3・転生先は首無し少年
俺が目を覚ますと真っ暗な場所に閉じ込められていた。暗黒の狭い空間である。まるで箱の中だ。
俺は先程異世界転生したばかりである。
天界から下界に落とされて、上空から地上に降下したのは覚えている。
空から落ちてきて、古城の天井を貫くようにすり抜けて石棺に直撃した。
俺は石の蓋もすり抜けて、石の棺の中に横たわる首無し少年の体にダイブしたのだ。
そして、合体。
魂と肉体の融合だ。
「だとするならば、この暗闇は棺の中だからなのか?」
俺が暗闇の中で手を動かすと、眼前に天井があった。腕や足を曲げれば肘や膝が壁に当たる。
俺は狭い空間に閉じ込められていた。箱の中に居るようだ。
カビ臭い。壁や天井を触ればザラザラとしていた。石の感触だ。
ああ、やっぱり俺は石棺の中に居るんだ。
「出られるかな?」
言いながら俺は天井の石蓋をずらそうと努力した。しかし、努力するよりも簡単に、石蓋がずれて外に出れたのだ。
「呆気ない脱出劇だな。それよりここはどこだ?」
俺は上半身を起こして石棺の中から頭を出した。薄暗い周囲を見回す。
部屋は広い。天井も高い。でも、石棺の外の部屋もカビ臭いし埃っぽい。石の壁や柱には細やかな装飾が施されているが、あちらこちらが砕けて崩壊している。廃墟に近い景色だった。
俺が入っていた石棺の周りには燭台があり、蝋燭が幾つか置かれて室内を淡い光で照らしていた。
いや、蝋燭の炎じゃあないな。燭台に不自然な光の玉が灯されている。
電気的な明かりでなく、魔力的な明かりのようだった。不思議な魔法の光である。
広い室内を見渡した感じでは、ここは古代の礼拝堂のような雰囲気であった。
カビ臭くて埃っぽいが、嘗ては豪華だっただろう大部屋だった。おそらくしばらくは使われていなかった部屋なのだろう。
周りを見るからに──。
「ここは霊安室なのか?」
おそらく俺の推測は正解だろう。
俺はバスタブから上がるように石棺から出ると自分の体を見回した。
「裸だな」
俺は全裸だった。俺は服どころかパンツすら履いていない。スッポンポンだ。故にちょっとだけ寒い。
まあ、そんなことよりもだ。
「異世界転生って本当にあるんだな。でも、見るからに女体化はしていないようだ。だってチンチロリンがあるもの」
下半身を見れば男の子のシンボルが可愛らしくぶら下がっていた。一安心である。女体化してたら絶叫ものだっただろうさ。
でも俺は少年の体に転生したようだ。
俺の新しい体は見るからに成長仕切っていないようだった。
まだ、チンチロリンは可愛らしくて剥けてもいないしオケケは生えてもいない粗末な物だった。成長仕切っていない。
「なんだよ、まだまだ子供じゃあねえか……」
少しガッカリだ。これで使い物になるのであろうか?
新世界のハーレムでウハウハしながら楽しく愉快に暮らせるのだろうか?
むむ、このサイズでは難しそうである。
「歳のころは幾つぐらいなんだろう? こんなに可愛らしくなっちゃって……」
大人の心に子供の体ってのが、少し情けなく感じた。何よりチンチロリンの幼さが寂しさを表している。
ダガーがバスタードソードまで成長するにはかなりの時間が掛かりそうだった。
「顔はどんなかな?」
俺は周囲を見回した。だが、この部屋には鏡らしき物が見当たらないから顔は拝めない。
しかし、自分の体を見るからに推測できた。
手の大きさ、足の長さ、チンチロリンの謙虚さからして、俺の体は10代前半の少年のようだった。首元を触れば深い傷痕が感じられる。
「若輩も若輩だが、かなり若返ったな」
生前の俺は、おっさんになりかけていた中年だった。いや、もうおっさんだったかもしれない。
煙草は吸っていなかったが、酒は付き合い程度には飲んでいた。しかし花も恥じらう童貞貴族。再び10代に戻れるのは嬉しいことだが、この成長しきっていない体で女性を抱けるのであろうか。それよりもチンチロリンがギンギンに変化するのだろうか。そればかりが今の心配である。
ハーレムを築けても、大暴れできるのであろうか?
そもそも童貞を喪失できるのであろうか?
推測から察しられる結論は──。
「ふう……、まだまだ俺の童貞な日々は続きそうだぜ……」
そう考えると喜んでばかりもいられない。いやいや、それはどうでもいいことだ。
俺の目的は破滅の勇者を倒すことである。破滅の勇者を倒して世界を崩壊から救うことだ。それが第一目標。ハーレムを作るのは、その次の目標だ。
要するに俺が転生してきた理由は戦闘を行うためである。若返れば良いってものではない。
俺の転生理由は勇者との対決が最終目標だ。そのために魔王に生まれ変わった。
なのにこの10代の体では不利である。子供であることが問題だ。
理由は単純。
体力が大人より少ない。
力も貧弱だ。
リーチも短い。
耐久力だって低いだろう。
何かと子供では戦闘に不向きだ。
そもそも子供が大人に喧嘩で勝つのは至難である。それが殺し合いの戦闘となれば尚更だ。
だが──。
それ以上に問題なのは、俺が貰ったチート能力だ。
まず1つ目――。
無勝無敗の能力──。
それが俺のチート能力の名前だった。本能で名前が分かるのだ。
しかし、この能力が問題の多いことも本能で悟れた。
そして、俺は振り返ると自分が出てきた石棺を凝視した。
先程は暗闇に戸惑い何気なく石蓋を開けたが、今見てみれば石蓋は分厚い石板だ。厚さも15センチちょっとはある。大きさも畳で例えるならば一畳サイズはありそうだ。
重さで見てみれば何キロあるか俺の無知な頭では想像できない。それを俺は片手でずらして開けたのだ。確実に重いはずの石の板を軽々とずらしたのだ。
俺は石棺を再び凝視する。
「この体は外観は子供だが、中身はゴリラ並みのパワーなのか?」
俺は石棺に近付いた。そして、石棺から出るためにずらした石蓋を片手で元の位置に戻してみる。
「あらあら……」
石蓋はズシズシと重々しい音をならしながらも軽々と動いて元の位置に戻せた。しかし俺はたいして力を入れていない。今俺は石棺の石蓋を軽々と閉めたのだ。
「軽々と動いたな」
そう、重々しい石蓋が軽々と動いた。
「それじゃあ~」
俺は膝を曲げて力を溜めた。そこから脚力だけで真上にジャンプした。
「それ」
軽い跳躍のつもりだったが3メートルは跳ねていた。スーパーハイジャンプである。
「うおぉ、飛んだ俺のほうがビックリだぜ!」
そして、スチャリと着地する。
明らかに身体能力がアップしていた。その実感から察するに、パワーはブルドーザー並みで、足腰のバネはトランポリンで跳ねているように軽かった。
確実に前世の身体能力を遥かに凌駕している。見た目は脆弱な子供だが、まさに超人だった。
「この体は魔王の体なのか? 故に超人並みの身体能力なのだろうか?」
俺が自分の両手を眺めていると、部屋の奥で巨大な何かが動き出す。グラグラと動き出した物体から機械的な音声が飛んできた。
『侵入者確認、侵入者確認、排除シマス』
それは身長が3メートルほどある岩人間だった。
「あらら〜、たぶん警備のゴーレムさんかな〜……」
『排除シマス、排除シマス』
「俺ってば、排除対象なのかよ?」
岩製の巨漢が俺に迫り来る。
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