第5話 変わりゆく日常

教室に差し込む初夏の日差しが、鳴海太郎の弁当箱を照らしていた。隣には相変わらず明るい笑顔の結城花子。二人で昼食を取りながら、他愛もない会話を楽しんでいた。


しかし、会話を楽しむ太郎の視線は、時折教室の後ろの方へと漂っていく。そこでは、神崎美咲が友達と楽しそうに

話をしていた。その姿を見るたびに、太郎の胸の奥がモヤモヤとした気持ちで満たされるのだった。


(相変わらず可愛いな...)


「ねえねえ、太郎」


突然、花子が小声で話しかけてきた。


「なに?」


「美咲、最近彼氏できたらしいよ」


「え!?」


思わず声を上げそうになり、慌てて口を押さえる太郎。動揺を隠そうとするも、意識しているのは明らかだった。


「マ、マジで!?いつの間に...」


太郎が慌てて尋ねると、花子はくすくすと笑い出した。


「ウソだけどね」


「はぁ!?」


太郎は呆気にとられた表情で花子を見つめる。花子は相変わらずの笑顔で、太郎の反応を楽しんでいるようだった。


「もう...」太郎は深いため息をつく。「からかうなよ」


「ごめんごめん」花子は謝りながらも、まだ笑みを浮かべている。「でも、太郎の反応が見たかったんだもん」


太郎は複雑な表情で花子を見つめた。確かに、美咲のことを考えると胸が締め付けられるような気がする。でも、最近はそれほど強くなくなってきているのも事実だった。


(なんでだろう...)


「そんなに気になるの?美咲のこと」


花子の声が少し真剣味を帯びる。


「別に...」太郎は言葉を濁す。「ただ、驚いただけだよ」


「へぇ~」花子は意味ありげな笑みを浮かべる。「本当に?」


太郎は言葉に詰まる。花子の鋭い視線に、なんだか心を見透かされているような気がした。


「美咲も太郎の事が好きかもね」


「えっ!?」


太郎の声が教室に響き渡った。慌てて周りを見回し小さな声で尋ねる。


「お、おい...マジか?」


動揺を隠せない太郎を見て、花子は楽しそうに笑った。


「冗談だよ、冗談」


「な...なんだよ」太郎は肩を落とす。「また人をからかって...」


「でもさ」花子が真剣な顔になる。「可能性はゼロじゃないと思うんだ。この前の買い物の時も、美咲、太郎のこと結構意識してたよ?」


「え?ほんとに?」


太郎の心臓が高鳴る。美咲が自分のことを意識している...?そんなはずない。でも、もしかしたら...。


「うん、告白してみたら?」


「は!?」太郎は椅子から転げ落ちそうになる。「む、無理だって...」


「なんで?」花子が不思議そうな顔をする。「太郎なら大丈夫だよ。優しいし、面白いし...」


「でも...」


太郎は言葉を濁す。確かに美咲のことが好きだ。でも、告白なんて...考えただけで胃が痛くなる。


「あのさ」花子が真剣な顔で太郎を見つめる。「後悔したくないでしょ?高校生活、あっという間だよ?」


太郎は黙ってうなずく。花子の言葉が胸に刺さる。


「よし!」花子が突然立ち上がる。「決めた!明日、美咲に告白するの!」


「おい、俺が決めるんだよ!」


太郎は慌てて制止するが、花子は聞く耳を持たない。


「大丈夫、私がサポートするから!絶対うまくいくよ!」


花子の目が輝いている。太郎は諦めたようにため息をつく。


「わかったよ...」


「やったー!」花子が喜びのガッツポーズ。「じゃあ、明日の放課後ね。屋上で待ち合わせしよう」


太郎は不安と期待が入り混じった複雑な表情で頷く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る