第17話 からかいと誤解

体育祭まであと1週間。2年3組の教室は準備の佳境に入っていた。放課後、太郎と花子は他の生徒たちが帰った後も残って作業を続けていた。


「よし、これで借り物競争の準備はほぼ完璧だな」太郎が満足げに言う。


「うん!みんな喜んでくれるといいね」花子が明るく答える。


二人は達成感に満ちた表情で顔を見合わせる。


「ねえ太郎、美咲にも見せたいね。きっと喜んでくれると思うな」花子が言う。


「そうだな。明日にでも見せてみよう」太郎が頷く。


その時、教室のドアが開く。


「お疲れ様、二人とも」


艶やかな声と共に、東雲翔子が姿を現す。


「東雲先輩!」太郎と花子が同時に声を上げる。


「準備は順調?」東雲が二人に近づきながら尋ねる。


「はい、一応は出来上がりました」太郎が答える。


東雲は二人の作業の成果を見回し、満足げに頷く。


「素晴らしいわ。借り物競争楽しみね」


「ありがとうございます」花子が嬉しそうに答える。


東雲はにっこりと笑うと、意味深な表情で二人を見る。


「ところで、こんな遅くまで二人きり?もしかして...」


「え?」太郎が驚いて声を上げる。


「ち、違います!」花子も慌てて否定する。


「私たちはただの友達で、実行委員としての仕事をしてただけです」太郎が真剣な表情で説明する。


東雲はくすくすと笑う。「冗談よ。でも、二人とも顔を真っ赤にして否定するなんて、かえって怪しいわね」


「そ、そんなことありません!」二人が同時に声を上げる。


「声までぴったり」東雲が笑う。「冗談はさておき、体育祭の後のことなんだけど」


「はい?」太郎が首を傾げる。


「実は、生徒会で体育祭の打ち上げパーティーを企画しているの」東雲が説明する。「各クラスの実行委員も招待しようと思って」


「え、打ち上げですか?」花子が目を輝かせる。


「そう」東雲が頷く。「みんな頑張ったご褒美よ。二人も参加できる?」


太郎と花子は顔を見合わせる。


「はい、ぜひ参加させてください!」花子が元気よく答える。


「僕も行きます」太郎も頷く。


「よかった」東雲が嬉しそうに言う。「詳細は後日連絡するわね。楽しみにしていてね」


そう言って東雲は教室を後にする。残された太郎と花子は、少し気まずい雰囲気の中で立ち尽くしていた。


「さっきの、変に思われてないかな...」太郎が心配そうに言う。


「うん...」花子も少し困った表情を浮かべる。「おっぱい揉んだだけだし...」


「お、おいっ!」太郎が他に誰もいないか周りを確認する。


「お前、誰かに聞かれたらどうすんだよ」焦る太郎を横目に、「冗談冗談。誰もいないから大丈夫でしょ」と花子が笑う。



「そういえば」気持ちを切り替えた太郎が言う。「神崎も打ち上げに誘っていいか聞いてみようか」


「うん、それいいね!」花子が明るく答える。


作業を終え、二人は教室を出る。春の夕暮れが、二人の長い影を廊下に落としていた。


太郎の胸の中では、友情と誤解への戸惑い、そして打ち上げへの期待が入り混じっていた。体育祭、そして打ち上げ。これから何が起こるのか、太郎にはまだ想像もつかなかった。ただ、何かが変わろうとしている。そんな予感だけが、彼の心の中でうねりを上げていたのだった。

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