4・警備ゴーレム

 身長3メートルで全身岩肌の巨漢ゴーレムの登場。その瞳の輝きは敵対的な赤色である。


『侵入者確認、侵入者確認』


 赤い目を光らせるゴーレムがアナウンスを警告しながら薄暗い闇の中から動き出した。

 どうやらここの警備兵らしい。


『侵入者確認、侵入者確認、排除シマス、排除シマス』


 ドシンドシンと重々しい足音を鳴らしながら俺に近付いてきたストーンゴーレムは容赦無く俺に向かって攻撃を仕掛けて来た。ごっつい拳を振り上げ3メートルの身長から殴り掛かって来る。

 どうやら問答無用らしい。言い訳の一つも聞いてもらえないようだ。


「うひゃーーー!!!」


 俺は踵を返して走って逃げた。その背後に拳が叩きつけられて石床に大きな穴を開ける。その一撃でドシンっと部屋全体が派手に揺れた。俺も衝撃に跳ねた。


「すげ~、パンチ力じゃんか!!」


 あんなので殴られたら頭がスイカのように割れてまうだろう。否、身体ごと縦にペッチャンコである。冗談でも喰らえない。

 俺はとにかく走って逃げた。


『排除シマス、排除シマス!』


 岩の拳を左右に振るって俺を追撃してくるゴーレムは、一撃一撃は重たそうな攻撃だったがスピードがさほど無い。この速度の攻撃ならばいくらでも躱せそうだった。

 しかし、空振った拳が岩の壁を打ち抜くところを見せられれば破壊力の凄まじさが知れる。流石にあれは食らえない。


「こんな怪力ゴーレムと戦っていられるか!!」


 俺はゴーレムのパンチを躱すと背を見せて走り続けた。しかし、案外と速い足取りでゴーレムは俺を追いかけてくる。


「うわわぁ、追ってくるよ!!」


『排除シマス、排除シマス』


 俺は部屋の中を走ってゴーレムから逃げ回った。

 そして、逃げながら考える。

 今の俺は身体能力が向上しているはずだ。だって最強で無敵の魔王のはずだもの。

 ならば、このゴーレムにだって勝てるんじゃあねえか?

 あり得る。

 いや、きっと勝てるはずだ。


「ならばっ!!」


 そう考えた俺は立ち止まると踵を返してゴーレムのほうを向き直した。巨人に立ち向かう。


「ふんっ!」


 凛と瞳の奥を燃やすと両手の拳を握り締めてファイティングポーズを築く。それはボクシングのインファイターを模倣した構えであった。

 格闘技はテレビで見た程度の知識だが嫌いではない。なんちゃっての構え程度ならば俺でも真似ぐらいはできるだろう。


 その俺に向かってゴーレムが走り迫ってきた。このままでは正面から激突するだろう。俺は奥歯を噛み締め気合いを入れる。


『侵入者ヲ排除シマス、侵入者ヲ排除シマス』


 ゴーレムは同じ警告を繰り返していた。たぶん頭が悪いのだろう。


「それならば、勝てる、勝てるはずだ!!」


 俺のほうが賢いのだ。

 ならば勝てると根拠の無い自信で俺は立ち向かった。


『排除シマス、排除シマス』


「やってみろや、この石頭野郎が!!」


 俺の眼前に迫ったゴーレムが拳を振り上げる。向かい合う俺も後方に拳を振りかぶった。


「正面から打ち合ってやるぜ!」


『排除シマス』


「おらぁぁああ!!」


 ゴーレムがパンチを打ち下ろし、俺がフック気味のパンチを打ち上げた。

 上と下からのぶつかり合いだ。両者の拳がぶつかり合って激突する。


 すると俺の体に凄まじい衝撃が走った。

 衝撃は俺の腕から脊髄に抜けて、お尻の穴から外に出て行った。


 ぷぅっ!


「おならが漏れちゃった!!」


 だが俺は後ろに足を踏ん張り衝撃に耐え忍んだ。

 直後だ。俺の拳とぶつかり合っていたゴーレムの右拳が二つに割れる。その罅は拳から腕へと走り、肩の付け根まで昇る。

 するとゴトリとゴーレムの石腕が床に砕け落ちた。肩から腕が砕けてもげたのだ。


「よしっ!!」


 次の瞬間、俺の口角が微笑みに吊り上がった。勝てると確信する。


「今度は俺の番だぜ!」


 前に一歩、力強い踏み込みから拳を頭の高さに振りかぶる。そこから狙いを定めた。狙いは眼前に聳える巨漢ゴーレムの土手っ腹。岩肌のお腹に踏み込みから破壊力を生み出した右鉄拳を打ち放つ。


 脹脛が踏み込み衝撃を産む。太腿が脚力に膨らむ。下半身から産まれたパワーが脊髄を登って上半身に充電される。そこから腰を捻って肩に遠心力を作り出す。その遠心力が右腕に乗って大きく振られた。そして、右拳に集まり超破壊力と化す。

 そうして作られた究極パワーの拳撃がゴーレムの土手っ腹を撲り付けた。


 ドゴォーーーンっと派手な激音が鳴り響いた。霊安室の空気が衝撃に揺れる。

 俺の拳がゴーレムのお腹を殴り付けた激音だった。


 いや、ちょっと狙いがズレちゃった……。俺の拳がゴーレムの股関にめり込み肘まで刺さる。ゴーレムの股間を貫いたのだ。

 まあ、当たったから問題無いか……。


 すると今度は恥骨から昇った皹がゴーレムの腹を昇り胸を昇り顔面にまで広がった。それでゴーレムの動きが停止する。

 光っていたゴーレムの瞳から光が消えた。破壊力が脳まで届いたらしい。


『機能停止……シマ……ス……』


 その言葉を最後にゴーレムは完全に動かなくなった。沈黙する。

 どうやら勝ったようだ。


「よし、俺の勝ちだぜ!!」


 俺は嬉しさのあまりにガッツポーズを取っていた。両手を高く上げて歓喜を現す。

 途端、動かなくなったゴーレムから別のアナウンスが聞こえてきた。


『機能停止ニヨリ自爆装置ガ作動シマシタ。十秒後ニ自爆シマス。カウントスタート、イチ、ニイ……』


「自爆だって、マジですか!?」


 俺は走って石棺の裏に隠れた。


「冗談じゃあ無いぞ、最近のゴーレムって自爆するのかよ!!」


 俺が石棺の裏で丸まっているとゴーレムが爆音を轟かせながら木っ端微塵に飛び散った。石の破片が霊安室内に飛び散り空気が嵐のように渦を巻く。


「ひぃぃいいい!」


 やがて静かになった。自爆から発生した嵐が収まる。


「すげ~、ビビったぞ……」


 俺が石棺から頭だけを出して確認するとゴーレムの体は跡形も無く爆裂していた。バラバラである。砕けた石片が室内に散らばっていた。


 それから俺は溜め息を吐いて自分の体を確認する。首の傷痕をカリカリと引っ掻いた。


「この体は中古だけど、チート能力で強化されているぞ、最強で無敵だぜ!!」


 俺は知っている。まだ他にも魔王の能力が、この体には秘められていることを──。

 それも徐々に試して行かなければなるまい。


 そんな感じで俺が少年に変貌した自分の体を見回していると、部屋の隅から視線を感じ取った。


 見られている?

 気配を感じた。まだ誰か居るのか。視線を感じるのだ。


 そう思い俺が踵を返して部屋の隅を見てみると、柱の陰から半身を覗かせて、こちらを見ている人影を一つ見つける。暗闇の中に誰か居るのだ。


「むむむ?」


 それは小柄な人影だった。俺よりも小さく細い。


「誰だ、そこに居るのは?」


 俺が人影に声をかけると人影は驚いた素振りで柱の陰に身を隠した。


「なんだ、照れ屋か?」


 なんだか面倒臭いのが居るのかな?

 そう考えながら俺が柱を見詰めていると、恐る恐るだが人影が柱の陰から姿を現す。

 その姿が魔法の光に照らされる。


 少女だ。

 神社などで見られる巫女服のような着物を纏った金髪の少女である。白い着物に赤い袴を穿いていた。でも、和風と言うよりもエキゾチックな洋服に伺えた。巫女服とも若干に違っている。


 そして、少女の蜂蜜色な長髪がフワフワと不自然に揺れていた。それらから察するに美少女だった。


ラッキー!


少女だ、美少女だ!!


早くもヒロイン登場である!!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る