14・無勝無敗の能力

 静まり返った広場の中央で全裸の俺は挑発するように叫んだ。血走った目を剥きながら緊張感を威圧的にキングにぶつける。


「まだまだ続けるよな、キング!!」


「ぐぐぅ……」


 キングは少し迷ったのちに光るシミターを振りかぶりながら走り出した。そのころにはキングの熱い瞳から迷いが消えていた。瞳の奥に闘志が燃えている。

 バカなのか、度胸が座っているのかは分からないが、俺もこの手の男は嫌いなタイプじゃあない。


 男なら最後まで戦う。それは素晴らしい覚悟だ。三日坊主だった俺には難しい覚悟だ。なかなか真似の出来ない覚悟である。


 俺はキングを誉めるように言ってやった。


「闘志溢れるかっこいい瞳だな。 男らしいぞ、キング!!」


「ぬかせ、魔王!!」


「照れるな、犬王!!」


 そう返した俺も悠々と前に出る。


 やはり先に攻撃の間合いに敵を捉えたのはキングのほうだった。分かっていたことだが武器のリーチが先に有利を得る。


 そして、キングが先手に光るシミターを振り下ろした。その光るシミターが俺の頭をカチ割った。


「うらっ!」


「げふっ!」


 ガンっと視界が揺れて光るシミターが頭に食い込んだまま止まる。

 脳天から食い込んだ光るシミターの刀身が鼻の下ぐらいまで真っ二つに俺の頭を切り裂いていた。眼前で止まった光る刀身がちょっと眩しい。


 それにしても頭蓋骨が割れて、脳味噌も割れただろう。頭が真っ二つである。それでも俺の意識は飛ばない。これはこれでなかなか出来る体験ではないだろう。


「頭を割られたのに、まだ動けるかワン!!」


 視界に赤い物が割り込んできたが俺は揺るがないし怯まない。この程度では倒れもしない。


『魔王様っ!!』


 頭を割られた俺を見てキルルが叫んだ。

 キルルは首を落とされて死んだバンデラスでも思い出しているのだろう。

 しかし、俺は頭を割られても死ななかった。死ぬどころか腰すら落とさない。少し景色がズレて見えただけで、普段となんら変わらない。


 そして、眼前のキングに俺は打ち下ろしのボディーブローを打ち込んだ。


「おらっ!」


 ドンっとキングの体が揺れる。お腹が太鼓のように鳴った。


「うぷっ!!」


 目を剥いて俯いたキングが大きく口を開けていた。苦しそうに涎を垂らす。

 キングは呼吸が出来ていない様子だった。口をパクパクさせて体を曲げている。


 そして、屈んだキングの脳天に俺は空手チョップを叩き落としてやった。


「チョーーープ!」


「キャンっ!!」


 犬らしい悲鳴を上げたキングの頭部に俺の手刀が半分ぐらいめり込んでいた。チョップが頭蓋骨にめり込みすぎて、キングの片目が飛び出している。


「フィニッシュだ!!」


 そう叫んだ俺は真下からキングの下顎を蹴り上げる。俺の蹴った脚が自分の頭の高さよりも高く振りきられていた。

 そして、下顎を蹴り上げられたキングは回転しながら真上に浮き上がる。三回、四回と空中で回転したキングは5メートルぐらい高く飛んでいた。

 それから再び回転しながら地面に落ちる。


 ゴキリッ!!


 顔面から地面に落ちたキングの首から鈍い粉砕音がこだました。倒れ込むキングの首が歪に曲がって背後を向きながらダウンしている。脊髄が折れたっぽい。

 これは死んだと思える光景だった。


「ちょっとやり過ぎたかな?」


 俺は言いながら頭に刺さった光るシミターを引き抜くとポイっと投げ捨てた。するとガクガクと震えだしたキングの首が正常な方向に戻っていく。

 

 また回復だ。

 キルルが震えた声で言う。


『い、生き返っちゃうんですか……!?』


「ああ、生き返るよ」


 そう、生き返る。

 そのころには俺の受けた頭の傷も回復を始めていた。

 やがて俺とキングが完全回復する。それが魔王の理だ。


 首が正常な方向に戻ったキングが目を大きく見開いた。そして、素早く立ち上がると後方に跳ね飛んだ。俺から逃げるように間合いを取る。


 顔を青ざめたキングが自分の顎や首を撫でながら言う。


「こ、これはどう言うことだワン……!? お、俺は死んだはずだワン……」


 何度目かの同じ台詞であった。


「ほほう、死んだ自覚は存在するんだな。それじゃあ三途の川とか拝めたか?」


「さんずの川……?」


 宗教が違うから三途の川とかは無いのかな?

 それとも世界観の違いかな?

 まあ、いいや。


 俺は自分の傷口から流れ出ていた鮮血を手で拭うと、頭の傷口が塞がっているかを確認した。


 うん、ちゃんと塞がっている。


「よし、予想通り頭の傷も塞がるな」


 呆然と俺を見詰めるキングが震える声で言った。


「あ、あんたは死なないのかワン……?」


 胸を貫かれても死なない。頭を割られても死なない。そう、無敵だろう。不死身だ。


 俺は言い返す。


「お前だって死ななかっただろ」


「た、確かにだワン……」


 俺もキングも死ななかった。いや、死ぬほどのダメージは確実に受けている。もしかしたら死んだのかも知れない。

 だが、生き返った。死んではいない。

 俺は両腕を胸の前で偉そうに組むと言ってやった。


「これが魔王の能力。無勝無敗の能力だ」


『無勝無敗……?』


味方のキルルも唖然としていた。


キングが俺の言葉を反芻する。


「無勝無敗って、なんだワン……」


 俺はスキルの真相を隠さず話す。


「誰にも殺されないが、誰も殺せない能力だ。よって、他者に俺が殺されても瞬時に生き返るし、俺が他者を殺しても瞬時に生き返るんだ」


 そう、殺せないが殺されない能力である。だから無勝無敗なのだ。


「そ、そんなデタラメだワン……」


 そう、デタラメだ。

 何より勝敗がつかない。永遠に殺して殺されてを続けてしまう。だから無勝無敗の能力なのだ。


「俺はこの能力で勇者をぶっ殺すんだ!!」


「ええっ……だワン……。しかし……」


 キングが何かに気付いたようだ。小首を傾げながら疑問に思ったことを口にする。


「それだと……、あんたは誰も殺せないワン?」


 殺せない、確かに俺は誰も殺せない。勇者も殺せない。


「そうなるんだよね~」


 俺はキングを熱い眼差しで見詰めながら言った。


「俺が転生して来た理由は勇者を殺すことだ。だが俺は、この無勝無敗の能力がために勇者どころか他者を誰も殺せない」


『そう言うことになりますよね』


俺の魂胆を知るキルルが相槌を入れてくれた。


「だからだ──」


 俺は再びキングを見ながら怪しく微笑んだ。コボルトたちも俺から視線を外さず凝視している。

 俺は悪どく微笑みながらコボルトたちに言ってやった。


「だから俺は魔王軍を編成するぞ!!」


「「「ええっ!!!」」」


 俺の力強い言葉にコボルトたちが驚いていた。


「「「魔王軍の編成っワン!!??」」」


 俺は更にコボルトたちを驚かせることを発言する。


「お前たち全員、今日から俺が率いる魔王軍ね」


「「「ええっ!!!」」」


「俺の軍門に下れ」


 勝手に決められたコボルトたちが驚いていた。だが、驚いてはいるが誰も文句は言わなかった。

 それを見て俺は勝手にコボルトたちが同意したものだと解釈する。問答無用で──。



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