第30話 スマホの中の秘密

教室の隅で、太郎はスマートフォンを覗き込んでいた。画面には、東雲とのLINEのやり取りが表示されている。


「ごめんなさいね、変な噂が流れてしまって...」


東雲からのメッセージに、太郎は少し照れくさそうに返信を打つ。


「大丈夫ですよ。むしろ光栄なくらいです」


送信ボタンを押した瞬間、新しいメッセージが届く。


「あかりが鳴海くんに会いたがっているんです。でも、また誤解されたりすると困るので、我慢させているんですよ」


そう書かれたメッセージの下に、あかりの笑顔の写真が添付されていた。無邪気に笑うあかりの姿に、太郎は思わず顔がほころぶ。


(かわいいな...)


太郎が画面を見つめてにやけている様子を、近くの席から花子が見ていた。彼女は興味深そうに太郎に近づき、声をかける。


「ねえねえ、太郎。何見てるの?そんなにニヤニヤしてHな写真でしょ?」


突然の声に、太郎は慌ててスマートフォンを隠そうとする。


「べ、別に...何でもないよ」


「怪しすぎる!」と花子は回り込んで画面を覗く。


そして、画面に映るあかりの笑顔に、花子は目を丸くする。


「わっ!かわいい!この子誰?」


花子の声に誘われるように、美咲も近づいてきた。


「どうしたの?」


静かな声で尋ねる美咲。太郎は諦めたように説明を始める。


「あの...東雲先輩の妹さんなんだ」


「あ~」花子が納得したように言う。「噂のショッピングセンターデートの時に一緒だったんだっけ」


二人がなるほどと納得する中、花子がふと気づいたように太郎を見る。


「でも、ちょっと待って」花子の目が怪しげに光る。「なんで太郎、東雲先輩とLINE交換してるの?」


その言葉に、美咲も少し驚いたような表情を見せる。


「そ、それは...」太郎が言葉を濁す。


「ほら、やっぱり何かあったんでしょ?」花子がニヤリと笑う。「正直に話しなさいよ」


美咲も、静かに但し真剣な眼差しで太郎を見つめている。


「違うんだ!」太郎が慌てて説明を始める。「あの日、三人で写真を撮って...それを送ってもらうためにLINE交換しただけなんだ」


「へぇ~」花子が意味深な笑みを浮かべる。「写真ねぇ...」


美咲は黙ったまま、複雑な表情を浮かべている。


「本当だよ」太郎が必死に弁明する。「ほら、ここに写真がある」


太郎がスマートフォンを操作し、あの日撮影した三人の写真を表示する。中央で無邪気に笑うあかり、そしてその両脇で微笑む太郎と東雲。


「わぁ」花子が目を輝かせる。「東雲先輩、すっごくいい笑顔」


美咲も思わず見入ってしまう。


「東雲会長、こんな顔で笑うんだ。ホントに仲良さそうな写真だね」美咲は素直な印象を話す。


「この時初めて交換して、今は噂の話とか妹さんが会いたがってるとかって話をしてただけだよ」太郎は懸命に理由を伝える。


「そんな一生懸命否定しなくても」花子が笑う。「将を射んと欲すれば先ず馬を射よってことね。太郎うまいことやるじゃない」


「そ、そんなつもりで仲良くなってないから」太郎はまたもや懸命に伝える「ホントになんか気に入られちゃっただけだから」


「こんなかわいい子たぶらかして」花子は美咲を見ながら「今もかわいい子二人も...」


「自分でかわいいとか言うなよ」太郎は二人を見て急に意識しだし「こ、この話はもう終わり」


「焦る太郎みて楽しかったし許してあげるよ」花子はそう言ってから切り出した。「最近この三人で居る事多いしライングループ作ろうよ」


花子が提案すると、太郎と美咲から気まずい空気が流れる。


「神崎のライン知らない…」


「ライン交換してないんだよね…」


花子は二人の様子を見て、意味深な笑みを浮かべる。「へぇ~、そうだったんだ~」


突然、花子が明るい声で言う。「よし!決まり!」


「え?」太郎と美咲が同時に声を上げる。


「二人とも、今すぐLINE交換しちゃいなさい!」花子が笑顔で言う。「ほら、QRコード出して!」


太郎と美咲は戸惑いながらも、花子の勢いに押されるように、スマートフォンを取り出す。


「えっと...」太郎がQRコードを表示させる。


美咲は少し照れくさそうに、でも嬉しそうな表情でスマートフォンをかざす。


「はい、これで友達追加完了!」花子が喜ぶように言う。「ほら、簡単でしょ?」


太郎と美咲は顔を見合わせ、少し照れくさそうに笑う。


花子は満足げに二人を見つめる。「これで、みんなで写真とか共有できるね!」


その言葉に、美咲の目が輝きを増す。「うん、楽しみ...」


三人の間に、温かな空気が流れる。しかし、太郎の胸の中では、まだ何か言いようのない感情がうねっていた。東雲とのLINEのやり取り、そして今追加した美咲。これらが、彼の心にどんな影響を与えるのか。


その時、チャイムが鳴り響く。


「あ、授業だ」花子が慌てて席に戻る。


美咲も静かに自分の席へと向かう。その後ろ姿を見送りながら、太郎は複雑な思いに駆られる。


(俺は...一体どうしたいんだろう)


スマートフォンには新たに追加された美咲の名前。太郎は深いため息をつきながら、画面を閉じた。


教室の窓からは、初夏の陽光が差し込んでいる。太郎の心の中で、新たな感情の芽が静かに、しかし確実に育ち始めていた。美咲とのLINE交換。それは単なる連絡手段以上の意味を持つのかもしれない。


授業が始まり、先生の声が教室に響く。しかし、太郎の心はまだ先ほどのやり取りに留まったままだった。美咲の嬉しそうな表情、東雲との何気ないやりとり、そして花子の明るさ。これらが絡み合い、彼の青春をより複雑なものにしていく。


これからの展開を、誰も予測することはできない。ただ、彼の青春が、また一歩前に進もうとしていることだけは確かだった。そして、その一歩が彼をどこへ導くのか。それは、まだ誰にもわからない。

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