18・文明開化希望

 俺はキルルにお尻の穴を向けながら訊いてみた。


「キルル、このズボン、俺のプリティーな黄門様がチラチラと見えてないか?」


『印籠なら見えてますね、魔王様』


 俺は短パンの穴に指を突っ込みながら言った。


「まあ、ズボンの穴ぐらい別にいいか。全裸よりましだからな」


『いいんですか……。お下品ですよ……』


 俺の側に寄ってきたキルルが呆れていた。

 そしてキルルが俺のズボンの穴を屈みながら覗き込んだ。


『可愛いですね♡』


「覗き込むなよ、キルル。そんなに俺のお尻はキュートかい?」


『はい、すっごくキュートですよ!』


 何を無垢に微笑みながら言ってやがるんだ、この幽霊少女は……。

 まあ、いいや。今は別にやらないとアカンことがあるんだ。それを先に済ませよう。


「それよりもだ、キング」


 俺がいきなりキングに話を振るとコボルトのリーダーは礼儀を弁えた族長らしく背筋を伸ばして受け答えた。


「なんでありましょうか、エリク様?」


 半裸の俺が問う。


「この辺に、他の知的モンスターは住んでいるのか?」


 もっと魔王軍を増やしたい。もっとモンスターの数を増やして町を作りたいのだ。

 まずは兵士の質より数である。数を揃えて、その中から実力者を選抜したい。

 そのためにも魔物に俺の鮮血を飲ませて戦力を増やしたいのである。


 キングは迷いなく答えた。


「この山の裏側に古びた遺跡があるのですが、そこにゴブリンたちが群れて救っております」


「遺跡にゴブリンか〜」


 丁度良い感じである。

 俺は顎先を撫でながら言った。


「ゴブリンの群れか~。それは丁度良いな。何匹ぐらい居るんだ?」


 キングは淡々と返す。


「オスメス子供を合わせれば、おそらく我らと同数ぐらいか、もう少し多いぐらいかと」


「ならば40匹から50匹ぐらいだな」


「はい!」


 キングは鋭い眼差して俺を見詰めなから訊いてきた。


「やはりゴブリンたちにもエリク様の鮮血を分け与えるのですか。 魔王軍に引き入れるために?」


 キングの言葉には不満の色合いが混ざっていることが悟れた。ゴブリンを仲間に引き入れることが反対なのだろう。


「当然だ。ゴブリンも我が軍に引き込むぞ」


「我々コボルトと、奴らゴブリンが同じグループとして行動を共にできるでしょうか?」


 キングの疑念は重々理解できた。今まで前例がないことだからな。

 コボルトとゴブリンが手を組むなんて、この世界ではあり得ないのだろう。

 だが、それが現実的に実現するのが魔王の鮮血の力だ。

 チート能力だから、種族間の蟠りすら書き換えてしまうのである。魔物の統一には、まったく便利な能力だ。


 俺はキングを宥めるように言ってやった。


「心配するな、キング。魔王の絆は魔物の在り方を変える。今までの個々の魔物から魔王軍の魔物として統一されるのだ。俺には、俺の鮮血には、その力がある。だから信じろ!」


 俺の自信ありげな発言に信頼を寄せるキングが力強く応えた。


「はい、畏まりました、エリク様!」


 主の言葉を疑わない。これは忠誠心のなせる技だ。


「よしっと!」


 キングの返事を聞くと俺は洞窟の出口に向かった。ノシノシと歩き出す。その後ろにキルルやコボルトたちが続く。


 俺は洞窟から出ると空を見上げた。樹木の向こうに青空が広がっている。燦々と太陽が輝いて見えた。


 俺の背後に立つキングに質問を飛ばす。


「なあ、キング。洞窟を捨てて、新たな家を建てられるか。 平地に家を建築できるか?」


 住み家を作るではない。家を建築できるかと訊いているのだ。

 この差がキングには悟れただろうか?

 知能が向上したかのテストである。


 キングは犬顎を擦りながら考え込む。


「んん~……」


 無理かな?

 無理なのかな?

 出来るよね?

 出来ますよね?

 出来ると言ってくれ。


 考え込んでいたキングが答えた。


「人が住むような家は見たことがありますから、作れるか作れないかでは分かりませんが、作れそうな気はします。最初は不馴れで上手くはできないかも知れませんが、徐々に研究が進み力量も上達するのではないでしょうか」


 賢明な回答である。俺が予想していたよりも良い返答だった。


「なるほど。最初はやはりヨチヨチ歩きからなんだな」


「はい、我々には経験が足りません。知識も足りません。ですが、経験も知識も積み重ねれば良いだけですからね。学べば良いだけです」


 笑顔でキルルが言う。


『最初は誰だって初心者からスタートってことですね』


「確かにな。よし、じゃあキングは文明革命に励め。家を築いて生活を向上させろ!」


「はい、魔王エリク様!!」


「あと、一匹でいいから道案内を用意してくれ。俺はゴブリンの様子を伺いに行ってくる!」


 俺の言葉を聞いたキングが質問で返してきた。


「我々も付いて行ったほうが良いのではありませんでしょうか。ゴブリンたちと戦闘に発展したら加戦できますぞ」


 俺は顔の前で手を振りながら返す。


「いや、ゴブリンを退治するのが目的ではないからな。むしろゴブリンたちを一匹も殺したくないんだよ。だから俺一人で十分だ。ただ道案内だけ用意してくれや」


 キングが素直に頭を下げる。


「分かりました、エリク様」


 言葉を返したキングが仲間を見渡したのちに一匹のコボルトに指示を飛ばす。


「ハートジャック、お前は森に詳しいからエリク様に付いていけ。道案内を命ずる!」


「は~い、分かりました、キング様~!」


 敬礼したあとにコボルトが一匹前に出てきた。娘のコボルトだ。

 そのコボルトは短パン一丁に、胸にはサラシのような布を巻いていた。


 娘のコボルトはスレンダーなスタイルには犬の毛が生えていたが、スマートなボディーラインがハッキリと分かる体型である。ちょっぴりエロイ感じの犬耳モフモフ乙女の可愛い娘さんだった。


 鮮血の力で変化したコボルトの女性は美女に近いスタイルに変わるようだ。

 その可愛らしいコボルトは腰に鉈をぶら下げて、背中にはショートボウを背負っていた。同じく背負った矢筒には数本の矢が刺さっている。


 駆け寄ってきたハートジャックたるコボルトが人懐っこい笑みで言う。


「エリク様、再び道案内が出来て感激です!!」


『「再び?』」


 俺とキルルがハートジャックの言葉に首を傾げた。もしかして、このコボルトは、森の中でファーストコンタクトで出会ったコボルトじゃあないかな?

 ここまでこいつの跡を付けてきたのだ。それが一回目の道案内なのだろう。

 俺が顔面を殴って殺したら逃げて行ったコボルトだ。こいつは偵察とか道案内キャラなのね。


 それにしても凄い変わりようだな。人間から見て、犬の性別は一目で分からない。

 それと同じように以前のコボルトの外見からは性別が分からなかったが、今はハッキリと分かる。

 女性コボルトの多くはモフモフだがナイスバディのスタイルに変わっているからだ。胸は小さ目だが腰付が安産型だった。


 俺はハートジャックの肩を叩きながら言う。


「よし、ハートジャック。ゴブリンの住み家に案内しろや!」


「はい、喜んで〜!!」


 こいつ、居酒屋の店員の乗りだな。

 まあ、元気が溢れているのは良いことだ。


 そして俺はハートジャックの道案内で森林の中に入って行った。目指すはゴブリンの住み家だ。

 古びた遺跡を目指して森に入って行く。


 こうして俺たちはコボルトの住み家をあとにする。




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