第37話 広がる波紋
太郎が教室に着くと、スマートフォンが振動した。東雲からのLINEだ。
東雲:「おかげさまで、あかりの熱は下がりました」
太郎は安堵の表情を浮かべながら返信する。
太郎:「よかったですね。お大事に」
すると、すぐに返事が来た。
東雲:「お礼がしたいのですが...」
太郎は慌てて断ろうとする。
太郎:「いえ、当然のことをしただけですから」
しかし、東雲は引き下がらなかった。
東雲:「あかりもお礼をしたがっているんです。お願いします」
結局、太郎は押し切られ、後日東雲の家に行くことになった。
そんなやり取りをしていると、背後から声がした。
「ねえねえ、また東雲先輩と?」
振り返ると、花子が意味ありげな笑みを浮かべていた。
「べ、別に...」太郎は慌てて誤魔化そうとする。
そこへ、健太と美咲もやってきた。
「また花子が太郎に絡んでるよ」健太が言いながら近づいてくる。
「な、なんでもないって」太郎は焦りを隠せない。
花子から話を聞いた健太の追及は容赦なかった。
「ほらほら。正直に話せって」
結局、太郎は健太に押し切られる形で白状することに。
「昨日、校門で東雲先輩が居なかったからあの後連絡したんだ。そしたら、あかりちゃんが熱を出したって。それで看病するのに学校休んでるらしくて。ご飯とか困るんじゃないかと思って住所聞いて届けに行った。ショッピングセンターで2回も会ってるし家近いんだろうなって」太郎が一生懸命説明する。
三人は驚いた表情を見せる。
「え?2回?」花子が驚く。「2回とか聞いてない。というか、太郎にしては強引すぎない?」
「そうだな」健太も驚く。「そして、うまいこと住所聞き出したな」と笑う。
「違うんだって!」太郎は必死に弁明する。「マジで一人だと大変だと思ったから...」
美咲が静かな声で言う。「鳴海くん、優しいよね」
その言葉に、太郎は少し照れくさそうに頭をかく。
「それで、その後はどうなったの?」花子が興味深そうに尋ねる。
「昨日は届けただけ」太郎は少し躊躇いながら答える。「さっきお礼がしたいって。断ったんだけど...」
「おお!」健太が目を輝かせる。「デートか?」
「違う!」太郎は慌てて否定する。「ただのお礼だって」
花子はニヤリと笑う。「噂の続報が出ちゃう?」
美咲は黙ったまま、複雑な表情で太郎を見つめている。
「とにかく」太郎は話を締めくくろうとする。「ただのお礼だから」
しかし、三人の表情を見る限り、太郎の言葉を真に受けているようには見えなかった。
健太が太郎の肩を叩きながら言う。「まあ、気をつけろよ。噂また広がったら面倒だぞ。でも、そんな心配する必要もないか。だって、太郎がモテるわけないもんな」
「おい!」太郎は抗議の声を上げる。
花子もニヤニヤしながら続ける。「そうそう。東雲先輩なんて太郎には高嶺の花すぎるよ」
「お前らな...」太郎は呆れた表情を浮かべる。
健太は更に追い打ちをかける。「でもさ、もし本当に東雲先輩が太郎のことを好きになったらどうする?」
「え?」太郎は驚いて声を上げる。
花子も乗り気になって言う。「そうよ!もし東雲先輩が『太郎くん、好きよ』って告白してきたら?」
太郎は少し焦りながら答える。「そ、そんなことあるわけないだろ!」
健太はさらにからかう。「いやいや、あり得るかもしれないぞ。妹も気に入ってるみたいだし的な」
「そんなのありえないって!」太郎は必死に否定する。
太郎は慌てて話題を変えようとする。「正直に話したんだからもういいだろ!」
美咲は複雑な表情で黙っている。
花子はさらに追及する。「じゃあ、デート終わったらまた教えてね」
「いや、あかりちゃんもいるし、ってかデートじゃないから」太郎が答える。
健太が茶化すように言う。「おお!これは家族ぐるみのお付き合いか!」
「もう!からかうのやめろって!」太郎は抗議する。
その時、チャイムが鳴り響く。
「あ、授業だ」美咲が小さく呟く。
四人は慌てて席に着く。太郎は助かったと安堵した表情で窓の外を見つめる。
(東雲先輩と付き合えたら...)
この後、東雲の家でのお礼の会がどうなるのか。そして、それが彼らの関係にどんな影響を与えるのか。誰にもまだわからない。ただ、太郎の心の中で、何かが確実に動き始めていることだけは確かだった。
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