第4話 お祭りの夜

 私は二十六歳の時、叔父の紹介である女性と暫く交際をした後に結婚をした。

翌年に長女が生まれ、その三年後に長男が生まれた。

それから五、六年近く何の変化もなく時は流れた。


この街には北陸の総鎮守と言われる神宮がある。

九月に入ると直ぐにこの神宮の例大祭が行われ一番賑わう時である。

それに合わせてこの街の秋の祭りが行われた。

参道の両脇には数百メートルに渡り露店が出ていた。

神宮に参拝するにも人の流れに押されながらの参拝になる。

メイン通りを歩行者天国にして各地区のグループで地元の民謡踊りで賑わっていた。


私も妻と子供二人と祭りに出掛けた。

神宮から少し離れた所では人混みはそれ程でもなかった。

子供が金魚すくがしたいと言ったので、妻と子供たちが並んで金魚すくいを始めた。

隣にも親子連れらしい三人の人達が金魚すくいをしていた。

私は子供たちの金魚すくいを見ていた。

隣の家族連れも楽しそうに金魚すくいをしている。


私は何気なく隣の女性を見た。

すると、私の視線に気づいたのかその隣の女性も私を見た。

私は思わず「佳穂理さん?」と小声で言った。

その女性も目を見開き、小さな声で私の名前を言った。

私は咄嗟に「連絡先教えて」と言っていた。

佳穂理は勤務先の会社の名前を小さな声で教えてくれた。

一分にも満たない何年振りかの再会であった。


それからお互いに連絡を取り合い近くの喫茶店で会うようになった。

私は佳穂理と会っている時間がとても気持ちが安らぎ落ち着く事が出来た。

佳穂理もよく笑ってくれた。

笑顔は一六歳の時のままだと思った。


こうして会う回を重ねたが、私が気になっていたことをなかなか聞く事が出来なかった。それは、高校を卒業して一年後位から私を避けるようになった事だった。


どうしてなのか?その理由を聞きたかったが今まで口に出せなかった。

聞く事が怖かったのである。

しかしある時、私は勇気を出して佳穂理に聞いてみた。

「佳穂理、あの時どうして俺を避けるようになったのか、ずっと気になっていたんだ。どうしてなんだ?」

佳穂理は私の突然の問いに、はじめははにかんだ笑い顔をしていたが、そのうち表情が暗くなり俯いたまま何も話そうとはしなかった。

その後に会った時にも数回聞いてみたが苦しそうな表情になりやはり何も話さなかった。私はそれからこの話はしなかった。


そうだ、佳穂理にもそうせざるを得ない事情があったのに違いないと思った。

私が今更その理由を聞いてどうしようというのだ。

誰にでも話したくない、聞かれたくない事の一つや二つはあるだろう。

私にだってそういう事が無いとは言えない。

佳穂理に辛い思いをさせてしまい、済まないと思った。


以前に、佳穂理に聞いた事がある。

「俺から連絡があって会いに来てくれるけど、イヤじゃないのか?」と。

その時、佳穂理は「イヤなら来ません」と言ってくれた。

現にこうして会ってくれているのだからそれで良いではないか。

過去の事はもう忘れようと思った。


こうして数か月が過ぎた頃、佳穂理は私の話に微笑みながらもフット遠くを見て寂しげな表情をするようになった。

私は時々不安な気持ちになった。

佳穂理は今のような関係は望んでいないのだろうか?

このような付き合いを終わりにしたいと思っているのだろうか?

私もこのような関係は良いとは思っていないが終わりにはしたくなかった。

佳穂理はどのような気持ちでいるのか聞くのが怖かった。


その様な不安な気持ちのままその後も数回会った時、佳穂理はポツリと言った。


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