遠い回り道
青野 都夢
第1話 父の一周忌
僕は昼の休憩が終わり午後の仕事に取り掛かろうと席に戻った時、上着の内ポケットに入れてある携帯電話がブルブルと震え出した。
取り出して着信画面を見ると妻からの電話だった。
「どうしたんだ。職場にまで電話してきて」と、言うと妻は
「ごめん、今警察から電話があったのよ」と、震えた声が聞こえてきた。
「何、警察?子供たちに何かあったのか?」
「子供たちじゃなくて、お父さんが亡くなったって警察から電話があったのよ」「何、親父が死んだ?」
「そう、だからすぐに帰って来てほしいって」
僕はさっぱり状況が解らなかったが、急いで実家に帰ることにした。
一週間前に、実家へ帰った時は元気に畑仕事をしていたので「親父、無理するなよ」と、言って安心して帰って来たばかりなのに。
妻からの電話の話だけでは何も分からない。
僕は妻には子供たちを連れて後から来る様にと伝えて先に一人で実家へ帰ることにした。実家に帰ると刑事が二人と、制服の警察官が一人、白衣を着た医師が一人いた。
そして、近所に住む叔母が青ざめた顔で僕の帰りを待っていた。
刑事の一人が僕が帰ると、僕の身元の確認をして状況説明をしてくれた。
医師の検視の結果、死因は外的要因では無く、病死と言う判断で事件性がないので我々はこれで引き上げる。状況については、叔母さんに聞くようにと言って帰っていった。
叔母の話では、昼の食事のおかずを届けに来たところ、テーブルにうつ伏せになり昼寝をしているようだった。
声を掛けても起きないので、可笑しいなと思って、顔を覗き込むと息をしていない様に思ったので、直ぐに救急車を呼んだそうだ。暫くすると救急車が来たが、すでに死亡していると言われた。それで救急隊員が警察へ連絡したと言う事だった。
テーブルの上には、僕が結婚した次の年から毎年正月の元日に家族写真を撮ることが恒例の行事となっていた。すでに二十年ほど続いている。
そのアルバムが出してあった。父はその写真を見ながら亡くなったのだろう。
写真ではあるが家族に見守られて息を引き取ったのだろうか?
あれから一年が過ぎ先日、父の一周忌の法要を済ませた。
父が最後まで住んでいた家屋は今では空き家となってしまった。
僕にとっても高校卒業まで暮らしていた家なので思い出の多い家である。
居間の柱にはその年々の身長を測った年齢と印しが付いている。
僕はこの空き家となった家屋を取り壊すことに決め妻と二人で家の中の片付けをしていた。大きな家具や衣類、食器類などは業者に頼みほぼ片付いている。
ガランとした家の中で父の使っていた机の中の物は後で整理をしようと段ボール箱二つに入れておいたのだ。
そのうちの一つには今ではもう役に立たない表計算ソフトの教則本とカメラなどの説明書だった。もう一つの段ボール箱も似たような物しか入っていなかったが、箱の底の方にお菓子の空箱の様な物があった。
僕は中を開けてみた。そこには使い古した茶色の小銭入れと白い封筒が一枚、そして少し黄ばんだA四用紙十数枚が入っていた。
その用紙にはびっしりと文字が書かれている。
僕は白い封筒を開けて中の物を取り出して見ると一枚の写真が入っていた。
そこには少し振り向き顔を傾げてにっこり笑っている女の人が写っていた。
歳の頃は七十台半ばだろうか。奇麗な婦人の写真だった。
人物に焦点を合わせて撮ったのだろうか、バックの桜の花が少しぼやけている。
桜の花が満開の季節だったのだろう。
この女の人は僕には心当たりのない人だった。
そして少し黄ばんだA4用紙に書かれた文章を数枚読んでみると、作者不詳となっているが父が書いたものに間違いないと思った。
読み進むにつれ、そこには僕の知らない父親がいた。
その物語は次に記すことにする。原文のままである。
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