第35話 秘密の距離

月曜日の朝、太郎は学校へ向かっていた。校門に近づくと、いつもと少し違う光景が広がっている。生徒会のメンバーが並んで、登校してくる生徒たちに挨拶をしている。


太郎は深呼吸をして、普段通りを装おうと努める。


「おはようございます」


副会長の佐々木美穂が太郎に挨拶をする。


「お、おはようございます」太郎は少し緊張気味に返事をする。


そして、その隣に立っていた東雲翔子と目が合った。


「おはよう、鳴海くん」


東雲の声は、いつもより少し柔らかく聞こえた。


「おはようございます、東雲先輩」


太郎は慌てて挨拶を返す。二人の間には、他の人には気づかれない微妙な空気が流れる。


東雲は太郎をじっと見つめ、突然手を伸ばした。


「あら、鳴海くん。肩にほこりが付いているわ」


そう言って、東雲は一歩近づき太郎の肩に手を伸ばし、優しくほこりを払った。その仕草は柔らかく、まるで大切なものに触れるかのようだった。


「あ、ありがとうございます」太郎は少し上ずった声でお礼を伝える。


「今日も一日頑張ってね」東雲が優しく微笑む。


「はい、頑張ります」



太郎は軽く頭を下げ、校舎に向かって歩き始める。しかし、背中には東雲の視線を感じていた。


教室に向かう途中、後ろから声がかかる。


「太郎!」


振り返ると、花子が美咲と一緒に近づいてきた。


「おはよう」太郎は二人に挨拶をする。


花子は意味深な笑みを浮かべながら言う。「ねえねえ、朝から東雲先輩と何してたの?」


「え?」太郎は少し動揺する。「いや、普通に挨拶たら、肩にほこりが付いてたみたいで取ってもらっただけだよ」


美咲も興味深そうに太郎を見ている。


花子が少し大げさに言う。「そんなの口で伝えればいいのにわざわざ取ってくれたんだ」


太郎は慌てて言い訳をする。「そ、そんなことないよ。普通だって」


花子はニヤリと笑う。「ふーん、そうかな?」


三人で教室に向かいながら、花子が話を続ける。


太郎は強引に話題を変える。「そ、それより、朝イチの授業何だっけ?」


花子は太郎の様子を見て、さらに疑念を深めるが、それ以上は追及しない。


授業が終わり、昼休みになった。太郎はポケットから取り出したスマートフォンを確認すると、東雲からのLINEメッセージが届いていた。


東雲:「鳴海くん、昨日の件だけど、まだ誰にも気づかれていないみたい。安心したわ」


太郎は周りを気にしながら、こっそりと返信する。


太郎:「そうですか、よかったです」


東雲:「あかりのわがままで、これ以上迷惑をかけたくなかったから。本当に申し訳なかったわ」


太郎:「いえ、僕も楽しかったです。気にしないでください」


東雲:「ありがとう。じゃあ、また」


太郎はほっとしたように深呼吸をする。しかし、その表情の変化を見逃さなかった人物がいた。


「ねえ、太郎」花子が話しかけてくる。「なに、そんなにニヤニヤして」


「え?」太郎は慌てて平静を装う。「べ、別に...」


花子は意地悪そうな笑みを浮かべる。「ふーん。東雲先輩?」


太郎は慌てて否定する。「ち、違うよ!」


花子はさらにニヤニヤしながら「他にLINEしそうな人いないし...」と言う。


太郎は言葉に詰まり、「そ、そりゃ多くはないけど...」と小さくつぶやく。



その後、太郎は一人で中庭のベンチに座っている。風に吹かれながら、自分の気持ちを整理しようとしていた。


朝の東雲とのやり取りとその後のLINE、なぜかそれを花子に知られたくないとすぐにバレたが嘘までついて隠そうとした自分の気持ちが整理できない。


花子との友情、そして美咲への想い。それらが複雑に絡み合い、太郎の心を混乱させる。


(きっと、このモヤモヤした気持ちにも、いつか答えが出るはず)


太郎はそう自分に言い聞かせながら、空を見上げた。


青い空の下、太郎の青春は新たな局面を迎えようとしていた。これから先、どんな展開が待っているのか。

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