第2話 初戦闘と初レベルアップ


『まず戦闘について説明します。近くに出現しているモンスターをタップすると戦闘が開始します』

「……青スライムじゃないけど勝てるのこれ?赤ってある程度進めたところで出てくるイメージがあるんだけど」

 

 チュートリアルなのにも関わらず、明らかにチュートリアルに出てこなさそうなモンスターと戦われそうになっているこの状況に紫音は不安の声を上げた。

 もしかしたら、チュートリアルをクリアするためにはわざわざ最弱のモンスターを探し回らなければならない可能性がある。


「……まぁ、やるだけやってみようかな」


 しかし、もし仮にそうだったとしたら別の日に回せば良い。

 そう判断した紫音は、赤スライムをタップ。

 画面が切り変わり、マップ画面から戦闘画面へと変わった。

 

『ベニスライム:LV8があらわれた』

「……オワタ」


 敵モンスターのレベルを見た瞬間、紫音は敗北を察した。

 長年培った紫音のゲーム知識がこれは無理だと訴えている。

 が、このゲームの戦闘の仕様がどうなっているのかは分かっていないので諦めには早い。

 それに、もしかしたらチュートリアルでの戦闘はダメージを受けず、モンスターを倒したら固定の経験値が貰えるみたいなパターンがあるかもしれない。

 反射的にタスク切るしようとする利き手を何とか抑え、紫音は戦闘を続けることを決めた。


『こちらが戦闘画面になります。右下に表示されているのが貴方の強さを表したステータスです。

 ステータスは『職業』『体力』、『魔力』、『攻撃力』、『魔法攻撃力』、『防御力』、『魔法防御力』、『素早さ』の六つがあります。

 先ず自身がどんなステータスをしているのか確認してみましょう。


【シオン:LV1】

職業:旅人

体力:15

魔力5

攻撃力5

魔法攻撃力5

防御力5

魔法防御力5

素早さ3


続いて、右上にあるのが敵のステータスです。こちらも確認してみましょう。


【ベニスライム:LV8】

職業:スライム

体力:50

魔力30

攻撃力10

魔法攻撃力30

防御力15

魔法防御力20

素早さ15』

「……差えぐ」


 ある程度分かっていたことだが、相手との強さは倍以上あった。

 間違いなく普通なら絶対勝てない。

 だが、これはあくまでチュートリアル。

 何かしら救済処置があるはず。

 そんな淡い期待を込めつつ紫音はゲームを続けた。


『続いて左下のコマンドについて説明します。こちらは貴方の取れる選択肢をコマンド化したものです。選べるコマンドは『攻撃』、『防御』、『特技』、『魔法』、『道具』の5つです。では、試しに最初は『攻撃』を選択してみましょう』

「……はい』

『シオンの攻撃。ベニスライム:LV8に1のダメージを与えた』

「……よわ」

『やった。見事相手モンスターにダメージを与えることに成功しましたね。このように、ダメージを与え続ければ敵を倒すことが出来ます。ですが、当然敵も無抵抗とはいきません。自分の攻撃が終わった後に何かしら反撃をしてきます。どうやら相手は攻撃をしてくるようです気を付けて』

『ベニスライム:LV8の攻撃。シオンに10のダメージを与えた』

「……つんよ」


 しかし、肝心の戦闘が始まったところで現実は非情だと紫音は遠い目をした。

 これは間違いなく勝てない。

 紫音は後四十九発攻撃しないといけないのに対し、あちらはあと一回で倒せるのだ。

 負け戦確定である。

 そう思って適当に画面を連打すると、道具の説明に移った時にとあるものを見つけた。


『スライム爆弾:相手モンスターに50の固定ダメージを与える』

「……これだ」


 逆転の一手。

 どうやら救済手段はちゃんと用意されていたらしい。

 迷わず紫音はすぐに『スライム爆弾』を選択。


『ベニスライム:LV8に50のダメージ。ベニスライム:LV8は尽きました』

「……良かったぁ」


 見事モンスターを倒すことに成功し、ホッと紫音は胸を撫で下ろす。

 これで倒すことが出来なかったらクソゲー認定して、一生やらなくなるところだった。

 ギリギリ倒せるレベルのモンスターと出会えたのは幸運と言えるだろう。

 

『一定値の経験値が集まったためシオンのLVが1上がりました』

「……おっ、やった」


 紫音が視線をスマホに戻すと、格上を倒したことでレベルが上がっており、ステータスが全て二ずつ上昇している。

 だが、先程戦ったベニスライムと比べればまだ弱く、チュートリアルを終わらせるためには後二回ほど戦闘をしなければならないという事実に気が重くなる。

 

「……次に見つけるモンスターは弱いやつだと良いなぁ」


 完全ランダムなので叶わないだろうなと思いつつも紫音は小さくそう呟いた後、ゲームをするため地面に置いていたに鞄を拾う。

 すると、想定よりも簡単に持ち上がった。


「……あれ、こんな軽かったけ?」


 紫音はそのことに違和感を覚え、中身が減っていないか確認する。

 が、中身の方は学校を出る前と変わらずの状態だった。


「……気のせいか」


 紫音は自分の勘違いだろうと思い直し、家を目指して歩き出すのだった。

 

 

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