第16話 女将さんに報告
私は、次の日の月曜日に仕事を終え何時ものおでん屋へ立ち寄り食事を済ませようとした。
店の暖簾をくぐり中へ入ると月曜日なのにこれから夜の街へ繰り出そうとする人達で随分混んでいた。
私は、女将さんに報告と相談をしたかったが、この様子では無理だと思い軽く食事を済ませ女将さんに「また後で寄るから」と言って店を出た。
私は一旦、アパートへ帰り部屋の片づけなどをしながら時間を過ごし、九時ごろに再び女将さんの店へ向かった。
その時間は幸いにも客は私一人だった。
「さっきは何かお話でもあったのですか?」
女将さんが先に聞いてきた。
私はビールとつまみに枝豆と焼き鳥を頼み、一気にグラスのビールを飲み干した。
「何か良いことでもあったのですか?そんなに一気にビールを飲むなんて珍しいですね」
「解りますか? 女将さんが元気づけてくれたお陰で先日、彼女から良い返事が貰えたのです。」
「へー、そうなの。良かったわね。おめでとう。でも返事貰えるまで随分長かったんじゃない?」
「あゝ、去年の九月の終わり頃から五月だから八か月になるよ。」
「良く辛抱しましたね。辛かったでしょ?」
「そりゃ辛かった。もうダメかと思って会社に北海道の支店に転勤願いを出そうと思っていたくらいだよ。それで、彼女今スナックやっているのだけど、今月一杯で店を閉めるんだ。」
「あら、そうなの。今月いっぱいと言うと後、三日だね。何という店なの?」
「かほりって名前なんだけどね」
「あら、その店なら私も知っていますよ。確か一回お客さんと行ったことがありますよ。綺麗なママさんですね。貴方の彼女、その人だったの?」
「そうなんだ。それで店を閉める事なんだけど、俺の事を気にかけて閉める事にしたんだと思うんだ。彼女は、それもあるけど、そればっかりじゃないので気にするなと言っているけど、何だか申し訳なくてね」
「そうかも知れないけど、やっぱりすれ違いの生活は良くないと思いますよ。私の場合なんだけど、あの人は工事現場で働いていたでしょ。朝は早いし、夜は私が店を開ける時間でもまだ帰ってこなかったし、そんなんで朝ご飯も、夜ご飯も、ろくなお世話もできなかったのが、今一番後悔していることなの。だから彼女の判断は正しいと思いますよ。」女将さんはそう言って「本当に良かったわね」と又、言ってくれた。
「それで女将さんにお願いがあるんだけど」
「何なの、何でも言ってみて」
「実は彼女の店を閉める日に彼女の慰労会と、二人の再出発のお祝いを女将さんの店でしたいんだ。時間は十時半位からになるけど。どうだろうね?」
「それは一向にかまわないけど、時間外の深夜になるから割り増し料金は頂くよ。それにしても本当に良かったわね。割増料金の事は冗談だからね」と言って嬉しそうに笑うのだった。
「もちろん、お祝いなんだから割り増しでも何でも喜んでさせてもらうよ。それで女将さんに相談なんだけど、何か記念になるようなものを彼女にプレゼントしたいとっているんだけど、どんな物が良いだろうか?」
「そうだね。女の人だから身に着けるもの・・・例えばネックレスとか、イヤリングとか・・・」
「そう言えば彼女、ピアスをするのに耳たぶに穴を開けたと言っていたな。あれ耳たぶを冷やしてパチンとするらしいね」
「何だ、それならピアスにしたらどうだろうね」
と言う事で話がまとまり、私は女将さんにその日はよろしくとお願いして店を出た。
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