第4話 秘密の書4

 チャンスはたくさんあると思っていた。

 だって、青空君は同じクラスだし、同じ班だし。

 でも、自然と二人っきりになるなんて、無い。

 朝は余裕だった気持ちも、給食の時には焦りしか湧いてこなくなった。

 なのに、青空君とは朝から何度も目だけは合う。

 目が合う度に、昨日の事をからかわれると思ったけど、私より先に青空君が目を逸らすから、朝から何度も肩透かしを食らって、疲れた。

 あぁ、もうこんなドキドキはいらないから、早く青空君と二人にさせて。

 給食の味もメニューも覚えていないくらい、上の空で食べ終えると、掃除の時間を知らせるチャイムが鳴った。

 昨日と同じ音楽室に璃々ちゃんと一緒に行くと、珍しく青空君が先に来て窓を開けていた。

 チャンス!

 璃々ちゃんには悪いけど、何処かへ行って貰うため、必死で知恵を絞り出し、璃々ちゃんにお願いする。

 「璃々ちゃん、今日も倉庫に運ぶ物が無いか先生に聞いて来てくれない?」

 「え~、良いけど。昨日、いらない机、運んだばかりだよ」

 「うん、そうだけど。お願い」

 「分かった。じゃ、先にほうきで掃いておいてね」

 璃々ちゃんは渋々納得して、音楽室を出て行った。

 これで、青空君と二人きり。一応周りを見渡して、人がいない事を確認してから、机を後ろに運んでいる青空君の背中に向かって呪文を唱えた。

 「ダガ―シ アンクエ パナート!」

 「ニコちゃん、今日は無いって…」

 指先を青空君の背中へ振る直前に、後ろから強く肩を掴まれて、クルリと体の向きを変えられてた。

 私の指先は私の肩を掴んだ璃々ちゃんに向けられて、指先から出た光が、璃々ちゃんの体を包んだ。

 「あっ」

 私は急いで指をひっこめたけど、遅かった…みたい。

 「アレ?私、何してたんだったっけ?」

 目の前にいる私に、璃々ちゃんが首を傾げる。

 「お前ら、遊んでないで掃除しろよ」

 青空君が私達に向かって注意をする声を、背中で聞いた。

 璃々ちゃん、ごめん。

 心の中で手を合わせて、頭を下げた。

 「そ、掃除しよっか」

 私は何事も無かったように、璃々ちゃんに掃除ロッカーから箒を取り出して渡し、黒板消しをクリーナーで掃除している青空君を横目で睨みながら、次のチャンスを探した。


 上手くいかない時は、何をやっても上手くいかない。

 青空君に呪文を掛けるタイミングはやって来ないのに、璃々ちゃんには忘れる魔法をかけてしまった。璃々ちゃんが忘れたのは、私が青空君に忘れて欲しいと願っていた、私が魁君を好きだって事だけだった。

 まぁ、それくらいなら、特に問題は無いけど。

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