第4話 二回目のレベルアップと異変


「紫音MSWしに行くぞ」


 紫音が保健室から戻ってきてから一時間後。

 授業が終わると、鞄を持った智也が遊びに行こうと急かしてきた。

 実は、昼休みの時に今日こそMSWを一緒にしようと約束していたのである


「……分かった」


 スポッ。


 紫音は返事をしながら、鼻に詰めていたティシュを抜く。

 ティシュに白かった頃の面影を殆ど無くし、真っ赤に染まっていた。

 だが、何とかこのティシュ達が鼻血を全て受け止めきってくれたようで血が垂れてくる感覚はない。

 『長い戦いだったな』と思いながら、ティシュ袋に三代目の鼻栓ティシュを入れ立ち上がる。

 そして、近くにあるゴミ箱にそれを投げ捨て智也と教室を出ようとした時、「待ってくださーい」とドタドタ慌ただしい音を立てながら大量のティシュ袋を抱えた恵が二人の前に現れた。

 

「あ、あの。双葉君。きょ、今日は本当にすいませんでした!鼻血の方はもう大丈夫ですか?これティシュです。どうぞ」

 

 恵は謝罪と共にそれらを紫音に差し出す。


(うわぁぁ、いらない。鼻血程度に過剰過ぎるでしょ。冷静に考えてこんなに要らないと分からないのかな?普通に邪魔なんだけど。どれだけ僕が重症者だと思ってるんだ、春風さんは)

「……ありがとう。これだけ貰ってくね」


 内心で毒を吐きながら、紫音はティシュを一つだけ受け取る。

 すると、恵はそれだけで良いのかと不安そうな顔を浮かべた。


「……後、本当もう気にしてないから。明日から普通にしてね」

「わかりました。さようなら紫音君」

「……うん、さようなら」


 このままだと明日も過剰に世話を焼かれそうだと思った紫音は、去り際にしっかりと恵に釘を差し教室を出た。


「凄かったな。春風さん」

「……ね。どうやって短時間であの量のティシュ集めたんだろ?」

「一応、授業中にお前が鼻から血を流したのを見て、青い顔をしながら春風さんがクラスの奴らにティシュを貰えるよう頼んでるのは知っているが。流石にクラス全員分集めてもあの量はあり得んよな」

「……もしかして、クラス外からも来てたとか?」

「いや、それはあり得な──くないか。春風さんめっちゃ人望あるし、なんていうかついつい助けてあげたくなるような不思議なオーラがあるからな」

「……皆んな手を貸してくれるって、漫画の主人公みたいだね」

「勝負には負けてもその後勝てるんなら、どっちかと言えばジョーカーキャラじゃね?」


 その後、廊下を歩きながら先程のやり取りを思い出し、『彼女だけは絶対に敵に回さないでおこう』と心の中で決意した。


「おっ、ここにスライムがいるぞ。紫音」


 ダラダラと喋りながら学校を出ると、スマホを取り出した智也がモンスターを発見した。

 

「……一番弱いスライムだよね?」


 智也の口ぶり的から何となく弱そうなスライムだと予想がつくが、最初の戦闘でベニスライムに負けかけた紫音は警戒する。


「安心しろ。昨日お前が出会った強いスライムじゃなくて最弱のやつだ。こいつ相手なら絶対負けねぇよ」

「……そう、ならよかった」


 そんな紫音の反応に智也は苦笑い。

 自分のスマホで『アイスライム:LV1』というのを確認したところで、紫音はようやく警戒を解いた。

 

『次に『特技』の説明に入ります。『特技』とは魔力を使わずに行える特別な技のことです。ですが、何回も使えるわけではなく一度使うと一定時間使えなくなるデメリットがあります。また、使える技は職業に応じて変化します。今、貴方の職業は『旅人』ですので、『二連切り』と『癒しの舞』が使えます。では、さっそく『二連切り』の方を使ってみましょう』


 戦闘を開始するとチュートリアルが再開した。

 二回目の議題は特技らしい。


「それ、クールタイム二ターンあるから微妙なんだよな」


 アイテムのように実はかなり強い技があるのかと期待したが、残念なことにそんなことはなかった。


「……たしかに、序盤の技って感じで派手さはないね。百回攻撃とかにした方がいいんじゃない?」


 ビギナーらしい技に紫音が不満を溢すと、智也が「それやば過ぎ。ゲームバランス壊れるっての!」とベシッと頭を軽く叩かれた。


「……むぅ」

『シオンの『二連切り』の攻撃。スライム:LV1に7と8のダメージ。スライムLV:1を倒しました。経験値を8手に入れました。シオンのLVが1上がりました』


 叩かれた頭をさすりながら、紫音は『二連切り』を選択するとたった一回の攻撃でモンスターが倒れた。

 

「……別ゲーに感じる」 


 それを受けて、何とも言えない気持ちになる紫音。


「レベルが低いうちは基本『アイスライム』しか出ねぇからな。いきなり『ベニスライム』とエンカウントした紫音がおかしいんだよ」

「……だよね」

「まぁ、でもそのおかげでチュートリアル中にLV3になれるんだからいいじゃん。普通はチュートリアルが終わったところでようやくLV2になるんだからな」

「……そう言われても別に嬉しくないよ。チュートリアル終わったら引退するつもりなのに」

「あっ、それは困る。実は招待コード打てるようになるのLV5からになったから」

「……ありがとうベニスライム」

「手のひらくるくるだなお前」


 だが、ベニスライムとの戦闘に意味があったと知った紫音は心の底から彼(?)と出会えてよかったと感謝した。


「っ!?」


 それから、次のモンスターを探すため紫音が一歩踏み出そうところで、違和感を感じた紫音はタタラを踏む。

 

「どうした?もしかして、立ちくらみか?結構血が流れたから貧血なんじゃね。おぶってやろうか?」


 そんな紫音を見て、心配した智也が的外れなことを言ってくる。


「……いや、大丈夫。全然そういうんじゃないから」

「そうか?いや、でも万が一があるし今日は止めにしよう。送ってくぜ」


 すぐに紫音はそれを否定したが、智也の目から心配の色が消えず本日の探索は中止となった。

 

 

 

 

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