第20話 魔女にかける魔法 6

 ジメジメとした梅雨が終わって、夏休みまでの日数をついつい数えてしまう頃、隣の県に行く校外学習が行われることになった。

 4、5人で班を作って、行動する校外学習は、当然、仲の良い友達同士で班が作られる。だから仲の良い友達がいない私が取り残されることは分かっていた。そして私以外にも、取り残されるだろうと思っていた人たちもしっかり残っていたから、先生に「花音ちゃんもどこかの班に入れてあげて」と言われる前に、斜め前の席に座る雪子ちゃんに声を掛けた。

 「まだ班になって無いでしょ。私達4人で班を作ればいいと思うんだけど」

 雪子ちゃんは、少し驚いた顔したけれど、いつものようにゆっくりとした仕草で、教室を見渡した。班になってワイワイ騒いでいるみんなの中で、ポツンと席に座っているのは、私と雪子ちゃんと悠一君と、斎藤太輔さいとうたいすけ君の4人。

 雪子ちゃんは視線を私に戻すと、いつものように「うふふ」と微笑んで頷いた。

 OKって事だ。

 私は悠一君と太輔君も同じように誘って、私達4人は校外学習の班になった。

 

 斎藤太輔君は、白い肌に、短い髪の毛がライオンのたてがみのように茶色く立っている男子で、いつも姿勢が良くて背筋がピンと伸びている。体育が得意なのに、休み時間に外に遊びに行ったりすることはほとんど無くて、いつも宿題をしているか寝ている。

 4月の体育の授業で、高い跳び箱を易々と飛ぶ太輔君を見て「スゴイ」と声を漏らした私に、「太輔君は水泳の選手なんだよ」と、芽衣子ちゃんか誰かが、得意気に教えてくれたのを覚えていた。おまけに「毎日、バスで片道40分のスイミングスクールに通っていて、宿題をする時間が無いから、休み時間にしている」と、追加の情報も教えてくれた。

 運動全般、得意じゃない私は、梅雨が明けきらないうちに始まった、プールの授業を恨めしく思いながら、曇り空のプールサイドに座っていた。日差しの無い空は、水着一枚のむき出しの肩には肌寒くて、自然と自分を抱えながら、半袖の跡が付き始めた腕をさする。

 プールサイドの端に置かれたベンチに座り、ボーッとプールを眺めている悠一君を羨ましい目で見ながら「このプールの授業で風邪をひいたら、私もあそこに座れるかもしれない」と、自分を慰めていると、「やっぱ、スゲー」と誰か行ったのが聞こえて、プールを見た。

 何がスゴイのかは、すぐに分かった。綺麗なフォームで泳いでいる太輔君をみんなが注目している。

 「花音ちゃん、順番来てるよ」

 後ろの人にそう言われて、慌てて泳ぎ出したけど、さっき見た大雅君の泳ぎが頭から離れず、バタバタと手足をとりあえず動かしているだけの自分の不格好なフォームが恥ずかしくなって、25mを泳ぎ切るまで、3回も足を付いた。

 太輔君は体育だけじゃなくて、勉強も凄かった。

 授業で当てられて答えられなかった事は無いし、テストもほとんどが満点だ。おまけに、何でもできるからって威張っているわけでもなくて、出来ない人をバカにしたりもしない。

 クラスのみんなは、完璧な太輔君に一目置いていて、同級生なのに近寄り難い存在で、休み時間に気軽に遊びに誘う人はいなかった。

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