第33話 心の揺らぎ
教室に戻った三人は、それぞれの席に着く。太郎は窓際の席で、ぼんやりと外を眺めていた。屋上での出来事が頭から離れない。
(花子のあの行動は一体...)
太郎は右肘の感触を思い出し、顔が少し熱くなる。しかし、同時に美咲の笑顔も頭をよぎる。複雑な思いに駆られ、太郎は深いため息をつく。
一方、美咲は自分の席で教科書を開きながら、時折太郎の方をチラチラと見ていた。彼女の目には、少し物思いに耽るような色が宿っている。
そんな二人の様子を、花子は楽しそうに観察している。彼女の頭の中では、次の計画が練られていた。花子の目には、いたずらっぽい光が宿る。
授業が始まり、先生の声が教室に響く。しかし、太郎の心はまだ屋上での出来事に留まったままだった。黒板の文字が、ぼんやりとしか見えない。
放課後、太郎は急いで帰路につこうとしていた。今日はできるだけ早く帰って、気持ちを整理したかった。
しかし、校門を出たところで、
「太郎!」
後ろから花子の元気な声が響く。太郎は緊張しながら振り返る。
「花子...何?」
花子は意味深な笑みを浮かべながら近づいてくる。その表情に、太郎は思わず身構えてしまう。
「ねえ、今日の写真のこと...どう思った?」
太郎は言葉につまる。「え、えっと...いい写真だったと思うよ」
花子はニヤリと笑う。「そう?私は特に太郎の表情が面白かったな」
「え?」
「ほら、右肘に何か感じたでしょ?」花子がからかうように言う。
太郎は焦る。「やっぱりあれワザとだったのか」
花子はくすくすと笑う。「嬉しかったでしょ?太郎期待してると思って」
「あ、鳴海くん、結城さん」
突然、美咲の柔らかな声が聞こえる。
「神崎...」
太郎は慌てて花子から距離を取る。美咲は少し不思議そうな顔をしている。その大きな瞳に、疑問の色が浮かんでいる。
「二人とも、何かあったの?」
花子は何事もなかったかのように明るく答える。「ううん、なーんでもないよ。太郎がおっぱい好きって話!」
太郎は驚き大きな声を上げた。「はぁ!お、おい!!」
笑いながら逃げる花子とそれを追いかける太郎。美咲は訳が分からず二人の追いかけっこを目で追っている。その表情には、困惑と少しの寂しさが混ざっているようだ。
太郎は息を切らし膝に手を付いている。汗が額を伝い落ちる。
「部活入ってないからよ」花子も息を切らしているが太郎ほどではない。その顔には勝ち誇ったような笑みが浮かんでいる。
「お前も部活入ってないだろ...」太郎はやっとのことで一言突っ込んだ。
「結局どういうことなの?」美咲は不思議そうに二人に尋ねる。その声には、少し焦りのようなものも混じっている。
「まぁ太郎も男の子だからね」うんうんと頷きながら花子が答えた。
「なんか二人だけの秘密って感じ」美咲は少し不機嫌そうに言った。その目には、寂しさの色が浮かんでいる。
「そんな大それた話じゃないよ。花子がバカ言ってるだけだから!」太郎は焦りながら釈明する。その必死な様子に、美咲の表情が少し和らぐ。
太郎は話をそらしつつ、美咲の機嫌をとり、三人は一緒に歩き始める。しかし、太郎の胸の中は複雑な思いで満ちていた。花子の言葉、美咲の不機嫌、そして自分の本当の気持ち。それらが絡み合い、彼の心を混乱させる。
家に帰った太郎は、ベッドに倒れ込む。スマートフォンには、今日撮った3人の写真が表示されている。笑顔の3人。しかし、その笑顔の裏に隠された思いは、誰にもわからない。
太郎は写真を見つめながら、今日の出来事を思い返す。花子の意味深な行動、美咲の寂しそうな表情。そして、自分の揺れ動く気持ち。
窓の外では、夕日が街を赤く染めていく。その輝きは、太郎の複雑な思いを映し出しているかのようだ。
太郎の心の中で、新たな感情が静かにうねりを上げ始めているようだ。この揺れ動く気持ちが、彼の青春にどんな影響を与えるのか。それは、まだ誰にもわからない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます