第45話 友人の心配

放課後、太郎、花子、美咲の三人は喫茶店に集まっていた。テスト勉強のために集まったはずだが、三人の間には楽しげな空気が漂っている。


「ねえねえ、この前のカラオケの話なんだけど、太郎の熱唱がまだ耳に残ってるよ」花子が笑いながら言う。


太郎は少し照れくさそうに頭をかく。「ちょっとテンション上がりすぎたよな」


美咲も小さく笑いながら言う。「でも、鳴海くんの歌、すごく熱がこもってて...良かったよ」


「神崎まで!」太郎は顔を赤らめる。


そんな和やかな雰囲気の中、喫茶店のドアが開き、健太が入ってきた。


「おう、遅くなってすまん」健太が声をかける。


三人の楽しげな様子を見て、健太はニヤリと笑う。「やっぱりお前ら三人、仲良すぎだろ」


花子は意地悪そうな笑みを浮かべる。「あら、じゃあ健太は邪魔者ってこと?帰ってもらおうかな」


「おいおい、冗談きついぞ」健太が笑いながら座る。


みんなで笑い合った後、やっと勉強モードに入る。太郎と美咲は自分の勉強をしながら、時折花子と健太の様子を見守っていた。


「ここはこうだよ」太郎が健太のノートを指さす。


健太は首をかしげる。「えっ、そうなのか?」


太郎は自分の数学の問題に取り組みながらも、時々二人の様子を気にかける。そんな太郎を見て、美咲が優しく声をかけた。


「鳴海くん、古典苦手だよね?」


太郎は少し困ったような顔をする。「そうなんだ。古典だけはどうしても苦手で...神崎よく覚えてるな」


「この前も困ってたから。よかったら、教えましょうか?」美咲が微笑む。


「ありがとう。助かる」太郎は感謝の気持ちを込めて答える。


美咲の丁寧な説明を聞きながら、太郎は少しずつ古典の理解を深めていく。その姿を見て、花子は少し複雑な表情を浮かべた。


しばらくして、太郎と健太が同時にトイレに立つ。


トイレの中で、健太が突然真剣な顔で太郎に向き直る。


「おい、太郎。結局どっちが本命なんだ?」


「え?」太郎は驚いて声を上げる。


「花子と美咲だよ。お前、どっちが好きなんだ?」


太郎は言葉につまる。「それは...どっちとかじゃなくて...」


健太はじっと太郎の目を見つめる。


太郎は深呼吸をして、素直に答えた。「正直、わからないんだ。でも、今の関係が楽しいんだ」


健太は少し心配そうな表情を見せる。「お前らが楽しいならいいけどさ、結構いびつな関係だぞ。気をつけろよ」


太郰は静かに頷く。「わかってる。でも、今はこの関係を大切にしたいんだ」


健太はため息をつきながらも、理解を示すように頷いた。「まあ、お前の気持ちはわかった。でも、誰かを傷つけないように気をつけろよ」


「ああ、ありがとう」太郎は感謝の気持ちを込めて答えた。


二人が席に戻ると、花子が意地悪そうな笑みを浮かべて言った。「二人でトイレ行って、作戦会議?」


健太はすかさず冗談めかして返す。「そうそう、この後どうやって誘うか会議してたんだ」


太郎はあきれたように言った。「はいはい、勉強しましょうね」


そう言いながらも、太郎の心の中では様々な感情が渦巻いていた。花子の明るさ、美咲の優しさ。どちらも大切な存在だ。しかし、健太の言葉も心に引っかかる。


(本当にこのままでいいのか...)


太郎は自分の気持ちと向き合おうとするが、すぐには答えが出ない。


「鳴海くん、どうしたの?」美咲が心配そうに声をかける。


「あ、ごめん。ちょっと考え事してた」


花子も心配そうに太郎を見る。「大丈夫?」


太郎は無理に笑顔を作る。「うん、大丈夫。さあ、勉強勉強」


四人は再び勉強に集中し始めた。しかし、太郎の心の中では、まだ迷いが残っていた。この関係をどう進めていけばいいのか。答えは簡単には見つからない。


ただ、この瞬間が彼にとって大切な時間であることは間違いなかった。

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