第11話 ドレスとおまじない 5
「この衣装、河野には少し大きんじゃない?」
シンデレラの水色のドレスを着た私に、王子様の衣装が良く似合う野村君がはっきりと感想を伝えた。
「試着せずに買ったから…」
胸と背中が大きくあいて、中に着ている白いタンクトップが動くたびに見えるし、ウエストの位置も本来の位置よりも下に下がっていて、誰かのお下がりを着ているように見える。
今日はそれぞれが用意した衣装を着て、本番さながらの通し稽古の予定なのだけど、体に合わない衣装をどうしようかと、恥ずかしそうにしている私の元へ、佐伯さんが寄って来た。
「河野さん。ちょっといい?」
佐伯さんは安全ピンをくわえながら、右肩の布をつまんで引っ張ると、安全ピンで止めた。左肩も同じようにすると、今度は、後ろに回り、私の身体にピッタリ沿うように少し持ち上げながら布を絞ると、背中の真ん中あたりで、何か所も安全ピンを止めた。
そして、前に回って少し離れると、ウエストの辺りを整えて、うんうん。と小さく頷いた。
「安全ピンで止めたところを、白いリボンで隠したら、目立たないと思う。私、リボン持ってるから、明日、持ってくるね」
佐伯さんはあっという間に、ぶかぶかのドレスをピッタリのサイズに直してくれた。
「すげぇ。小春にそんな才能あったんだ」
隣で見ていた野村くんが、私の着ているドレスと、佐伯さんを見て驚きの声を上げた。
「こんなの才能なんて言わないよ」
佐伯さんは恥ずかしそうに笑いながら、少し頬を赤らめた。
「ありがとう」
私は佐伯さんにそれだけ言うと、二人の元を離れて、大きな鏡の前へ移動し、佐伯さんが直してくれたドレス姿の自分を見た。
ピッタリだ。
安全ピンは気になるけど、体に合わないドレス姿より、よっぽどいい。
私は、少し離れたところで、楽しそうに話している二人を見て、もう一度、鏡に映る自分を見た。
私より背の高い佐伯さんなら、積めたりしなくてもピッタリなんだろうけど、今、このドレスを着ているのは私だ。
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