第10話 友との正月

 佳穂理は縁側の私の横で洗濯物を畳んでいる。

「あなた、落ち葉の片づけしてくれるのはいいけど、使った道具はきちんと片付けてくださいね。何時も後片付けしないんだから」

「あぁそうか、片付けてなかったか」と言って縁側の硝子戸を開けようとしたら

「もう片付けましたよ」と言って私を横目で睨んでいる。

今ではこうして小言を言ってくれるようになった事が少し嬉しかった。

佳穂理は洗濯物をたたみ、それを持って部屋から出て行った。

私は落ち葉を片付けながらあの時の事を思い出していたのだ。

アパートで一人暮らしを始めて、初めての新年を迎えた時の事を。


その年も明けて新しい年が始まった。

私は炬燵の中に寝転んで正月番組の面白くもないバラエティー番組を見ていた時、携帯電話が鳴りだした。

まさか佳穂理から?携帯をとって見ると、小学校からずっと友達の彼からだった。


「おい、どうしている?どうせ暇なんだろう。俺のところで正月しないか。色々聞きたい事もあるからな。」

「あぁ、分かった。後でお邪魔するよ。奥さんにも宜しく言ってくれ。」

彼の奥さんとも小さい頃から良く知っているので、気兼ねが無かった。

「おいお前、思い切った事をしたもんだな。いい歳をして何をしているんだ」

誰でもがそう思うことは、自分でも充分に分かっている。


彼は手短に新年のあいさつを済ませると、いきなり今日の話の本題に入った。

聞きたい事とはこの事だとは私は電話を受けた時から分かっていたのだ。


「そうだろうな、自分でもそう思う時があるよ。でももう走り出したからには今更引き返せないし、後悔もしていない。」

「何で一言相談ぐらいしてくれてもよかったんじゃないのか」

「こんな事を人に相談してその通りに出来ると思うか?どうせ反対されるに決まっているのに」

「まぁ、そりゃそうだ。で、これからどうする積りなんだ?」

「どうもこうも、俺が決める事では無いよ。彼女がどう決断するかだよ。俺は絶対に後悔はしない。結果がどうなろうと。後悔したら犯した罪がもっと深くなるからな。彼女がもし許してくれなければ一生罪を償いながら生きて行くよ。それでも俺は後悔は絶対にしない、そう覚悟はできている」

「そうか、お前がそこまで言うんなら俺はもう何も言わない。しかし、俺はお前の決意に賛成したわけでもないし、応援をする積りはないからな。この事だけはお前もしっかり覚えておけよ。もうこの話はこれまでだ。」

「心配してくれて嬉しいけど、俺の気持ちは変わらないから・・・

済まなかったな」

「もう解った。正月だ。今日はゆっくり飲もう。家内の料理は旨いぞ」

そうして随分酒を酌み交わして、私は誰もいないアパートへ帰った。


そして酒の力を借りて眠ろうとひんやりする布団の中へ潜り込んだ。

ようやく眠りかけた時「おい、お前何で泣いている」

いきなりもう一人の自分がささやきかけた。

「やっぱりお前は後悔しているのか?」

「そんな馬鹿な、後悔じゃない。背負った十字架の重さに耐えているのだ。」

そこには必死で涙をこらえている私がいた。


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