第1話 キャラクタークリエイト


「よし、じゃあ行くか」

「……分かった」


 ゲームダウンロードをしてから数時間後。

 本日の授業を終えた紫音はカバンを持ってノロノロと立ち上がる。

 そして、智也と一緒に教室を出ようとしたところで「中村君」と後ろから呼ぶ声が聞こえた。

 後ろを振り向けば、箒を片手に持った女子のクラスメイトが立っていた。


「今日掃除当番でしょ?何帰ろうとしてるの」


 彼女はそう言って智也の腕を掴んだ。

 顔はニコニコと笑っているが、どこか圧を放っており絶対に逃がさないという気概がありありと感じる。


「すっ、すまん。完全に忘れてたわ」

「もう〜〜ちゃんとしてよ〜〜。今日はやることが多いんだから一人でも減ると困るの」


 女子生徒の放つ圧に飲まれた智也は、これから二人でゲームをする約束をしていたのにも関わらずあっさり折れた。

 ゲームと今後の学校生活を天秤に掛ければ当然の選択と言えるだろう。

 

「あぁ〜〜……悪いな紫音。今日は無理になったわ」


 しかし、自分から誘った手前こんな形ですぐ破ってしまうことに智也の方は申し訳なく思っているらしい。

 ガリガリと頭を掻きながらバツの悪そうな顔をした。


「……うん、分かってる。当番の日なら仕方ないよ。じゃあ、ゲームをするのは別の日ということで。また明日」


 だが、紫音の方は特に気にしてはいなかった。

 元々、智也に誘われるまで今日一日は家でダラダラするつもりだったのである。

 そのため当初の予定に戻っただけで何の問題もない。


「あぁ、また明日な。紫音」

「ごめんね双葉君」

「……本当気にしてないから別にいいよ。掃除頑張ってね」


 申し訳なさそうにする友人と女子生徒に軽くフォローを入れ、紫音は教室を後にした。

 小柄な身体を活かし、人波の間を抜け学校を出る。

 一目がある程度無くなったところでワイヤレスイヤホンを付け、適当な音楽を流しながら帰路に付く。


「モンスターみっけ!なぁなぁ、コイツってレア!?」


 後少しで、家に着くといったところで横のコンビニでたむろしていた男子高校生の声がイヤホンを貫通した。


(……何の話してるんだろ?もしかしてMSW《モンバスウォーク》?てことは、この辺にモンスターがいるのか。後日、探し回るの面倒臭いしいるんなら倒しおこうかな)


 話している内容が紫音の予想通りとは限らないが、予想通りになら都合が良い。

 紫音はその場で立ち止まると、ポッケからスマホを取り出しMSWを起動する。


『モンバスウォーク!』

「うっさ!」


 次の瞬間、耳元から爆音のゲーム音声が流れた。

 ビクッと肩を震わせた後、紫音は顔を顰めながらイヤホンの音を最小に変更。

 耳に優しい音量になったことで一息ついた。

 そして、スマホをタップしゲームスタート。

 

個体名ユーザネームを入力してください』


 画面が切り替わると定番のキャラクタークリエイトに移った。

 先ずは名前の設定から。


「……とりあえず、シオンでいっか」


 普段の紫音なら少し凝ったプレイヤーネームを考えるところだが、そんな長い間プレイするつもりはない。

 間髪入れず下の名前を入力し決定を押した。


『次は貴方の見た目を教えてください』


 名前の設定が終わると、次に出てきたのはキャラクリの醍醐味である見た目について。

 画面には半透明の人間が映っており、性別と顔、髪型と身長の四項目がある。


「……うわっ、デフォルトとか無いの?このゲーム。一々選ぶのだるいんだけど。なんか良いのないかな?何々、『カメラ機能を使って容姿を作成』?楽そうだしこれを使おう」


 適当に顔のところをタップして膨大な量の選択肢にげんなりし、どうにか手っ取り早く済ませる方法はないかと画面を弄っていると写真を撮ることで自動でキャラを生成してくれる機能を発見。

 キャラクターの見た目に頓着しない紫音は何の迷いもなくカメラを起動した。

 そして、適当にピースをした写真を撮る。


「……おぉーめっちゃ似てる。最近のゲームの進歩は目覚ましいね」


 すると数秒後、紫音そっくりのキャラが生成された。

 想像以上に自分と似たキャラが出来たことに紫音は感動したが、自分の顔を長々と見れるほどナルシストではないので次へを選択。


『以上でプレイヤー設定を終わりますがよろしいですか?』

「……あれ、もう終わり?まぁ、いっか」


 てっきり職業選択などをすると思っていたので、いきなり終了の画面が出てきたことに少々面食う。

 だが、ゲームを今すぐ始めたい紫音としてはあれこれいちいち決めなくていいのは助かると思い直し『はい』を選択した。

 次の瞬間、画面が移り変わり自分を中心としたマップ画面が表示され、少し離れたところに可愛らしくデフォルメされた赤色スライムの姿があった。


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