第6話 地雷系パワーギャルとラーメン


「………………とりあえず、救急車と警察を呼ぼう」


 その場で固まることしばらく。

 ようやく状況を把握した(何故こうなっているか分からない)紫音は、思いつく限り最善の行動をしようと動き出した。

 とりあえず、バイクと接触した際に落としたスマホを拾う。

 運の良いことに傷はなく動作にも異常は見られない。

 紫音は119と110に連絡。

 事情を説明すると、両者共に大急ぎで来てくれるらしい。

 一応、その際に警察にはバイクとぶつかって大怪我をさせたのは罪に問われるかと尋ねてみたが、おそらく罪に問われることはないと言われた。

 何でも『盗犯等防止法』という法律のお陰で強盗やひったくりを止めようとして怪我をさせた場合、そこまで罪に問われないんだとか。

 加えて、そもそもバイクと歩行者が接触を起こした場合、過失は基本乗り物側にあるので紫音の立場が悪くなることはないとのこと。

 それを聞いた紫音はこの年で犯罪者の仲間入りしなくて済みそうだと、胸を撫で下ろした。

 各所への連絡を済ませたところで、バッグの持ち主のことを思い出した紫音が後ろを振り向くと大量のピアスとゴスロリ衣装を身に纏った黒髪の地雷系美少女ギャルと目が合う。


「……それ、あーしのバッグだよね?」


 ほんの僅かな静寂の後、ギャルは紫音の持っている鞄を指差し、確かめるように言葉を紡いだ。


「……あそこで蹲ってる人に今さっき盗られたんだとしたら、多分そう?」


 ひったくりされた女性の容姿を一瞬しか見れていなかった紫音は、やや自信なさげに答えるとギャルの顔がパァッと華やいだ。


「じゃ、あーしのだ。取り返してくれてサンキュー!これママから貰った超大事なバッグなんよ。超感謝!ひったくりから奪い返すとか大人しそうな顔して案外やるね〜キミ〜。もしかして、なんかの格闘技で全国出てたとか?」


 ギャルにとってはよほど大切なものだったのだろう。

 紫音の両手をガッチリ掴み、ブンブンと上下に振りながら最大限の感謝と喜びを示す。

 あまりにオーバーな行動に身体が少し浮き出したところで、紫音は危機感を覚えた。


「……おおっ、お、僕は、生まれて、この方ずっと、帰宅部だよぉぉぉ〜」

「マジ!?だとしたら、見知らずのあーしのために身体張ってくれたってこと?めっちゃ感激なんですけど!このままお店行く?この超アゲアゲなまま二郎行く!?奢るよ?全マシもバッチコイよ!?てなわけで、レッツゴー!」

「……ちょっとおぉーー。警察とぉぉ救急隊くるからぁぁ落ち着いてぇぇ」


 なんとかギャルを宥めようとしたが、落ち着くどころか暴走は加速。

 近くのラーメン屋に連れ込まれそうになり、紫音はパトカーが来るまで必死に抵抗するのだった。

 



 数分後。


「君達のおかげでここ最近手を焼いていたひったくりの常習犯を捕まえることが出来た感謝する」

「……いえ、本当偶然なんで」

「ちょいちょい、謙遜は良くないぞ。しおっち!犯罪者捕まえるとかマジ大手柄だから。誇りなって」

「……いたっ──くない?」


 無事警察と救急隊が到着。

 事情聴取が行われたが、あのひったくり犯が他にもひったくりを行っていたことと、地雷系パワーギャル安倍あべの美鈴みすずの証言もあって、紫音は罪に問われることはなくすぐに解放される。

 

「よし、じゃあ今度こそ二郎に行くぞ!しおっち」

「……この状態でそんなこと言われても僕に拒否権ないじゃん」


 だが、残念なことに警察から解放されても美鈴から解放されず、ぬいぐるみのように抱き抱えられ紫音は結局ラーメン屋に連れ込まれた。

 勿論、ギリギリまで抵抗したが最後の最後に腹の虫が裏切ったせいで押し切られてしまったのである。


「大将!ニンニク背脂野菜チャーシューマシマシで」

「……全部少なめで」

「はいよ」


 そんなわけで、紫音は出会ったばかりの美鈴と二郎系ラーメンを食べる羽目になった。


(凄い強引な人だな、この人)


「ねぇねぇ、しおっちは普段何してるの?ゲーム?ウチは最近犬娘にハマっててさ──」

「……だいたい寝てるかな」


 注文を終え、お冷に口をつけながら紫音は改めて美鈴の破天荒ぶりにげんなりしていると、彼女はそんな紫音の気など知らないとばかりにマシンガントークを炸裂。

 飼っているペットの話や、紫音の私生活についての質問、今来ている服の自慢など、話題があっちこっちに行くのに何とか合わせていると、ある時一風変わった質問をされた。


「ねぇねぇ、しおっちはさ。幽霊とか見たことある?」


 と。


「?ないけど」


 しかし、残念なことにUMAや幽霊のようなファンタジーな存在を見たことのない紫音は即座にそれを否定する。


「そっかー。あーしは見たことあるよ。幼稚園の時に昔そこで亡くなったっていう子供のお化け。まぁ、あーしのパンチで倒せるような雑魚だったけど」

「……幽霊って物理攻撃効くんだ」

「ふふん!まぁね。この世の中、大抵のことはノリで解決できるのさ」

「……ノリすごっ」


 そんな紫音とは違って、美鈴の方は意外と霊感があるらしく見たことがあり、尚且つ倒したことまであるらしい。

 紫音は心の中でほら話だと思ったが、作り話でもさぞ本当にあったかのように話す美鈴は面白くあえて放置した。


「じゃあさじゃあさ、変な生き物とかは見たことないの?めっちゃ大きいムカデとか牛頭の人とか」

「……あるよ」

「マジで!?どこで見たの!?教えて」

「……凄い食いつきだ」


 その後、似たような質問が来たので今度は自分の番だと思い乗ってみると、予想以上に美鈴が反応してびっくりした。


「……えっと、野外活動中に山の中で五十センチくらいのムカデを何匹かと、ウマの被り物をして上裸で校庭を走り回る友人を少々」

「マジやば!それちょっ詳しく」


 だが、ここまで反応をされると悪い気はせず紫音は友人の黒歴史を面白おかしく脚色しながら、ラーメンが届くまで美鈴に語ってみせるのだった。

 




あとがき

 メインヒロイン②。

 勘のいい人はどんなキャラか察してると思いますが、大体イメージ通りです。

 巨乳ギャルをすこれ

 

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