21・瞬殺と捕獲

 ゴブリン五匹との戦いは続いていた。一度はゴブリン全員の攻撃を食らったが、勿論ながら俺は息絶えていない。不老不死の如く蘇っていた。


「キョェエエエ!!!」


「オラオラっ!!」


 俺は左右からダガーとショートソードを振るって襲い掛かってきた二匹のゴブリンの攻撃を両腕の二の腕で受け止めた。


「気合いだ!!」


 ザックリとダガーが俺の腕を突き刺し貫通して止まる。反対の腕を切付けたショートソードはザクっと腕の肉を切り裂き骨で止まっていた。


 俺は肉と骨の硬さで武器の攻撃を受け止めたのだ。


 傷口が痛む。痛むが気合で我慢する。我慢さえしたのならば数秒後には回復するのだから問題無い。それが無勝無敗の能力だ。


「ゴブゴブゴブ!?」


「痛てえんだよ!!」


 俺を攻撃して刃物を突き刺したゴブリンのほうが目を丸くさせて驚いていた。

 だが俺は構わず反撃に転じる。

 股を開いて踏ん張ると体を捻って勢い良く全身をスピンさせた。


「オオラッ!!」


 怒鳴った俺が体を振るうと腕に刺さった武器ごとゴブリンを振り回した。それはまるでハリケーンの勢いである。


「ゴブぅぅうう!!」


 その回転の勢いに負けたゴブリンたちが武器から手を放してしまう。そこに俺の打撃技が繰り出される。


「ぜあっ! ぜあっ!!」


 二連の廻し蹴りがゴブリンたちを狙う。稲妻のような二脚だった。


 前方に上段廻し蹴りを繰り出してゴブリンの顎先を蹴り飛ばすと、連続して後方に後ろ中段廻し蹴りを繰り出した。その後ろ蹴りでもう一匹のゴブリンを蹴り飛ばす。


 顎先を廻し蹴りで蹴られたゴブリンの体がツイスターのように回転している最中に、後ろ回し蹴りを腹部に食らったゴブリンが体をくの字に曲げて後方に飛んで行った。

 そして、木に背中をぶつけると前のめりにダウンしてうつ伏せのまま動かなくなる。

 顎先を蹴られて回転するゴブリンは千鳥足の酔っぱらいのようにフラついた後に倒れ込むとピクリとも動かなくなった。

 一撃必殺で二匹をノックダウンさせた。


「ちょりーす!」


 それから俺は両腕に刃物が刺さったまま正面に立つゴブリンに駆け寄った。


「次っ!!」


「ゴブゴブっ!!」


 俺は片足を高く振り上げた。俺の脹ら脛が顔半分を隠して踵が頭より高く上がる。そこからの急降下キックだ。


「死ねや、かかと落としだ!!」


「キョェエエエ!!」


 真っ直ぐに振り下ろされる俺の踵がゴブリンの脳天を強打した。ゴンッと硬い音が鳴る。その一撃でゴブリンの首が縮まり頭がへこむ。


 脳天を踵で蹴られたゴブリンは鼻血をブーっと吹くと尻餅をついてからダウンした。おそらく死んだだろう。


 一瞬の瞬殺劇が四匹のゴブリンを絶命に誘う。その瞬殺光景を目の当たりにした最後のゴブリンが踵を返して逃げ出した。


「強ぃいい、化け物ゴブ!!!」


「やっぱり逃げちゃうか〜」


 ゴブリンは振り返ることなく森の中を必死に逃げて行った。仲間を見捨てて逃げ出したのだ。


「情けねえ野郎だぜ」


 俺がその背中を見送っていると、木の上に潜んで見ていたハートジャックが俺の背後に飛び降りて来た。スチャリと軽い音を鳴らして地面に着地する。

 そして、片膝を付いた姿勢で畏まりながら俺に問うた。


「エリク様~、逃げたゴブリンを捕まえましょうか~?」


 俺は腕に刺さったダガーとショートソードを引き抜くと返答する。


「逃がして構わん。もともとゴブリン本体にも会いに行くんだ。歓迎の準備をさせてやろうじゃあねえか。だから追う必要はないぞ」


 ハートジャックが再び頭を下げる。


「はい~、畏まりました、エリク様~」


「それよりも──」


 俺は踵を返してハートジャックのほうを見ながら訊く。


「なあ、ハートジャック。ロープとか持ってないか。こいつらゴブリンたちが死んでいる間に手足を縛って拘束したいんだけどさ。生き返ったら逃げられないようにさ」


「すみません~。持っておりません~」


 ハートジャックが返答した時である。俺の足元で一番最初に頭を砕かれて死んでいたゴブリンの傷が回復して目を覚ました。


「あれれ、オラ、生きてるゴブ……?」


「いや、もう少し死んでてくれ」


 言った俺が起き上がろうとしていたゴブリンの後頭部を踏みつけた。ゴブリンは地面に顔面を打ち付けて再び赤い花を綺麗に咲かせる。


 俺は再びゴブリンが死んだのを確認すると、穿いていた短パンを脱ぎ出した。その行動にキルルが慌てふためく。


『魔王様、 なんでズボンを脱ぐのですか!?』


 突然の行為にキルルが赤面しながら驚いていた。両手で赤くなった顔を隠している。

 それでも指の隙間から俺のチンチロリンを凝視していた。


 別に俺の全裸なんて見慣れているはずなんだから堂々とガン見したらいいのにさ。てれちゃっても〜。本当にキルルは可愛いな。


 そんなことよりも俺は全裸になった理由を述べる。


「ロープが無いならロープを作るのみだ。ハートジャック、俺の短パンを刻んでロープを作れ、それでゴブリンたちの手足を縛り付けるぞ」


「え〜っと、そんな事して良いんですか。また全裸に逆戻りですよ〜」


「構わん。それよりも今はロープが必要なんだよ」


「了解しました~、エリク様~!」


 ハートジャックは俺から短パンを受け取ると鉈で俺が穿いていた短パンを細く切り裂き出した。そして、端と端を結んで即席のロープを拵える。


 その作業を待っている間に俺は全裸のままゴブリンたちをもう一回ずつ殺して黙らせる。


 それから即席ロープが完成するとハートジャックがゴブリンたちの手首を背中に回して縛り付ける。更に両足も縛って動きを封じた。


「エリク様~、これで四匹とも縛りましたよ~。もうこいつらは逃げれませんね〜」


「うむ、完璧だ。ご苦労だったなハートジャック」


「お褒めいただき感激で~す!!」


 俺に誉められたハートジャックは舌を出しながらハアハアしていた。尻尾がバタバタと高速で左右に揺れている。どうやら誉められて嬉しいようだ。


「こいつら分かりやすいな……」


『まるでワンちゃんですね……』


「合体モンスターとしては7対3で犬の要素のほうが多いんじゃないのか?」


『それよりも魔王様。思ったのですが、ご自分の衣類からロープを作らなくても、ゴブリンたちの衣類からロープを作れば良かったのではないでしょうか?』


「あ……。そこまで思い付かなかった……」


「でも、エリク様〜。ゴブリンの衣類はボロボロですよ〜。こんなのでロープを拵えても耐久力が無いと思いますよ〜。力任せに拘束が解けるのではないでしょうか〜」


「なるほどね、ハートジャック。良いところに気付いたな!」


『それじゃあ、ハートジャックさんのサラシをロープに……』


「断りま〜す。私はエリク様と違って露出狂の趣味は御座いませんので〜」


『ですよね』


「ですよねって、なんだよ……」


 そんなことよりも──。


 俺は縛られながら倒れているゴブリンを見下ろすと、怪しく微笑んだ。


「さてさて、こいつらはどうしてやろうかな〜。くっくっくっ」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る