第25話 孤独な人生?
父が思い描いた人生をこの物語に託したのだろうか?
思えば六十年以上にわたり、初恋の人と交際が続いていたことに驚いた。そして、
この様な人生を生きてきた父と、今お墓に眠るあなたを祝福したいと思った。
彼女は帰り際にバッグの中から一対のピアスを取り出して
「これも文箱の中に入っていたんですよ」
と言って手のひらに載せて見せてくれた。
「きっと貴方のお父さんから母がお店を閉める時にプレゼントをしてもらったピアスだと思います。手紙などと一緒に入っていたので母にとっては大切なものだったんだと思い、私が母の形見として持っていようと思っているんです」と、言った。
そして、再び彼女の車で帰ることにした。帰りの車の中で彼女は
「もし、貴方さえよければ、またお立ち寄りください。母も喜んでくれると思いますので。土曜、日曜は主人もおりますので、色々とお話ができると思いますよ」
と、言ってくれた。
僕は「有難うございます。今度お邪魔するときは妻と一緒にお伺いしたいと思います。妻には父の事、まだ詳しく話をしていないので、きっと驚くと思います。それにしても不思議なご縁ですね。」と言って、二人は顔を見合わせてにっこり微笑んだ。
今、お墓に眠るあなたと父はチヨッとした言葉の行き違いで大きく人生が変わってしまった。
もし、「長男の様なものだ」が正確に伝わっていたなら ・ ・ ・
僕はこの世に存在しなかったかも知れない。
言葉の大切さ、怖さを一番知っていたのは・・・父だったのだ。
僕たち家族を愛した愛と初恋の人を生涯愛し続けた愛と二つの愛を守り続けた父は、本当に幸せな人生だったのだろうか?
父は寂しさを、この物語を書く事で紛らわせていたのだろうか?
もし、この二つの愛の狭間で生涯を終えたとしたら、何と孤独な人生ではなかったのか? 僕には解らない ・ ・ ・
遠い回り道 青野 都夢 @ben0263
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