31・アイテム鑑定

 広場での会議が終わって皆が解散すると、俺はキングとアンドレアを連れて墓城の霊安室に戻ってきていた。おまけのゴブロンもついて来ている。


「エリク様、わっちらを呼び出してなんのようでありんすか?」


 俺は実験で並べた武器の前に立つとゴブリンシャーマンのアンドレアに言う。


「なあ、アンドレア。このアイテムを見てどう思う?」


 俺の前には九本の武器が並んでいる。

 ダガーが三本、ショートソードが三本、ロングソードが三本だ。

 そして、石桶の上に並ぶ石ころ、砂の山、枝木、葉っぱ。それらが赤く俺の鮮血で染まっている。

 しかし、鮮血が乾いてしまいガビガビだ。赤茶色のシミだけが色濃く残っていた。


「アイテムでありんすか?」


 アンドレアは唐突な質問に細い首を傾げていた。眼前に並ぶアイテムたちを不思議そうに眺めている。


 俺は背後のキルルを親指で指しながら説明してやる。


「キルルはオーラを見極めて、他者のクラスがカラーとして見えるんだ」


「職業鑑定でありんすね。魔眼の一種で、そのような能力があるとは聞き及んでいるでありんす」


 俺の言葉にキルルがニコリと微笑んだ。

 それとは対照的にアンドレアは眉をしかめている。


「キルルの見立てだと、アンドレアのカラーは魔法使いだそうなんだわ」


「わっちが、魔法使いとな?」


『そうなのです、魔法使いです。最初のころは精霊使いでしたが、少し前に変化して魔法使いにクラスチェンジしています』


「クラスチェンジ――。わっちも成長しているのでありんすね。まあ、確かに古代魔法も少し使えるでありんすが」


「そうなんだよね。俺の鮮血を飲んだ者たちの中で、時間が経つと成長している者がいる。アンドレア、お前もその一人だ」


「なるほどのぉ……」


「しかも、俺の鮮血を飲んだ者だけが成長しているわけではない」


「んん?」


「俺の鮮血を浴びた代物も変化や進化を遂げているようなんだ」


「物まで変化していると言うでありんすか!?」


 流石のアンドレアもこれには驚いているようだった。眼前のアイテムたちを食い付くように凝視している。


「俺の鮮血を浴びた武具はマジックアイテムに進化するんじゃあないかと実験しているんだよ。まあ、少なくとも強化には繋がることは分かってきている。だから、魔法使いのお前に、これらのアイテムを鑑定してもらいたくってな。能力が知りたいのだ」


「は、はあ……。それが、わっちの呼ばれた理由なのでありんすね」


 俺は床に並べられた武器をアンドレアに見てもらう。


「まあ、これらの武器を見てもらえないか」


 アンドレアは言われるがままに並べられた武器を眺めて回る。その眼差しは熱く厳しく真剣だ。可愛らしい顎先を指先で摘まんだり、時折長い赤髪を掻き毟りながらアイテムを見て回っていた。


「どうだ、アンドレア?」


 アンドレアは床の上の武器を凝視しながら言った。その眉間には深い皺が寄っている。並べられたアイテムに興味を引かれているようだった。


「確かにこれらの武器からは魔力を微量ながら感じるでありんす。でも、まだマジックアイテムと呼べるほどの代物でもありませんでありんすね」


 やはりだ。ほんの数時間前である。武器に俺の鮮血を垂らしたのは会議の直前だ。

 そして、会議から帰ってきた短時間で効果が現れ始めている。

 それが早いのか遅いのかは判らないが変化が起きているのは間違いないだろう。


「それじゃあ、こっちの物はどうだ?」


 今度は石棺の上に並べられた物を見せた。

 砂の山、雑草の束、木の枝、小石、それに陶器のワインカップだ。


 アンドレアは順々に観察した後に答える。

 そして、陶器のワインカップを指しながら言った。


「このワインカップだけは、凄い魔力を感じますが、その他の物からは微塵も魔力を感じないでありんす」


「そうか……」


 陶器のワインカップは何度も鮮血の儀式に使ってるから一番魔力を感じられるのだろうか?

 まだ、その辺はなんとも言えないな。


 更にアンドレアがアイテム鑑定の続きを語る。


「しかもこのワインカップにはヒーリング効果がありんすね」


「ヒーリング効果?」


 どうやらアンドレアにはマジックアイテムの効果が見えているらしい。流石は魔法使いだ。期待した通りである。


「このカップに注がれた液体にヒーリングポーションの効果を与えるって力でありんす」


「おおっ!」


 やはりそうだ。俺の鮮血を浴びた道具はマジックアイテムに変化するんだ。

 このカップで鮮血の儀式を行えば、魔物の進化だけでなく、回復効果も追加されるってことなのかな?

 いやいや、それどころか、このカップで鮮血の儀式を繰り返せば、更に更にと追加効果がカップに増えていくってことだろうか?


 これって、まさに聖杯だな!


 アンドレアが言う。


「ですが、その他の物には魔力の片鱗すら見えぬでありんす」


 砂の山、雑草の束、木の枝、小石のことかな。


「これらはマジックアイテムに変化しないってことなのか?」


「さあ、それはわっちには分からないでありんす」


 何が聖杯と違うのだ?

 まあ、その辺は追々考えてみよう。

 次だ。


「キング、ゴブロン。お前らの武器を見せてくれ」


「畏まりました、エリク様」


「はいでやんす」


 キングとゴブロンが武器を鞘から抜いた。光るシミターとダガーだ。それらを俺に差し出す。


「アンドレア、この二本をどう見る?」


 アンドレアは一目で答えた。


「立派なマジックアイテムでありんす」


 やはりだ。

 キングの光るシミターは前々からマジックアイテムだったんだろうが、ゴブロンのダガーは俺の鮮血を浴びてマジックアイテム化したのだろう。


「どんな能力だ?」


 まずは光るシミターについてアンドレアが答えた。


「コンティニュアルライトと敏捷度強化魔法が施されたマジックアイテムでありんす」


 キングが声に出して驚いた。


「まことですか、アンドレア殿。以前のこのシミターは、敏捷度強化の魔法なんて掛かっておりませんでしたぞ!!」


 俺は驚いているキングにドヤ顔で言ってやった。


「だから、俺の鮮血を受けて強化されたんだ」


「凄いですな!!」


「じゃあじゃあ、あっしのダガーも強化されているでやんすか!?」


 ゴブロンがはしゃぎながらダガーの刀身を頬摺りしていた。


「このダガーだって、何度かエリク様を攻撃して鮮血を吸っていやすからね!」


「イラッ!!」


 俺はゴブロンからダガーを取り上げると顔面をぶん殴ってやった。

 俺の拳がゴブロンの顔面に深くめり込むと、ロン毛を振り乱しながら矮躯が飛んで行って壁に激突して倒れた。

 おそらく死んだだろう。ざまー!!


 俺はダガーで体を刺されたことを思い出してムカついたのだ。

 キングにも何度か殺されたが、それ以上にゴブロンにも殺されたと思うとなんだかムカつくのである。


「ちっ、死んだか」


 そしてゴブロンが死んでいる間に俺は取り上げたダガーをアンドレアに見せる。鑑定を促した。

 アンドレアはダガーを手に取ると即座に答えた。


「このダガーもマジックアイテムでありんす」


「やはり変化しているのか。それで能力は?」


「ダガーで影を刺すと本体の動きを束縛する能力でありんす」


「ユニークスキルが付与されたか」


『影縛りのダガーですね!』


 キルルが嬉しそうに言った。

 影縛りって言うネーミングを今思い付いたのだろう。まさに設定厨だな。


「なるほど、影縛りか」


 すると復活したゴブロンがぼやきながら歩み寄ってきた。


「エリク様、酷いでやんすよ。いきなり殺すなんてさ~」


 俺は問答無用でゴブロンの影にダガーを突き立てた。


「それ!」


「ぎぐっ!?」


 影縛りのダガーがゴブロンの影ごと床石を貫く。すると、ゴブロンが硬直しながら固まった。麻痺魔法でも掛けられたかのように顔を引きつらせて動けないでいた。


「ひ、ひぐぅ……」


 奥歯を食い縛るゴブロン。どうやら指先一つも動けないようだ。声も出せない様子である。


「おお、固まった」


『固まりましたね』


「これ、なかなか使えるマジックアイテムでありんすね」


 こうしてアンドレアのアイテム鑑定が終わった。

 おそらく実験中の武器がマジックアイテムとして覚醒するのには時間が掛かるのであろう。


 まあ、ハートジャックの偵察が終わって帰ってくるまで三日もあるのだ。まだまだゆっくり様子見して行こうと思う。焦ることはないのだから。


 実験は続く。


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