第12話 おでん屋の女将さん(Ⅱ)

「俺はそんな事はしたくないんだ。

彼女も結婚に失敗しているけど、理由は俺とは反対だった。

彼女は家庭を守るために離婚したけど、俺は家族を裏切ったんだよ。

また同じことをするんじゃないかと、不信感を持っていると思うんだ。

だからあくまでも彼女自身の意思で決めてほしいと思っている」

「貴方はそんなに自分に自信が無いんですか?その人と一緒になりたいと思って、体一つで別れて来たんでしょ。

それで十分彼女は貴方の気持ちは分かっていると思いますよ。

あなた達は生きているんですよ。これから幾らでも幸せになれるのに。

私の様に失くしてしまってからでは、どうする事も出来ないのですよ」

「それは俺もよく分かっているよ。

彼女は一回離婚を経験しているから慎重になって当然だよ。

そんな時に俺が余りせかせれば一層心を閉ざしてしまうと思うし、彼女の自由な気持ちで決めてほしいと思っている。

一回手紙を出したけど、その返事がなかったしね。」


私は高校時代の彼女との出会いから交際の事も以前に話していたのでそれを思い出したのか、女将さんは又、話し出した。


「学校を卒業して急に貴方を避けるようになったと言っていたけど、あの時、もっと私の亭主の様に積極的にアタックしていたらまた、変わっていたかも知れないよ。

今更何を言っても駄目だけどね。只、待つだけではどうだろうかねぇ」


そんな身の上話も親身になって聞いてくれたのである。

今日も女将さんと世間話をしながら、お酒とおでんで食事を済ませた。

そして誰もいないアパートへ帰り、習慣になっている郵便受けを見た。

今日は珍しく三通の手紙が届いている。

その中の一通は白い封筒の厚みのある手紙だった。

宛先には綺麗な文字で私の住所と名前が書かれていた。

裏を返してみると、佳穂理からの手紙だった。


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