第24話 お墓参り
「二人はいつもお茶を飲んだり、公園を散歩したり、食事をしたり、それだけの付き合いだったのでしょうか?つまり男と女の関係ってあったのでしょうか?」
すると彼女は口に手を当て小さく笑いながら
「それは当然そう言う事もあったでしょうね。だってこんなに好き同士だったのですから。そうならない方が不自然では無いかと思いますよ。
私が結婚前ですけど、お仕事から帰ると母は時々出かけていて留守だったことがありました。祖母に聞くとお友達に会うから遅くなると言って出かけていると言っていました。母のお店は日曜日と月曜日をお休みにしていたので、その時に貴方のお父さんとお会いしていたのだと思います。それよりも、この二人には心の深い所でしっかりと結ばれていたんだと思いますよ」と言ってにっこり微笑んだ。
僕はこんな愚問をしてしまったことが恥ずかしくなり
「変なことを聞いてしまい済みませんでした」と謝った。
「母は大変、苦労はしてきましたけれど、決して不幸ではなかったと思っています。むしろ幸せだったと思いますよ。だってこんなに愛してくれていた人がいたのですから・・・」
彼女は少し目を潤ませ、そっと窓の外へ視線を向けた。
「せっかくですので、母のお墓にご案内しましょうか」
と彼女は言ったので「是非お願いします」と言った。
「貴方の車はこの車庫の中へ入れておいてくださいね」と言った。
そして彼女が運転する車で案内してもらったのである。
墓は菩提寺の境内にあり綺麗に手入れがされていた。
「母が亡くなり、半年ほど月命日にはきれいなお花が供えられていたんですよ。今から思うと、きっとあなたのお父さんだったと思います」
父は愛する人を失い急に衰えが激しくなった。
それでも半年の間、毎月会いに来ていたのだと思った。
そしてとうとう自分の体も思うようにならず、最愛の彼女を失って一年で力尽きたのだろう。まるで彼女の後を追う様に・・・
愛とは人の命までも支配するのだろうか?
僕は墓前に使い古した茶色の小銭入れを置いて静かに手を合わせたが、心の中は複雑な心境になった。
僕は中学生で、姉は高校生の頃、父と母は、時々喧嘩をしていた。
喧嘩の原因は僕には解らなかったが、悲しかった。
そんな時、姉は部屋に閉じこもり泣いていたことを覚えている。
でも、僕たち子供には優しかったし、よく遊んでくれた。
家の横の田んぼ道でキャッチボールをしたり、ラジコン飛行機を飛ばしに遠くの広場にも連れて行ってくれた。
高校の夏休みに自転車で北海道を一人旅をしたときは、何かと心配をし、アドバイスもしてくれた。
僕たち子供には良い父親だったのだ。
僕はお墓に眠る父の初恋の人にありがとうございましたと、心の中でお礼を言った。
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