第18話 体育祭前夜
体育祭前日の夕方、校庭には夕陽が差し込み、準備に励む生徒たちの長い影を作り出していた。太郎は最後の確認のため、借り物競争の道具を手に取っていた。
「よし、これで完璧だな」
太郎が満足げに呟いた瞬間、後ろから声がかかる。
「太郎、お疲れさま!」
振り返ると、そこには花子と美咲が立っていた。二人とも汗ばんだ顔で微笑んでいる。
「あ、二人もお疲れ」太郎は少し照れくさそうに答えた。
「ねえねえ、明日の借り物競走、楽しみだね!」花子が目を輝かせながら言う。
美咲も頷きながら、「うん、みんな喜んでくれるといいね」と優しく微笑んだ。
その時、太郎は大事なことを思い出した。
「そういえば、神崎」太郎が話しかける。「体育祭の後に打ち上げパーティーがあるらしいんだけど」
美咲は驚いた表情を浮かべる。「え?打ち上げ?そんなのあるんだ...」
花子も慌てて説明を加える。「そうなの!生徒会が企画してて、各クラスの実行委員が招待されるんだって」
「そうなんだ...」美咲が少し寂しそうな表情を見せる。「私は実行委員じゃないから...」
太郎は美咲の表情を見て、胸が痛くなる。「いや、だからさ...」
その時、遠くから東雲翔子の姿が見えた。彼女は優雅な足取りで三人に近づいてくる。
「みなさん、お疲れ様」艶やかな声が響く。「準備は万全?」
「はい!」三人が声を揃える。
東雲は満足げに頷くと、「そうそう、打ち上げパーティーのことだけど」と話を切り出した。
太郎はこれをチャンスだと思い、急いで口を開いた。「東雲先輩、神崎も打ち上げに参加していいですか?」
東雲は少し驚いたような顔をしたが、すぐに微笑んだ。「いいわよ。これ以上増えると無理かもだけど」
美咲の目が輝く。「ありがとうございます!」
花子も嬉しそうに美咲の肩を叩く。「やったね、美咲!一緒に行けるよ!」
太郎はほっとした表情を浮かべる。三人で一緒に参加できることに安堵していた。
東雲は三人のやりとりを見て、くすくすと笑う。「みんな仲がいいのね」
そして、彼女は意味深な笑みを浮かべながら続けた。「実は、打ち上げでちょっとしたゲームを企画しているの」
「ゲーム…ですか?」美咲が少し不安そうに尋ねる。
「そう、例えば…」東雲がニヤリと笑う。「『好きな人の名前を叫ぶ』とか」
「えっ!?」三人が同時に声を上げる。
太郎は思わず目を丸くし、花子は口を手で覆った。美咲は軽く首を傾げ、困惑した表情を浮かべている。
「もちろん冗談よ」東雲がくすくすと笑う。「でも、みんなの反応を見てると面白そうね」
太郎は焦った様子で、「そ、そんなの無理ですよ」と必死に否定する。
花子も「そうだよ、恥ずかしすぎる」と言った。
美咲は黙ったまま、でも少し不安そうな表情を浮かべている。
東雲は三人の反応を楽しむように、「まあ、どんなゲームになるかは当日のお楽しみということで」と言い残して去っていった。
残された三人は、気まずい空気の中で立ち尽くす。
「な、なんだったんだろ、今の…」太郎が困惑した表情で呟く。
「さあ…」花子も戸惑いを隠せない。
美咲はまだ黙ったままだ。
その時、夕焼け空に花火が上がった。今日は地域の花火大会だった。
「わぁ、きれい!」花子が歓声を上げる。
美咲も笑顔を取り戻し、「うん、本当に綺麗」と頷いた。
太郎は二人の笑顔を見て、ほっとした表情を浮かべる。しかし、胸の中には複雑な思いが渦巻いていた。
(明日の体育祭、そして打ち上げパーティー…一体何が起こるんだろう)
夜空に広がる花火を見上げながら、太郎は明日への期待と不安を抱いていた。そして、彼にはまだ気づいていなかったが、この体育祭を境に、彼と花子、美咲との関係は大きく動き出そうとしていたのだった。
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