第2話 勉強会
放課後、図書室。
太郎は緊張で固まったような表情で椅子に座っていた。隣には笑顔の花子、そして向かい側には神崎美咲。夢にまで見た美咲との至近距離。しかし、現実は夢と違って、妙に居心地が悪い。
「えーっと、じゃあまず7ページ目から見ていこうか」
美咲が教科書を開きながら話し始めた。太郎は小さく頷く。
「あ、はい...」
花子も真剣な表情で頷いた。
(くそっ、どうして喋れねぇんだよ...)
太郎は内心で自分を叱咤する。せっかくのチャンスなのに、緊張のあまり言葉が出てこない。
「ね、鳴海くん」突然、美咲が声をかけてきた。「ここの部分、どう訳したらいいと思う?」
「え?あ、ああ...」
慌てて教科書を覗き込む太郎。しかし、目の前の文字が踊って見える。
「えーっと...これは...」
「鳴海くん、大丈夫?」
美咲の優しい声に、太郎の顔が瞬時に真っ赤になる。
「だ、大丈夫です!ちょっと考え中で...」
「あはは、太郎ったら」花子が軽く笑う。「なんで敬語なのよ。」
太郎は慌てて咳払いをする。
「い、いや、別に...」
「もしかして、緊張してる?」
花子のいたずらっぽい声に、太郎は思わず椅子から転げ落ちそうになった。
「ちょ、ちょっと!花子!」
「えっ、鳴海くん緊張してるの?」美咲が不思議そうに首をかしげる。「私たち、去年も同じクラスだったのに」
「あー、それはねぇ」花子が意味ありげに笑う。「太郎ってば、実は—」
「うわああああ!」
太郎の絶叫が図書室に響き渡った。
「しーっ!」司書の先生が厳しい目で睨みつけてくる。
太郎は小さくなって謝罪する。
「ご、ごめんなさい...」
美咲は困惑した表情を浮かべている。
「鳴海くん、本当に大丈夫?」
「だ、大丈夫です!本当に!」太郎は必死に取り繕う。「ちょっと...椅子が不安定で...」
「へぇ~」花子が意味ありげな笑みを浮かべる。「椅子が不安定なの?本当に?」
太郎は花子を睨みつける。
(くそっ、絶対からかってやがる...)
「あの...」美咲が遠慮がちに口を開く。「私、ちょっとお手洗いに...」
「あ、はい!」太郎は慌てて立ち上がる。「行ってらっしゃい!」
美咲が席を立って行くのを見送ると、太郎は深いため息をついた。
「はぁ...」
「もう、太郎ったら」花子が呆れたように言う。「せっかくのチャンスなのに、なに固まってんのよ」
「だってよ...」太郎は顔を両手で覆う。「神崎と二人きりで話すなんて、考えただけでも...」
「二人きりって、あたしもいるんだけど」
「お前は空気みたいなもんだろ」
「ひどーい」花子は口をとがらせる。「でも、まあいいや。とにかく、もうちょっとリラックスしなよ。美咲、太郎のこと怖がっちゃうよ」
太郎は顔を上げ、真剣な表情で花子を見た。
「...どうすりゃいいんだよ」
花子は少し考え込む素振りを見せた後、パッと顔を明るくする。
「よし、いいこと思いついた!」
「え?」
「あたしが話のきっかけ作るから、太郎はそれに乗っかるだけでいいよ。簡単でしょ?」
太郎は半信半疑の表情を浮かべる。
「ホントにそれでうまくいくのか?」
「任せなさいって」花子はウインクする。「あ、美咲戻ってきた。作戦開始よ!」
美咲が席に戻ってくると、花子が明るい声で話しかける。
「ねぇ美咲、今度の休日って予定ある?」
「え?特には...」
「じゃあさ、一緒に買い物行かない?」花子が提案する。「太郎も誘おうよ。きっと荷物持ちに便利だし」
「えっ!?」太郎は思わず声を上げる。
美咲は少し驚いた表情を見せたが、すぐに柔らかな笑顔になる。
「私はいいけどいきなりだと太郎くんに迷惑じゃ...」
「全然大丈夫です!」太郎は迷わず返事をする。
「だからなんで敬語なの!」花子が笑う。「じゃあ、日曜日の11時に駅前集合で」
太郎は呆然とする。
(え...まさか、デートってやつ!?)
春風が図書室の窓を軽く揺らす。太郎の心にも、新たな風が吹き始めたようだった。
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