第22話 打ち上げパーティー

体育祭の興奮が冷めやらぬ中、打ち上げパーティーの日がやってきた。放課後、体育館の片隅に設けられた特設会場に、制服姿の生徒たちが次々と集まってくる。


太郎は少し緊張した面持ちで会場に足を踏み入れた。すでに多くの生徒が集まっており、賑やかな雰囲気に包まれている。壁には体育祭の写真が飾られ、テーブルには軽食やジュースが並べられていた。


「太郎!こっちこっち!」


元気な声が聞こえ、振り向くと花子が手を振っていた。彼女の隣には神崎もいる。二人とも制服姿だが、いつもより少しテンションが高い。太郎は二人に近づいていく。


「やっと来たね」花子が明るく言う。「もう始まるところだよ」


「ごめん、ちょっと準備に手間取って」太郎が照れくさそうに頭をかく。


神崎は優しく微笑んで「鳴海くん、お疲れさま」と言った。


三人が軽く談笑していると、マイクを通した声が響き渡る。


「みなさん、お待たせしました。生徒会長の東雲翔子です」


艶やかな声に、会場の視線が一斉に集まる。東雲も制服姿だが、どこか凛とした雰囲気を醸し出している。


「体育祭お疲れさまでした。今日は思う存分楽しんでください」


東雲の言葉に、会場から拍手が沸き起こる。


「そして、今日は特別なゲームを用意しています」


その言葉に、太郎は思わずドキリとした。花子と神崎も、少し緊張した様子で顔を見合わせる。


「詳細は後ほど発表しますが、きっと楽しめるはずです」


東雲はニヤリと笑うと、壇上から降りていった。


「ゲームって...」太郎が不安そうに呟く。


「大丈夫だよ」花子が明るく言う。「きっと面白いゲームだよ」


神崎も小さく頷いたが、その目には少し不安の色が浮かんでいた。


パーティーが進むにつれ、生徒たちは次第にリラックスしていく。太郎も緊張が解け始め、他のクラスの実行委員との会話を楽しんでいた。しかし、時折神崎の方を見てしまう。彼女は静かに周りの様子を見ているが、何か考え込んでいるようにも見えた。


「ねえ、神崎」太郎が声をかける。「楽しんでる?」


「え?あ、うん...」神崎が少し驚いたように答える。「みんな楽しそうだね」


「そう...かな」太郎が言葉を選びながら続ける。「なんか、考え込んでるように見えたから」


神崎は少し困ったように目を伏せる。「実は...」


その時、再び東雲の声が響き渡った。


「さて、お待たせしました。特別ゲームの時間です」


会場がざわめく。太郎と神崎も、言葉を中断して東雲に注目する。


「今回のゲームは...『秘密の告白チャレンジ』です!」


一瞬の静寂の後、会場が騒然となる。


「ルールは簡単」東雲が続ける。「くじを引いて、当たりを引いた人は、好きな人に告白するか、または今まで言えなかった秘密を打ち明けてもらいます」


太郎は思わず息を呑んだ。花子は目を輝かせ、神崎は少し緊張した様子で立ち尽くしている。


「もちろん、無理強いはしません」東雲が付け加える。「でも、この機会に勇気を出して、何か新しい一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか」


生徒たちの間で、期待と不安が入り混じった空気が広がる。


「それでは、くじ引きを始めます」


東雲の言葉に、生徒たちが次々とくじを引いていく。太郎は緊張した面持ちで列に並ぶ。


(まさか、俺が当たったりして...)


そんな不安を抱えながら、太郎はくじを引く。緊張で手が震える。ゆっくりとくじを開く。


「はずれ...」


太郎はホッとため息をつく。しかし、同時に何か物足りなさも感じる。


花子と神崎もくじを引く。二人とも「はずれ」だったようだ。


「よかった」花子が安堵の表情を見せる。「でも、ちょっと残念かも」


神崎は小さく頷くが、その表情には複雑な思いが浮かんでいる。


くじ引きが進む中、ついに「当たり」を引いた生徒が現れる。会場が騒然となる。


「さあ、どんな告白が聞けるかな?」東雲が楽しそうに言う。


その生徒が緊張した面持ちで立ち上がる。会場の視線が一斉に集まる。


「えっと...」生徒が言葉を探す。「実は...」


太郎は思わず息を呑む。花子は興味津々な様子で見守り、神崎は少し不安そうな表情を浮かべている。


告白の内容が何になるのか。その答えが、会場の空気を一変させようとしていた。太郎の胸の中で、期待と不安が入り混じる。この告白が、自分たち三人の関係にも何か影響を与えるのではないか。そんな予感が、彼の心の中でうねりを上げていた。


パーティーは、まだ始まったばかり。この後、どんな展開が待っているのか。太郎にはまだわからない。ただ、何かが変わる。そんな確信だけが、彼の胸の中に強く残っていた。

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