第18話 呪いのスマホと二郎系美少女


「……相変わらず、この感覚のズレは慣れないな」


 ゴブリンを倒した次の日。

 紫音は生まれたての小鹿のように頼りない足取りで学校に向かっていた。

 昨日の一件で原因の方はMSWのレベルアップだとハッキリ分かったが、だからと言って急激な身体能力向上に対応出来るかといえば答えは否。

 今日も今日とて紫音は振り回されている。


(まぁ、前よりはマシになってきたけど)


 しかし、人間は学ぶ生き物。

 何度かレベルアップを繰り返したことでズレバグに対する修正デバック速度は最初よりも上がっており、今日が終わる頃には終わるだろうと紫音は思っている。

 ただ終わるまでの時間が辛いという事実に変わりはなく、気疲れした紫音は近くの階段に腰を下ろす。

 そして、紫音は時間を確認しようと真っ黒なスマホをポッケから取り出した。


「……ん?あぁ、そういえばそうだった」


 画面をタップし反応が無かったことを紫音は一瞬不審に思ったが、ブラックアウトの原因が自分にあるとすぐに気づき声を漏らす。

 そう。紫音は自分のスマホを封印シャドダウン状態にすることにしたのである。

 当然だろう。

 何故なら、自分のスマホから化け物が出てきたのだから。

 普通何かしらの対策を講じるに決まっている。

 最初はスマホを捨てようと思ったが、自分が放置している間にゴブリンがまた出てきたら大きな問題になると思い却下。

 次に、大金を払ってくれた親には悪いが壊してしまおうと紫音は考えたが、スマホを壊そうとすると謎のバリアが発生し塞がれてしまった。

 それならばと、今度は川の中に沈みてみたりもしたが当然バリアで塞がれ、またある程度流されたところで手元に瞬間移動で戻ってきたのを見て、もう色々と諦めた紫音が出した苦肉の策がスマホの電源を落とすことだった。

 そもそもMSWのアプリさえ開かなければ問題ないのだから、うっかりでも間違って紫音が起動しないようにしたのである。

 ただ、今までの傾向から何となくモンスターが出てくる時は強制的に起動させられそうだと察しているが。

 少なくとも、電源を落ちている間はモンスターが出ないという安心感が得られるのでこうしている。

 暇つぶしは最近放置気味だった携帯ゲーム機を使えば良い。

 

 紫音はスマホをポッケにしまい、鞄から横長のゲーム機に電源を付け時間を確認する。


「……七時四十分か。これくらいなら何とか間に合いそう」

「携帯ゲーム機で時間を確認なさるとは中々独特ことをしていらっしゃいますね」


 紫音が画面を覗いていると急に暗くなり、聞き馴染みのある声が聞こえ顔を上げる。

 そこには黒く長い髪を腰まで伸ばし、後ろにかんざしを差しているいかにも大和撫子系な美少女がいた。

 一目見たら絶対忘れないほどの美貌。

 その上、同じ学校の制服を身に纏っているにも関わらず紫音は全く見た記憶がない

 しかし、それなのに何故か妙な既視感を覚えていて。

 この妙な違和感を確かめるべく紫音が目を細めれば、それに対して「いかがなさいましたか?」と少女は不思議そうに首を傾げる。

 その際、ふわりと彼女の髪がたなびき紫音の鼻腔を甘い香りとが掠めた。


「……もしかして、この間のギャルさん?」


 紫音はまさかと思いながら、美少女にそう問いかける。


「あら?もう、お分かりになってしまいましたの?あぁ〜、つまんないなぁ〜。せっかくしおっちを驚かせようと思ってたのに〜」


 すると、美少女の纏う空気が一転。

 お淑やかで丁寧な口調から快活で明るい若者口調に変わり、耳にかかっていた髪を払いのけ銀色のピアスをいくつも露出させる。


「やっほー!しおっち。この間あった美鈴ちゃんだよ〜。ねぇねぇ、なんで私だって分かったの?これでもすっごい変装してきたんですけど!?なんでなんで?」


 その後、紫音を肩を絶対に逃がさないとばかりにガッチリと掴み答えを迫ってくる。 


「……あの、痛いんですけど?」

「そんなことはどうでもいいじゃん!良いから、はよ答えて?」


 前もこんな感じでラーメン屋に強引に拉致されたのが紫音の記憶に新しいので間違いない。

 目の前の大和撫子はつい先日出会った地雷系ギャルの安倍美鈴だ。

 相変わらず自由奔放さに呆れながらも、一刻も早く解放されたい紫音は渋々彼女の問いに答えた。


「……あー、その、にんにくの匂いがしたから」

「へ?ッ〜〜〜〜!?」


 それを聞いた美鈴は一瞬目を丸めた。

 が、次の瞬間には顔を真っ赤に染め紫音から物凄い勢いで離れていった。


「……ねぇ、しおっち。あーしってそんな臭う?」

 

 その後、頭を抱えながら躊躇いがちに質問してくる美鈴。


「……ほんのちょっとだけ。でも、普通の人なら多分気が付かないと思うよ?」

「◎△$♪×¥●&%#?!」

 

 そんな美鈴に対して、紫音は出来るだけ言葉を選んでフォローをしてみたが失敗。

 紫音がかなり遠慮した言い方をしていると曲解した美鈴は、ボンっと頭から湯気を出し、彼女の声にならない叫び声が朝の閑静な住宅街に響き渡るのだった。

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