第5話 転勤
「別れようと思っているの」と・・・
私の不安が現実になったと思った。
やはり佳穂理もそう思っていたのか。
私は暫く窓の外に視線をやり黙っていた。
「離婚するつもりなの」と俯いてまたポツリと言った。
佳穂理は勢いよく立ち上がり部屋を出て行った。
暫くして洗濯機の回る音がして来た。
佳穂理の一人娘は私が佳穂理と一緒に暮らすようになる一年ほど前に良縁に恵まれて結婚をしていた。今は二人暮らしである。
洗濯物もそんなにあるとは思えなかったが、佳穂理は毎日洗濯機を回していた。
暫くして佳穂理は部屋のドアーを少し開け「昼は何にする?」と聞いてきた。
「そうだな、朝が遅かったから軽いものでいいよ」と言うと「それじゃ麺類が良いわね」と言ってドアーをバタンと閉めた。
私はまた暖かい日差しを受けながら庭の景色を眺めていた。
あの時の佳穂理の辛そうな、悲しそうな表情が思い浮かんだのだ。
「離婚するつもりなの」と聞いて私の事では無いと知り不謹慎にもホッとした。
どんな事情があるのか?そこまで立ち入って聞くことは出来なかった。
大変悩んで決めた事は表情で十分に解った。
私は何も返す言葉が無かったが家庭を守るためにはそうするしかなかったのだろうと思った。それから二、三回会ったがその話は佳穂理からも私からもしなかった。
そして、しばらくして私の転勤が決まり地元を離れる事になった。
「準備できたよー」と食堂の方から佳穂理の声がした。
私は居間の隣のテーブルに向って行き椅子に座り「ほう、きつねうどんか」と言って食べ始めた。佳穂理も熱いうどんを啜り始めた。食べながら佳穂理は言った。
「朝食べると直ぐにお昼でしょ。昼が終われば今度は夜何にしょうかと悩んでしまう。あなたは何でも良いと言うけれど何でもが一番困るのよね。こんな事なら一人でいたほうがよっぽど気楽で良かったかなー」と言って笑いながら私を見た。
「片づけは俺がするからいいよ。お前はテレビでも観ておればいいから」
「何もそんな積りで言ったんじゃ無いけど・・・。それじゃお願いね」と言って
サッサと出て行ってしまった。
私は洗い物をしながら単身赴任で転勤した頃の事を思い出していた。
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