ゲームでレベルを上げてたら現実の方もレベルが上がってた件

プロローグ 非日常の始まり

「なぁ、紫音」

「……なに?」

「『モンバス』って知ってるか?」

「……知ってるよ。毎年出てる有名RPGシリーズでしょ」

「そうそう。でさ、『モンバス』がつい昨日新作スマホゲームを出したんだ。『モンバスウォーク』ってやつ。少し前に流行ったGPS機能を使ったリアル連動型ゲーム。パチモンゴーみたいなやつで、色んなところにいるモンスターを倒して自キャラを強くしていくんだ。一緒にやらね?」


 双葉ふたば紫音しおんが『モンバスウォーク』のことを知ったのは本当に偶然のことだった。

 いつものように友人の中村なかむら智也ともやと昼食を食べていた時に、一緒に遊ばないかと誘われたのである。


「……えぇ〜。外出る系のゲーム僕嫌いなんだけど。で、何して欲しいの?」


 ただ、紫音の反応は芳しくは無かった。

 何故なら紫音は自他共に認める面倒くさがりの引きこもり気質な少年だからである。

 学校に登校する以外で相当なことがない限り家を出ず、手隙の時間は基本的に寝るかパソコンゲームばかり。

 そんな紫音が外に出て遊ぶタイプのゲームと相性が悪いのは目に見えている。

 三日と経たずにアンインストールされること間違いなし。

 おそらく、十年近くの付き合いがある友人の智也がそんなことは分かっている。

 だから、ゲームを進めてきたのには何か理由がある。

 紫音が気怠そうな目で早く話せと促せば、智也は「やっぱ、お前に隠し事はできねぇな」と苦笑いしスマホの画面を紫音に見せた。

 

「実は友達を招待すると、今のところ課金しても手に入らないこの倒したモンスターが再出現リポップする超貴重アイテムが二個貰えるんだよ」

「……あーなるほどね」


 そして、智也が誘ってきた本当の理由を聞き、ゲーマーの紫音はすぐに納得した。

 これは確かに欲しい。

 何故そう思ったか分からない人のために説明すると、先程智也が言っていたように『モンバスウォーク』は色んなところに出現したモンスターを倒して強くなるゲームだから。

 その中には、きっとレベルを上げるために必要な経験値を大量に持っているモンスターがいるはず。

 が、おそらくいたとしてもそれは出現する確率がかなり低く設定されているレアモンスター。

 紫音の勝手な予想だが、一日歩き回ってようやく見つかるレベルなはず。

 そんな貴重なモンスターを二回も再出現させられるとあれば、かなりのレベルが上がり周囲と差が付けられる。

 周りの人間よりも強くなりたいと考えているなら、絶対にしておきたいだろう。

 紫音も逆の立場だったら同じことをするだろう。


「……うーん。でもなぁ〜〜。多分ある程度進めないといけないよね?」

「ぎくっ」

「……てことは、外をある程度歩かないといけないよね?めんどくさ、残念だけど僕はパス。他を当たって」


 ただ、それで協力するかと言われれば話は別。

 いくら友人のためとはいえ、多少歩き回らないといけないのは面倒くさい。

 智也は自分以外の友達もたくさんいるのだから、その人達に頼れば良い。

 そう結論付けた紫音はキッパリと智也の誘いを断り、お弁当のハンバーグを口に入れる。


「そんなこと言わずに頼む紫音!一生に一度のお願いだ」

「……えぇ。何でそんな必死なのさ?」


 しかし、紫音の予想とは裏腹に智也は意外にも粘ってきた。

 まるで、借金の取り立て人から何とか期日を伸ばせないかと頼み込む駄目人間のように、情けない顔で両足にしがみついて頼み込んでくる友人に紫音の珍しく無表情な顔が困惑の色に染まる。


「実はこのアプリ最新のスマホじゃないと重くてマトモにプレイ出来ないんだ!そして、クラスで最近スマホを買い替えたのは俺とお前しかいない!お前だけが最後の頼りなんだ紫音!」

「……分かったよ。ちょっとだけ付き合ってあげる」


 その後、智也が何故こんなにも必死になっているのかを知った紫音は仕方なく引き受けることにした。

 すると、智也の顔は先程と一転。

 満面の笑みを浮かべ「心の友よ!」と肩を組んできた。


「……はぁ、ホント調子のいい奴」


 紫音はそんな友人の態度に辟易しながら、スマホを操作しアプリをダウンロードを行う。


『適合者の存在を確認。リンクを開始します』


 その時、紫音達と遠く離れた地で無機質な機械音声が小さく流れた。



 

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