第21話 愛する事とは?
そして、鍋の時は最後におじやで夕食が終わる。
「後片付けは俺がやるよ」と、佳穂理に言うと
「あら、昼のこと、まだ根に持っているの」と言って大笑いするのである。
「それよりもお風呂の方お願いしますよ」と言って佳穂理は後片付けを始めた。
二人は風呂も済ませ居間でテレビを観ている。
「ねぇ、今度のお正月だけど、娘たちは旦那さんの方へ行くみたいよ。お正月どこか近くの所へ初詣に行かない?」
私は他の事を考えながらテレビを見ていた。
「ねぇ、聞いている?何ボンヤリしているのよ。今度のお正月、何処かへ出かけない?」
「あぁ、そうだな」
「そうだなって、ちゃんと聞いている?何ボンヤリしているのよ」
佳穂理はチョット苛立っている。
私は今日の朝からの事を思い浮かべていたのだった。
どうして今日の朝から過去の事を次から次と思い出していたのだろう。
佳穂理の問いかけがきっかけになって、次々と過去が蘇ってしまった。
「そうだな、二、三時間で行ける所が良いかな。雪の降らないところで」
「そうすると・・・ どこがいいかな❘」
私は見ているでもないテレビを見ながら
「適当に考えておいてくれ」
と言うと佳穂理は不満そうに私を睨んでいる。
「解った。俺も計画を立ててみるから」
「もし、行った先で宿が取れれば一泊しても良いよね」
「あぁ、それでも良いね。まず無理だと思うけど」
夜も随分更けてきた。
佳穂理は「そろそろ休みましょうか。戸締り電気、ちゃんと見て頂戴ね」と言って
寝室へ入って行った。
私は言われた通り戸締りと電気のスイッチを確かめて休むことにした。
私は佳穂理の横に潜り込んだ。
佳穂理は暫く寝返りを打っていたが、私の腕を抱いて安らかな寝息をたて始めた。
私は佳穂理の顔を見つめながら思った。
私は十六歳の佳穂理に初めて恋をして、私の心の中に小さな可憐な花が咲いた。
そしてその花は、私の心の中で今日まで枯れずに咲き続け、ようやく小さな赤い実をつけたのだと思った。
私は佳穂理と巡り会って人を愛する喜びと幸せを知り、そして人を愛する辛さと切なさも知った。
普段は気丈で明るく振る舞う佳穂理だが、一緒に暮らし始めたころだった。
佳穂理は庭の片隅で、うずくまる様に背中を丸め草取りをしている。
その佳穂理の肩が震えているのを私は見た。
佳穂理は草取りをしながら泣いていた。
自分の判断が正しかったのか?誤って無かったのか?
佳穂理は今も苦しんでいるのだ。
佳穂理、そんなに自分を責めないで、佳穂理は何も悪くないんだ。と
私は心の中で祈るように呟いた。
愛する事とはこんなにも人を苦しめ、人を悲しくさせるものなのか?
夕方の買い物の途中に佳穂理は言った。
「あなた、佳穂理はネ、今、とっても幸せだよ」
私はこの言葉を信じて残りの人生を佳穂理と共に生きて行かなければならない。
風の音が大きくなってきた。また、荒れた日が続きそうだ。
私は佳穂理の顔をじっと見つめていると何故か胸が熱くなってくる。
愛おしくて、切なくて、悲しくて、辛くて、全ての感情に押し潰されそうになる。
私たちは、どうしてこんなに遠い回り道をしてしまったのだろうか。
あの時、私にもう少しの勇気があって、佳穂理ともっと話をしていたならば、こんなに遠い回り道をしなくて良かったのかも知れない・・・
私の腕を抱いて安らかな寝息を立てながら佳穂理は眠っている。
私は佳穂理の唇にそっと指で触れてみた。
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