第28話 広がる噂
翌日、太郎は普段通りに登校し、授業を受けていた。昨日の出来事が頭をよぎるたびに、なんとも言えない気持ちになる。そんな中、昼休みになり、太郎がぼんやりと窓の外を眺めていると、
「おい、太郎」
親友の健太が声をかけてきた。太郎は我に返り、健太の方を向く。
「どうした?」
健太は意味ありげな笑みを浮かべながら、太郎の隣の席に腰掛けた。
「聞いたぜ。お前、昨日東雲先輩とデートしてたんだって?」
「えっ!?」
太郎は思わず大きな声を上げてしまった。周りの生徒たちが一瞬こちらを見る。
「ち、違う!そんなんじゃ...」
「おや、何の話?」
突然、花子の声が聞こえた。彼女も興味深そうに太郎たちに近づいてくる。
「いや、それがさ」健太が笑いを堪えながら言う。「太郎が昨日、東雲先輩とデートしてたって噂なんだよ」
「えー!マジで?」花子が目を丸くする。「ホントに映画一緒に行ったの?」
「だから違うって!」太郎は慌てて否定する。「たまたま会っただけで...」
「え、ホントに一緒にいたの?」健太と花子が同時に意味ありげな声を出す。
「一緒に居たのはホントだけど、デートじゃないって!」太郎は真剣な表情で説明を始める。「昨日、ショッピングモールで偶然会って、東雲先輩の妹さんと一緒に少し買い物しただけ」
「妹?」花子が首をかしげる。「東雲先輩、妹さんがいたんだ」
「うん、小学生くらいの子で...」
「ほぉ」健太がニヤリと笑う。「妹さんまで交えて、家族ぐるみの付き合いか。やるじゃん、太郎」
「だから違うって!」
太郎の必死の弁明も、二人には届かないようだ。
「で、どうだった?」花子が目を輝かせて聞いてくる。「東雲先輩のプライベートな姿は?」
太郎は言葉につまる。昨日見た東雲の優しい笑顔や、妹を思いやる姿が頭をよぎる。
「まあ...き、綺麗だったかな」
その言葉に、健太と花子は顔を見合わせてニヤリと笑った。
「おや、照れてるのか?太郎」健太がからかうように言う。
「そうそう、ちょっと照れてる?」花子も調子を合わせる。
「う、うるさいなぁ...」
太郎は顔を隠すようにうつむく。確かに、頬が熱くなっているのを感じる。
太郎が顔を赤らめてうつむいている様子を見て、健太と花子はさらに追及の手を緩めない。
「おいおい、太郎」健太が身を乗り出して言う。「顔が赤いってことは、やっぱり何かあったんじゃないのか?」
「そうよ!」花子も興奮気味に続ける。「東雲先輩と二人きりの時間とかなかったの?」
太郎は慌てて顔を上げる。「だから違うって!本当に何もなくて...」
しかし、太郎の脳裏には、東雲の柔らかな感触が蘇る。顔がさらに赤くなるのを感じる。
「あれ?」健太が目を細める。「今、何か思い出したな?」
「太郎、隠し事ダメだよ!」花子が迫る。「ほら、正直に話してみなよ」
「本当に何も...」太郎が必死に否定しようとするが、声が上ずっている。
健太と花子は、さらに詰め寄る。「おいおい、これは完全に怪しいぞ」「太郎、顔に書いてあるよ!」
太郎は窮地に立たされる。「だ、だから...」
その時、突然教室中に鐘の音が鳴り響いた。
「あ!」太郎が飛び上がる。「チャイムだ!午後の授業が始まるよ」
健太と花子は残念そうな顔をする。「あー、もう時間か」「太郎、これで逃げられたと思うなよ?」
太郎はほっとため息をつく。「じゃ、授業の準備するから...」
急いで教科書を取り出す太郎。健太と花子は、まだ何か言いたげな表情だが、仕方なく自分の席に戻っていく。
(危なかった...)
太郎は胸をなでおろす。しかし、東雲との出来事が頭から離れない。これからどうなっていくのか、不安と期待が入り混じる複雑な気持ちで、太郎は午後の授業に臨むのだった。
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