第13話 大バズり
「坊主、今回はスタッフ二名が昏睡させられてた上に、家族を害されていたという緊急事態だから大目に見るが、次こんな派手にやったら捕まえるから覚悟しとけよ」
「……はい」
イケメンにドロップキックを喰らわせてから一時間後。
警察官から事情聴取という名のお説教を終えた紫音は、トボトボと頼らない足取りで事件現場を出た。
(まぁ、あんなことやってこれだけで済んでるんならまだマシな方だよね)
軽い説教を受けて済んだということから分かる通り、紫音が罪に問われることはなかった。
成人男性二人が昏睡されている上に、家族に危害を加えられていたこと、相手にそこまで大きな怪我が無かったこと、その上周りから擁護する証言もあって正当防衛として見なされたのである。
ほんの少しでも運が悪かったら、過剰防衛として罪に問われていたはずだ。
高校生というまだ若い年で犯罪歴がつかなくて心底良かったと紫音は胸を撫で下ろす。
「紫音!」
そんなことをしていると、息子の帰還を待ち侘びていた千佳が紫音に物凄い勢いで抱きついてきた。
「よくやった!珍しくかっこよかったわよ〜よしよし」
「……母さん、大丈夫なの?」
まるで、犬を褒め囃すように頭を撫で回してくる母親にうんざりしながらも、紫音は千佳の容体について尋ねる。
容赦なく男二人を倒す危険人物から痛烈な蹴りを入れられたのだ。
無理をして気丈に振る舞っているのではないかと、心配するのは当然だろう。
「アンタと同じくらいの時にちょっとやんちゃしてたからあのくらい少し休めばへっちゃらよ!まぁ、しばらく痣が残るけど。美優ちゃんを守れた名誉の勲章と思えば悪くないわね!」
「……そっか。なら、良かった」
だが、紫音が思っている以上に母というものは強いらしい。
快活な笑みを浮かべ、嬉しそうに腹を見せてくる千佳。
それを受けてこれ以上何かを言うのは野暮だと思い素直に引き下がると、千佳はますます笑みを深める。
「本当アンタは自慢の息子よ。チュッ」
「「おぉぉー!」」
「なあっ!?」
その後、紫音の頬に千佳がキスを一つ落とすと周囲から声が上がった。
「……人前でするのは止めてって言わなかったけ?」
昔からよくされていたのでキス自体に紫音が何かを思うことはないが、流石に周りからの反応があると恥ずかしい。
特に美優のように顔を真っ赤に染めるという初心な反応をされると余計に。
紫音は千佳に抗議の目を向ける。
「別に良いじゃない。息子と母親の健全なスキンシップよ。なんならもう一回してあげよっか?」
だが、千佳は一切悪びれる様子はなく面白がって再度迫ってくる始末。
「いらない」と即座に紫音は切り捨て千佳を引き剥がすと、「ちぇ〜」と拗ねた子供のような声が上がった。
「……そういえば、撮影はどうなるんですか?」
不満顔の母親を無視して、紫音が二番目気になっていたことを周囲にいたドラマ関係者達に尋ねる。
「撮影することになったわぁ〜。本当はスタッフ二人が抜けてるから出来れば後日にしたいんだけどねぇ〜。繰り越してまた同じことが起きても困るし。それに、今SNSでバズってる紫音ちゃんを使わないのは勿体ないわ〜!」
「……げっ」
その途中で、思わぬ飛び火を喰らった紫音は思わず顔を顰める
可能性としては野次馬の中に動画を撮影してネットに上げる人がいるかもしれないと考えていた。
だが、まさか本当にされているとなると少々面倒だ。
紫音は恐る恐るスマホを確認すると、知り合い(主に智也)から大量の通知が送られてきていた。
添付されていたリンクを押してみると、『沙花叉美優の凶悪ストーカーを子供が一撃撃退!』、
『沙花叉美優のヒーローの正体は小学生!?』、『ショタにやられるクソ雑魚ストーカーさんはこちらwwww』など、様々な形で拡散されていた。
「これで双葉君も私と同じ有名人だね」
「……めっちゃ効くんでやめてください
(さよなら僕の日常。こんにちはネットのおもちゃにされる日々)
そのどれもに万近くのいいねやリポストが付いているのを見て、紫音はそっとスマホの電源を落とすのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます