第18話 新たな出発

 外に出ると明るいお月さんが歩道を照らしていた。

駐車場まで二人は無言で歩いて行った。


二人ともこれ迄の苦しかった心の葛藤を思い、言葉が出なかったのである。

佳穂理はお酒を飲まないので帰りは佳穂理が車の運転をしてくれた。


車を運転しながら私をチラッと見て佳穂理は言った。

「あなた、さっき女将さんが言ってたけど、私からの返事がダメだったら北海道の支店へ行くつもりだったの?」

「あゝ、真剣にそう思ったよ。北海道はみんな行きたがらないから、願いを出せば直ぐにでも行けるからね。それと佳穂理の事を忘れるためにも、この町には居れないだろ?」と言うと、佳穂理は少し困惑した表情をしたが、すぐに明るい声で

「私は、北海道は素敵な所だと思うけどなあ」と、言った。


「そりゃ、観光旅行で行くんならいい所だと思うけど、仕事となると、そんな訳には行かないからね。第一こちらから行くと冬の寒さには耐えられないよ」


「そうかも知れないけど、それも二、三年辛抱すれば、馴れるんじゃない?私は北海道、素敵だと思うけどね」


「何だ、お前は俺を北海道へ行かせたかったのか?」

私はあの苦しい思いをしていた頃のことを思い出し、少し気分が悪かった。


佳穂理はその様なつもりで言っていない事は解っていたが、あの苦しくて辛かった時のことを思い出してしまったのである。


「ごめん。私の言い方が悪かったわね。機嫌直してよ」

私はわざと不機嫌な顔をして「あゝ、分かったよ」と言った。


時計を見るともう六月一日になっていた。

二人は佳穂理の家の玄関の前に帰って来た。

「じゃ、入りましょ」と言って佳穂理は玄関のドアーを開けて、私の背中をそっと押した。二人は玄関の中へ入った。


私は佳穂理の肩を優しく抱いて「佳穂理、本当にありがとう」と言った。

佳穂理も私の背中に手を回し優しく抱きしめてくれた。

そして、二人の唇が重なった。


こうして、佳穂理との生活が始まったのだった。


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