箱庭の魔王様は最強無敵でバトル好きだけど配下の力で破滅の勇者を倒したい!

真•ヒィッツカラルド

1・魔王降臨

 俺が目覚めると真っ暗な空間に立っていた。否、立っているかも分からない。何せ自分の体が見えないもの。


 今現在の俺は光の玉だった。周囲は漆黒である。俺は暗闇に一つ輝く光の玉となっていた。手足も胴体も見えない。


 これが魂の形なのだろうか。分からない。分かっているのは、俺は死んだはずだ。


 何故に死んだのか──。


 それは若さゆえの過ちだった。

 チンピラ野郎と喧嘩して死んだのだ。いや、あれは喧嘩なんて立派な代物じゃあないだろう。殺されただけである。

 否、あの時はまだ死んではいなかった。


 俺は30歳を少し超えた青年だったが、未だに彼女も居ない寂しいアルバイト生活で、大きな夢ばかりを追いかけているだけのビッグマウスなおっさんだった。態度ばかり大きなクソ野郎である。


 高校時代はクラスに馴染めず友達も居なかった。勉強にもついて行くのがやっとで、赤点まみれだったが、なんとか高校を卒業する。

 そして、そのまま東京に逃げ込むように上京して勤めた会社もパワハラが原因でブチ切れてしまい一ヶ月で退社した。


 そこから俺は夢に生きるんだって決意する。夢を叶えて人生を変えるんだって考えた。


 それから、お笑いタレントを目指したが、養成学校に入るための授業料が払えず諦めた。

 次に役者を目指したが、そこでもレッスン料が払えず挫折した。

 

 最近では、どんな夢でも目指すだけでお金が掛かる。貧乏な一人暮らしでアルバイト生活の俺には、そんなお金の余裕は無かった。


 ならばと考えて、お金が掛からないSNSの動画投稿サイトで配信を始めたけれど、登録数は半年過ぎても三人しか登録してくれなかった。

 こりゃあ無理だわって、馬鹿な俺でも悟れたよ。


 そんなわけで、今は何かで成功しようと考えもなくビッグになりたいと叫んでいるだけのろくでなしである。


 だが、ビッグになるって言う夢を諦めて実家に帰ろうかなって最近では悩んでいた。

 しかし、実家に帰っても引き籠りのニートになるのがオチだろう。いや、引き籠るお金すらない。

 現役ニートですら俺には夢の生活である。


 俺には才能がないのだ。

 勉強も出来ない。

 スポーツも出来ない。

 体力も根性も無い。

 お笑いのセンスも役者の才能もない。

 女の子にもモテない。それどころか誰にも好かれない。

 何よりお金がない。

 要するに貧乏でボッチの社会不適合者だ。ただのクズである。


 今は夢を叶えるよりも、小学生からやり直したい気分であった。

 もしも人生をやり直せるなら今度はちゃんと勉強やスポーツに励んで、誰とでも仲良くやって、大学を卒業して、ホワイトな会社に就職して真っ当な道を進みたい。


 まあ、叶わぬ夢だけれどね。


 そんな俺がバイトの帰りに寄ったコンビニ前で、若い女性がチンピラ風の酔っぱらいに絡まれている光景に出くわしてしまった。


 女の子は可愛かった。ポニーテールで俺好みの乙女だったのだ。

 故に俺は柄にもなく良い格好をしようと考えた。

 もしかしたら、このどん底の人生の転機になる出会いかも知れないと、淡い期待を抱いたからだ。

 ピンチから助け出した女の子と恋に落ちるなんて夢のある展開ではないだろうか。憧れちゃうシチュエーションだよね。


 だが、そんな妄想が大きな間違いだった。そんな都合の良いことなんて起きなかった。それどころか酷い目に遭ってしまう。


 俺は女の子を助けようとチンピラの背後に回り込むと、チンピラのお尻に指を立てて浣腸を尻菊に打ち込んでやった。


 ズブリと音を鳴らして俺の指が刺さるとチンピラが背筋を仰け反らして絶叫する。


 いや~、両手の人差し指二本が第二間接ぐらいまでチンピラの尻菊に刺さっていましたよ。嫌な温もりで生暖かったもの。


 女の子はチンピラがもんどりをうっている隙に逃げて行ったから俺も逃げようとした。何せ喧嘩はからっきしだからな。


 そしたらチンピラがマジで怒りだしやがってさ。


 そして、俺は走って逃げようかと思っていたけれどチンピラ野郎が拳銃を持ってやがって逃げる俺の背中を撃ちやがった。しかも、パンパンっと二発も撃ちやがった。もう、殺すき満々だよね。


 まさかチンピラが本物の拳銃なんて持っているとは思わなかったからバキュンバキュンって簡単に俺は背中を撃たれたのだ。

 そして、ドクドクと血が溢れて止まらなかった。それでも俺は死にたくなかったから生きようと藻搔く。フラフラの足取りで逃げ続けた。


 そんな感じでフラフラとしていると、脇の路地から飛び出してきた軽トラックに跳ねられた。

 凄い衝撃の後に俺は路上を回転しながら転がって、電信柱にぶつかってから止まった。


 全身が痛む。頭がクラクラする。手足も震えて動かない。それでも俺は懐からスマホを取り出すと119番に電話しようと頑張った。

 だが、携帯画面を震える指先で操作していると画面が突如消えてしまう。どうやら電池が切れたらしい。これでは救急車すら呼べない。充電ぐらい欠かさずやっておくべきだったと悔いる。


 そんな時であった。先程チンピラから助けた女性が戻ってきてくれたのだ。

 俺はこれで助かったと思ったさ。天使様の再来だと思ったさ。

 でも、彼女は俺のスマホを広い上げると、今度は俺の懐を漁りだして財布を抜き取りやがった。


 財布の中身を確認しながら彼女は冷め切った口調で述べる。


「ちっ、しけてるな。1000円しか持ってないのかよ。ぺっ」


 そして1000円を抜き取ると空の財布を投げ捨て立ち去ってしまったのだ。


「な、なんだよ、あいつ……。せめてスマホは置いて行けよ……。てか、救急車呼んでくれ……」


 そこからしばらく誰にも発見されず俺は人気の無い路上に放置された。

 体中が痛い。拳銃で撃たれた場所は既に感覚がなくなっていた。撃たれた弾痕から流れ出た鮮血が血溜まりを作っている。


「動けない……。だんだん寒くなってきた……。俺、死ぬのかな……」


 すると倒れている俺の眼前に人影が重なる。しかし、それは人ではなかった。小汚い野良犬だった。

 その野良犬は片足だけ後ろ足を上げると俺の顔面に小便をジョボジョボと引っ掛けてからどっかに行ってしまう。


「お、オシッコって温かいんだな〜……」


 こんな寒空では野良犬の小便ですら温かいのだ。これはなかなかの発見である。


 まあ、そんなこんなあって俺は気が遠くなって死んでしまった。一生涯の不覚である。柄にもなくヒーローぶるんじゃあなかったぜ。


 まさか浣腸が原因でチンピラに撃たれて、軽トラに轢き逃げされて、助けたはずの女の子に置き引きまでされて、挙句の果ては野良犬に小便まで掛けられてから死んでしまうなんて……思ってもいなかったよ。


 まあ、それで俺の一生は終わったんだけれどね。


 俺が自分の命を掛けて学んだ事は、拳銃は浣腸より強しって事と、轢き逃げは犯罪ですって事と、女性を信用したらアカンって事と、犬の小便は温かいって事を理解しただけであった。


 だが、死んでしまった俺には次の機会なんて来るのだろうか。

 ここで都合良く神様が出て来て異世界転生させてくれないかな〜。子供からやり直したいわ〜。

 それも淡い夢だろうな〜……。そんなに世の中甘くないよね。もしも人生が甘々だったらもっとマシな死に方しているだろうさ。


『その次なる機会、差し上げましょう』


 声?


 暗闇の先から女性の美しい声が飛んできた。それは澄んだ麗しい声色だった。


「ど、どなた様でしょうか……?」


 俺が問うと、前方に強い光が輝いた。その光の奥から女性の美しい声が聞こえてくる。


『私の名前は女神アテナ。オリンポス十二神の女神です』


「あ~、知ってる知ってる。オリンピックの神様だよね。うんうん、なんとなく知ってるぞ。だって有名だもんな~。金メダルとか作っている人でしょう」


『あまり詳しくは知らないようですね……』


 女神の声色が呆れていた。


「そ、そんなことないよ。アテナって、ほら、有名じゃん。世界史の授業で習ったよ。何をやった偉人かまでは覚えていないけれどさ~。たぶんオリンピックの初代主催者だよね。それに、いろんなゲームにも出てきていたしさ。著作権とかでガッポリ儲かってるんでしょう」


『偉人ではありませんが、まあいいでしょう。それにガッポリとは儲けていません……』


 よし、ごまかせた。俺の無知もバレていない。セーフセーフ。


「それで、なんのようですか?」


 俺が訊くと光が形を作り出す。光は人の形になった。モヒカンのような鉄兜を被った純白ドレスの金髪美女に変わる。

 左手には丸い盾を床につき、右手には輝く杖を持っている。

 首には髪の毛が蛇に変わっている悪趣味な生首のネックレスを下げていた。あれが噂のメデューサの首なのだろう。


 それにしても、すっげ~、ダサいコーディネートである。

 乳は──、まあまあのサイズ感だろうか。

 形は美しいが大きさがいまいちである。

 俺はもう少しだけ大きいほうが好みなのだ。


 俺がアテナの胸ばかりを見ていると、彼女がムスリとした口調で言った。


『何を私の胸ばかりガン見しているのですか……』


「やべぇ、バレた。ごめんなさい、悪気はなくってさ。癖だよ癖!」


『まあ、いいでしょう。美しい私に見とれるのは仕方ないことですから』


 うわ~、こいつ自分で自分を美しいとか言ってるよ。自信過剰なんだな。偉そうな神様っぽいな〜。高飛車だわ〜。


『ごほん、話を戻します。今回あなたをここに呼び寄せたのは理由があります』


「理由ってなんですか?」


『あなたにセカンドチャンスを与えます』


「セカンドチャンス……。人生をやり直せるってことかい?」


『はい。ただし、大まかな線路は私が引かせてもらいます』


 俺は少し声を凄ませながら言った。


「俺に他人が引いた線路を歩けと!?」


 そう言うのは嫌いだ。誰かに自分の進む道を決めつけられるのは嫌いである。

 もしも俺が親の決めた進路を素直に歩んでいたのならば、今頃は偉大な大統領になっていただろう。

 いや、日本人だから偉大な総理大臣なのかな?

 しかし俺は、自由を好んでアルバイト生活を選んだのだ。いつか大きな夢を叶えるためにだ。

 でも、夢を何にしようか探している最中に撃ち殺されてしまったけれどね。本当に困ったちゃんだわ〜。


『うぬ、言い方が悪かったわね。それでは言い直そう。お前にやってもらいたいことがある』


 呼び方があなたからお前に変わりやがったぞ。呼び捨てかよ。ちょっとムカつくな。


「命令は聞きたくないが、お願いならば聞くだけは聞くよ。それで、それはなんだい?」


『簡単なお願いです。それはあなたに魔王になってもらいたいのです』


「はぁ~……、魔王になれと……」


 ちょっと昔のアニメやラノベでよくありそうな展開だな。

 でも馬鹿馬鹿しい。正直言って魔王ブームなんて等の昔に終わってるがな。


『貴様に魔王になって、倒してもらいたい勇者がいるのです』


 今度は貴様呼ばわりかよ。秒速で態度が傲慢になっていくな。こいつ本当に神様か、偽物じゃないのか?


『貴様に倒してもらいたい勇者は破滅の勇者。いずれその世界を崩壊させる破壊神に覚醒するだろう人物なのです』


「だろう? 崩壊? 破壊神? なんだか曖昧な話だな」


 女神アテナは疑惑を向ける俺の視線を無視して話を続ける。


『戦いの神アレスがその世界に転生させた者から勇者が生まれ、その勇者はいずれ世界を破滅させる破壊神に成長すると予言が出ましてね。人間も魔物も大地までも絶滅に導くと予言されています。その勇者を捜しだして貴様に倒してもらいたいのです』


 説明がウザいぞ。


「なんか、話が面倒臭くないか。そんな面倒臭いことなら自分でやれよ」


 それに、この女神はなんだか偉そうで嫌いだわ~。美人じゃあなければ話しすら聞きたくないぞ。


『神は下界に必要以上の干渉ができないのです。干渉できるのは転生者を送り込むことと、その者に力添えすることだけなのです』


「まあ、だいたい話は分かった。要するに、俺が魔王になって、その勇者を倒せば世界が救われるってことなのね」


『そうなります』


「それって普通は逆じゃねえか。普通は勇者が魔王を倒すのが鉄則だろう?」


 まあ、最近の異世界転生系のラノベも普通な展開では誰も読んでくれないってことなのだろうさ。起承転結に際立った輝きが必要なのだろう。


 でも、アイデアが単純で安直だ。

 ただ設定を反対に変えただけでお客さんが呼べるような甘い世界でもなかろうにさ。その程度で話が盛り上がるとは思えない。


 俺が作家だったら、もっと格別なアイデアを散りばめるだろう。だとすると、まだ、何か隠してるっぽいよね……。

 その謎が悟れないってことは、俺には作家の才能が無いのかな。俺が作家になる夢を見ても叶えられないってことか〜。


 まあ、でも──。


「まさに面倒臭くねぇ~、かったるいわ~」


 それが俺の本音である。面倒臭いのは嫌いである。


「魔王が勇者を倒すって言うくだらない遊びに付き合ってられないぞ」


『だが、退屈はしないわよ。それと、この話を断れば、貴様の次の輪廻転生先はバッタだぞ。殿様バッタか醤油バッタかぐらいは選ばせてやるが、バッタは確定だ。ヒーローに改造なんてしてもらえない虫ケラのバッタだぞ。しかもいずれは崩壊する世界のバッタだ。もう二度と知的生命体には転生できないからな』


 バッタか~、バッタはないわぁ~……。

 これは酷い二択だな……。しかも最終的には崩壊する世界のバッタかよ……。これは脅しだよね……。


 ならばしゃあないか……。


「や、やります……。そんな風に脅されたら断れないじゃあねえか……。ズルいよ、大人と神様は……。本当にズルいわ〜」


『だが、魔王として転生するならば、貴様の能力を最強の無敵っぽく書き換えてやるぞ』


「おお、お約束のチート能力だな。でも、最強の無敵っぽくってなんだよ。ぽいだけで最強の無敵ではないんだな?」


『人間の完璧な最強無敵は我々女神の書き換えをもってしても至難だからな』


「まあ、いいか~」


 絶対に負けない戦いは戦いじゃあない。それは、いずれ必ず負けたくなるぐらい飽きるはずだ。

 負けるかも知れないって言うスパイスが戦闘を格別なご馳走に押し上げるのだ。

 だから俺は、完璧な最強も、完全な無敵も求めない。ほどほどが楽しいのだ。


 なんちゃってね~!!


 格好つけてみましたわ~、てへぺろ。でもやっぱり最強の無敵のほうが最強で最高だよね。負けないは大切である!


 俺は興味津々な表情で訊いてみた。


「それで、それはどんなチート能力なんだい?」


 これはこのストーリーの肝だ。ここで貰えるチートスキルでセカンドライフの質が変わってくるのだ。天国にも地獄にもなる。


『安心しろ。お前が授かる能力は、最強で無敵な能力だ』


「やったー、マジか!」


『しかし、その能力は転生先で、自分で探るがよい。それもまた一興だぞ』


「ここまできて勿体振るか、そんな意地悪を言うなよ。手っ取り早く教えてくれよな。俺は面倒臭いのが嫌いだって言ってるだろ」


『だが、安心しろ。それも本能で次期に分かるだろうさ。まるで説明書を読んだかのようにな。あとは貴様の読解力しだいだ』


 手探りの設定かぁ……。手抜きなんじゃあねえ?

 何より俺は読解力が低いと小学生のころから学校の先生によく言われていたのにさ。


『ただし、私は処女の誓いを立てた女神だ。貴様にもその誓いは守ってもらうぞ』


「えっ、俺にも処女を守れと……」


 てか、なんでこんなに美人なのに処女を守り抜くっていう馬鹿げた誓いなんて立てちゃうかな?

 それって美人の無駄遣いだろう。

 てか、こいつ処女かよ。人生の半分も楽しめてないんじゃないか。


『そう、貴様の転生は女体化転生だ』


「ええ~、女体化か~……」


 ああ、がっかりだな……。


「俺に女の子をプレイしろってか。安直だな~、俺は女体化で転生するのかよ……?」


 そんなの嫌だ。急にブラバしたくなってきたぞ。

 女性として男性に抱かれるより、男性として女性を抱くのが趣味である。

 何よりキモい……。ムッキムキの野郎に抱きしめられながらヘコヘコされるところなんて想像すらしたくない。絶対に御免だ。


「おいおい、女体化設定なんてもう古いぞ。ネタとしても堀尽くされているだろうに」


『嫌か?』


「当然、嫌だ!」


『ならば二択だ。女体化転生が良いか、処女を抱くと死ぬかで決めよ』


「こいつ、本当に二択が好きだな」


 俺は即答した。


「そんなもの後者に決まってるだろう!」


 当然である。俺は女性にたいして潔癖を望んでいない。バツイチ子持ちでも愛さえあれば問題ない。

 だから処女を抱けないだけなら、なんの問題もないだろう。処女以外を抱けば良いだけだ。


 下品な表現になるが、そもそも世の中には童貞や処女より中古のほうが物件として圧倒的に多いのだからな。

 ただ処女は貴重なだけだ。

 それに熟した果実のほうがテクニカルで美味しいことが多いと聞く。経験は初物を上回るのだ。

 ただ俺は、童貞を捨てる相手は処女のほうが良かったんだけどね。

 何せ俺が噂の希少種なんだから。


『じゃあ処女を抱くと死ぬ誓いってことでいいわね』


「うむ、仕方ないので、それはそれでいいぞ」


『では、転生してください、エリクトニオス』


「エリクトニオス、何それ?」


『貴様の新しい名前です』


「えっ、名前が決まってるのかよ!」


 しかもなんだよ、その舌を噛みそうになるほどのへんてこな名前は?

 何かモデルでもあるのかな?

 あとでググって調べてみるかな。


 そして俺は光の玉のまま漆黒の中を落下して行った。唐突の急降下である。

 すると星々が煌めく黒雲の上に出る。

 夜空だ。

 上空だ。

 そして、更に落下。

 黒雲に突入すると、数秒後に黒雲を貫き更に降下して行った。

 やがて薄暗い先に地上が見えてくる。緑色の森が地面いっぱいに広がっていた。

 それでもまだまだ高い上空だ。周囲に見える山脈の頂上より高い。

 続く急降下に少しずつ地上が近付いてきた。


 猛スピードで降下する俺は焦った。


「俺、パラシュートなんて装備してないぞ。これって、どうするんだ!?」


 大地が迫ってくる。すると視界に大きな建物が目に入ってきた。


 城だ。古城だった。山に聳えるボロボロの古城だった。そこに向かって急降下している。


「このままでは突っ込むぞ!!」


 激突する。古城の天井に激突してしまう。


「ひぃぃいいい!!」


 俺は城の上空から天井をすり抜けて、祭壇で祀られていた石の棺に飛び込んだ。石の蓋をすり抜け内部に飛び込む。

 気が付けば石棺の中には少年の体だけが横たわっていた。


 頭の無い少年の体だ。

 俺は、首無し少年の中にダイブした。

 そして、合体。

 魂の着地だ。


 魔王、降臨である。

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