくらいの重さでやるのか調べると、これは鍛えていない成人男性が出来る丁度いい重さだということが判明。
つまり、この時点でそこら辺の人よりは力があることが分かった。
(一体どこまで上げれるんだ、僕は?)
己の能力に戦々恐々しながら、紫音は五回上げたら五キロずつ増やすというのを繰り返していく。
「……マジか」
結果、設定できる限界重量の八十キロまで出来てしまった。
しかも、それでもまだちょっと軽いかもしれないと紫音は感じてしまっている。
六十キロくらいでキツくなると思っていただけにこの結果は完全な予想外だった。
「……正確には分からないけどプロアスリートレベルまでありそう」
先程調べた際に紫音の身長だと百二十くらいあげられたらプロアスリート並だと書かれていたこと、まだまだ余裕があったことから、自分にはプロ選手に近しいレベルの身体能力があると結論を出した。
「……ハハッ」
思わず紫音の口から乾いた声が上がった。
それが、まだ人外へ足を踏み入れてなかったことによる安堵なのか、それとも全く鍛えていないのにこの域にまで達してしまっていることへの恐怖からなのか、はたまたそれ以外の何かなのかは分からない。
でも、声を出さずにはいられなかった。
紫音はベンチプレスから降りて、その場に大の字で寝転ぶ。
そして、スマホを操作してとあるアプリを開いた。
開いたのはMSW。
異変と同時期に始めた消去不能のアプリゲーム。
「……やっぱりこれのせいなのな?」
画面を見つめながら紫音はそう呟くが、自信はない。
他の理由があるのかもしれないと考えてしまう。
だが、過去の異変が起きた状況を見るにこのゲームが原因である可能性が最も高いのは事実。
「……もう一レベル上げよう」
だから、いい加減白黒つけることにした。
この説が間違っているのかいないのか考えるのがもう面倒くさくて仕方がない。
紫音はその場から猫のように跳ね起き、ジムを後にするのだった。
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