第23話 恋人の葬儀

「僕の母と離婚してあなたのお母さんと一緒になったとありますが、勿論これは父の創作ですが、それ迄のことはどうだったんでしょうね」


「母がもらったあなたのお父さんからの手紙がありましたので、ほぼ事実だったのではないでしょうか。それと、貴方のお父さんと私の母は生前に約束していたみたいですよ。もしあの人が先に逝っても私はお見送りは出来ないけれど、もし私が先に逝ったら必ず見送ってねって。そんな約束をしていたみたいですよ。私はその話を聞いて死後の事まで約束を出来る人がいたなんてビックリしましたけど、二人はそこまで信頼していたのですね」


彼女はそう言ってまた、にっこり微笑んだ.


「それで母が亡くなったとき、生前に聞いていた電話番号に電話をしてお知らせしたんです」


僕の母が亡くなり、それからずっと父は一人暮らしだったので僕は余り父の日常は知らなかったのだ。そんな寂しい約束をした人がいたことを。


「貴方のお父さんが葬儀にお見えになり私達遺族に丁寧なお悔やみを言って下さいましたよ」と言って、その時の父の様子を詳しく話してくれた。


「貴方のお父さんは礼服ではなく普通のスーツ姿でした。私は最初違和感を持ちましたが、その後の行動でその意味が解った様に思いました。あなたのお父さんは棺の中の母を微笑みながら長い間見つめていました。きっと、母の死を受け入れられなかったのだと思います。それで何時も母と会っていた時の服装で母に会いに来たんだと思いました」


僕は彼女の話を聞いて、父を哀れに思った。


現実を受け入れられない思いで棺に眠っている愛する人が、どうしても生前の彼女と重ならなかったのだろう。


僕は気になっていた白い封筒の中の写真を取り出し彼女に聞いてみた。


「この写真の女の人ですが、もしかして貴女のお母さんではありませんか?」


すると彼女は驚いた表情で「あら、これは私の母ですわ」と言った。

やはり父が生涯愛し続けた初恋の人だったのだ。


そして「先ほどお話ししました、母が亡くなったら、この人に知らせてほしいと頼まれた時に、遺影はこの写真にしてねと、今貴方が持っている写真と同じものを私が預かっていたんですよ。その写真は母が喜寿のお祝いに貴方のお父さんとお花見と食事に行った時の写真だと言っていました。それで葬儀の時の遺影にしました」と言って、彼女はその時の悲しみが蘇ったのか、目に涙を浮かべて話してくれた。


僕は「辛いことを思い出させて済みませんでした」と謝った。


僕はもう一つ気になっている事を思い切って聞いてみた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る